25話 猪祭⑥
――馬車に運ばれて、ギルドの休憩室のベットで休んでいる……怪我はしていないし、魔力の消費が激しかっただけなのに大袈裟だよ……。
その分あまり動けないけど……。
セーレさんには最低でも2日休むように言われた。
これだともう狩りの参加はできないな……。
まあ、あのキングボアを倒したことだしゆっくりするのもアリか……。
精霊は心配してるのか、水を持ってきたり、食堂行ってサンドイッチを持ってきたりする。
ありがたいけど……。
それが終わったら頬っぺたスリスリするのは相変わらずだな……。
『レイはちょっと無理をしたからゆっくり休みなよ! それとアイシスには言ったからね!』
あ~これは心配されるな……。
そろそろ交代の時間だから来そうだな……。
――1時間後。
バタバタ足音が聞こえてきて――。
「ご主人様、大丈夫ですか!?」
「レイ君、大丈夫!?」
やっぱり心配されている……それにリンナさんも来た……。
ただ魔力を使いすぎたことを説明したがそれでも2人に心配された……。
その後にミランドさん、ブレンダ、カミラさんが来て――。
「レイ……ブレンダを助けてくれてありがとう! ……本当にありがとう!」
「お兄ちゃん! ありがとう! わたしの英雄!」
「ぼっちゃま! 今日はありがとうございました! 私はまだ未熟だと思いました! もっと精進します!」
感謝されるほどではないのだけど、ただ一心不乱に狩っただけなのに……。
そういえば狩った奴は無限収納にしまわずに持っていないけど、大丈夫だろうか……。
そろそろスールさんたちも帰って報告しに来るから、ホールで待って聞いてみるか。
身体もだいぶ楽になったしホールの方に行く。
ベットから起き上がると周りに心配されるが「大丈夫」と言ってみんなでホールに行く――。
――ホールに行くと……スールさん、アルロさん、それにキングボアとの戦いに参加した人たちが正座している……。
それとセーレさんは腕を組みながらご立腹の様子で仁王立ちをしている。ザインさんは呆れた顔をしています……。
「「「ごめんなさい……」」」
「アンタたち! 調子に乗りすぎ! キングボアを逃がすなんて情けないわ!」
「反省してます……」
「面目ねぇ……」
セーレさんはスールさんたちを説教しているみたいだ……あの状況でキングボアに逃げられるのはしょうがない気がする……。
「レイちゃんがいなかったら、ケガ人も出て、街にも被害が起きたじゃない!?」
「セーレさんそのくらいでいいと思います……」
「レイちゃん!? もう大丈夫なの!? まだ安静にして!」
「身体の方は楽になりましたので大丈夫ですよ」
「いや、良くないわ! そこのイスに座って!」
セーレさんに言われるがままイスに座った。
「セーレ……俺も、もういいと思うぜ……結果的に怪我人もいないしよー」
「甘いわ! 砂糖より甘すぎるわ! ギルマス! スールたちに処分が必要よ!」
処分とかそこまでしなくても……ザインさんはあんまり乗り気ではないみたいだ。
「処分か……今回は俺の予想外なことだったしな……ミランドはどうする?」
そこでミランドさんに振るのか!?
結構厳しいはずだ……。
「それは私の責任でもある……私もザインと同じで結果がすべてだ。むしろ、感謝している。今回のボアは異常に多くて凶暴だったから、皆、頑張って狩ってくれた。今回は例年と比べ、盛り上がり大成功だ。だからスールたちに処分なんて考えられん」
意外だった……ブレンダが被害を受けそうだったけど、そこは自分の責任にするとは、なんて器がデカい人なんだ……。
さすが、この街の領主だ。
あっ、スールさんが泣いている。
「だそうだセーレ、今回の処分はなしだ」
「むむむ……」
セーレさんは顔を膨らまして納得していないみたいだ。だが、リンナさんは――。
「ギルド長! 私は反対だわ! セーレの言う通りアニキたちに甘すぎるわよ!」
まずいな……しかも【威圧】を発動しながら言っている……。
セーレさんが頷いている……なんで精霊も頷いているのだ!?
「それだからSランクになれないのよ!」
「「「がはぁ!」」」
これは痛いとこついてきたな……リンナさんに言われてはおしまいだな……。
『これはキリがないね~レイ、君から処分を下せばいいんじゃない? それなら丸く収まるよ!』
結局、このパターンですか……まあ、しょうがないか。
「あの~俺が処分を下してもいいのですか?」
「レイが? まあ、言ってみろ」
ザインさんが話に乗ってきた。これなら――。
「キングボアとその群れをアイテムボックスに入れずにそのまま放置しました。それを回収するのはどうですか?」
「よし、それにしよう!」
即決だな!
