256話 避けられない会話
神社に向かう参道の桜の木は赤ピンクと鮮やかな紅葉でとても綺麗な風景だ。
紅葉はモミジ、イチョウの木がいいと思ったが、桜の木でも意外に美しい。
まあ、チトセの【創種】で秋の季節も楽しむために創ったかもしれない。
なかなか粋なことをしてくれる。
ここまでくると、日本を忘れず、帰りたいという憶いが伝わる。
チトセが地球の天界を選んだのも理解できる。
鳥居をくぐり、社内中央に守り神が座って待っていた。
『久しぶりだな。今回はどのくらい滞在するのだ?』
「ああ、3日ほどな、俺とソウタだけで来たってことはわかるよな?」
『む? チトセのことがわかったのか!?』
守り神は立ち上がり、尻尾を振りながら俺に詰め寄る。
「チトセのことなんだが――」
『ボクが言うよ。君には辛い話だけど、聞いてね――』
エフィナはチトセが今世が終わったこと、地球の天界に行ったことを伝えた。
守り神は耳と尻尾が垂れ下がり、落ち込む。
『噓だ……チトセとはもう会えんのか……』
『残念ながら、そうなるね』
「おいおい……そんな話聞いてないぞ……なんとかならないのか……女神様ならなんでもできるだろう……」
ソウタは何かほかに手段があると思っているが、無理な話だ。
『チトセが決めたことだから……。女神はそこまで万能ではないからね。もし、不正規で生き返らせてる手段があっても、この世の理に反するから無理だよ』
「そんな……」
ソウタは息が詰まった。
なんとしてでも守り神のお願いを叶えたいかったみたいだな。
『じゃあ、儂はチトセに見捨てられたのか?』
『違うよ、シャーロが言うには「もう一度いぬっころに会いたかったな」と言って去っていったよ。見捨てたりなんてしていないよ!』
エフィナの発言で守り神は涙を流した。
『そんなこと言ったら余計に会いたくなる……』
『ごめんね……ボクたちにはもうどうすることもできない……』
『いや、儂のワガママだ……。報告ありがとう……すまぬが、独りにさせてくれないか……?』
俺たちは神社を出る。
無理もない、現実を受け止めるのに時間がかかりそうだ。
このタイミングで言ったのは正しいかわからない……。
すぐとは言わないが、気を取り直してほしい。
ソウタはやるせない気持ちで、下を向いたままだ。
「なあ、レイ……チトセが地球の天界を選んだのが理解できない……この世界に家族がいるのに、なんでだ……普通ならここの天界を選ぶだろう……」
「俺の考えだが、両親に会いたいからだと思うぞ。この世界より、日本の思い出の方が良かったのかもしれない」
「日本がか? 俺には全く理解できない……確かに生活面では不便はないが、自由がない。それに比べてこの世界は自由でなんでもできる。俺はとしては理想の世界だ。もし、俺が死んだとしても地球の天界なんて行きたくない。絶対にここの天界で過ごす」
日本で辛い思いをしたソウタには理解はできないだろう。
まあ、不幸より幸福を選ぶのは当たり前だよな。
「人それぞれだから深く考えるなよ。温泉でも入ろうぜ」
「わかった……」
俺も心残りだが、一番辛いのは守り神だ。
エフィナの言った通りどうすることもできない。
だが、チトセの家族が魔大陸の島に住んでいるとシャーロさんが言っていたな。
守り神はチトセの子孫を会わせたら喜ぶかわからないけど、何をしていたか話を聞ける。
すぐとは言えないが、土地の開拓がある程度進んだら、魔大陸で情報を集めて捜してみるか。
考えても解決するわけではないし、温泉に入って落ち着こう――。
――温泉に入るのだが、先に入っていたヤーワレさんは鼻血を出して白目になって笑顔です……。
「天使の裸……最高すぎるぜ……」
…………うん、ダメだ、逆効果だ。
心配で一緒に行った輩3人組もニヤニヤしながら入っているのですが……。
一線を越えそうで不安になってきた……。
『ずっと母性が爆発していいね~。見てて飽きないよ~』
本当に母性だけなのか!?
傍から見たら欲情している感じだが!?
今に始まったことではないが、監視したほうがよさそうだ。
「ああ……また天国が見えるぜ……」
「「「あ、アニキ!?」」」
ヤーワレさんは温泉に顔を沈めて、上がってこない。
興奮してるのもあるが、のぼせましたね。
輩3人組は脱衣所に運んで安静にさせる。
小人たちと裸の付き合いはまだ刺激が強すぎたか。
これなら一線を越える前に倒れそうだ。
――夜になり、ミツキさんの出世祝いが始まった。
ミツキさんが好きな料理を出してみんな喜んでお祝いをする。
しかし、守り神の姿が見えない。
集会場に来ないから神社に行って料理を運んでもいなかったみたいだ。
小人たちは心配をして不安になる。
タイミングが悪すぎた……せっかくのお祝いを台無しにしてしまった……。
俺とエフィナはまだ言わないほうがよかったと後悔をする。
次の更新は22日です。