「スールたちはすぐにレイが狩ったボアを回収しろ。リンナ、セーレ、それでいいだろ?」
「レイ君がいいならわかったわ……」
「それでいいわよ……」
2人は渋々納得してくれたようだ。
「決まりだな。この話は終わりだ。解散」
スールさんたちはギルドから出てボアの回収に行った。
ザインさんはため息をついて……。
「レイ、すまなかった。むちゃをさせたな。」
えっ!? ザインさんが謝ることではないのだが……。
「いえ、大丈夫ですから! 大事にしないでください……」
「もちろんだ、さすがにここまですると周りは黙ってはいないな…………」
やっぱり力を使いすぎたか、悪用する人が出てくるってことか。
「…………特にスールがなぁ~1番アイツが口軽いから面倒くさいことしょうがない」
そこですか!?
「あの……悪用されるとかではなくてですか?」
「何を言っているんだ? そんな奴いたらシバくに決まっているだろ! この大陸に悪用する奴がいたら重罪だ。そんなバカがいたら大陸の恥だ! それよりもスールをなんとかしないとな…………今回、俺がアイツに処分を下すとその反動で周りに言いふらす可能性があったから言わなかったが……はぁ~面倒くさい……」
確かにこの街で長く暮らしているが悪い人がいない、最初は貴族の人には悪い人がいて差別意識があると思ったが、みんな優しく、対等に接してくれる。ただ噂好きな人が多いが……。
それにいつもザインさんは大陸のことを話しているが、ほかのところもそうなのか? 自分で行って確かめるしかない。そうだとしたらこの大陸は本当に平和だ。
そして異常にスールさんが問題視されている……。
「アニキは本当に面倒くさい! こないだ精霊ちゃんのことを周りに言いふらしていたから大変だったのよ! 大ごとににするなって、あれほど言ったのに今でもムカつく! 縄で縛ってドラゴンのエサにしようと思ったわ!」
そんなに口が軽いのか!?
ドラゴンのエサにするとか……うん、リンナさんならやりそうだ……。
「私もそうよ! スールと偵察に行ったとき、精霊ちゃんのことしか話さないから呆れたわ!」
どれだけ精霊のことが好きなんだ!?
これはマズいな……精霊を見ると……今までにないほど震えている……。
「大丈夫だから……あの精霊の前でその話はちょっとやめてもらいませんか……」
「「ごめんね、精霊ちゃん!」」
これは一歩間違えればストーカーになりそうだな……。
まあ、とにかくスールさんが周りに変なことを言い出すから気をつけろってことだな……。
「大ごとになるならレイを私の養子にするのが1番だな! ブレンダもそう思うだろう?」
「うん! お兄ちゃんが家族になるなら大賛成!」
なんでそんな話の展開になる!? それにブレンダになにを言わせているのだ!?
「ミランド! 何度も言っているがレイは俺の息子だ! そうはさせない!」
はぁ~話がずれてきた……。
「あの……そろそろご主人様を帰らせてもらえませんか? 疲れていますので……」
アイシスはキリがないと思ってこのタイミングで話を終わらせようとする。
「ああ…すまない、レイはまだ歩くの大変だから馬車で送るよ」
――その後ミランドさんの馬車に乗り、屋敷に帰った。
帰った後もアイシスに心配されたままずっと傍にいてくれた……嬉しいけど顔が近すぎて少し困った……。
――――◇―◇―◇――――
――その後、2日が経った。
俺はその後狩りには行かず、ゆっくり休んでいる。
アイシスは俺のことがまだ心配らしく狩りは不参加である。
ここまで心配されると本当に申し訳ない……。
その後、リンナさん、セーレさんが見舞いに来てくれた。
リンナさんは両手をいっぱいにして大きな肉の塊を持ってきた……そして庭にドスッ――と置いた。
「これはレイ君が狩ったキングボアの肉よ! これを食べて精をつけてちょうだい!」
この肉は今回の報酬らしい……。
これは……1年間以上の量があるな……とりあえず無限収納にしまった。
セーレさんはキングボアを狩った後の状況を説明してくれた。
異常な大きさで強さはAランクと判定された。
それと周りにボアがあまりいなくなったらしく、明日には街の周りだけ警戒して、狩りの方は終わりらしい。
やっぱりあのキングボアが元凶だったのか……。
そのおかげで肉も多くもらったから良しとしますか。
その後、キングボアの肉を厚く切り、ステーキにして食べたが、今まで食べたボアの肉で1番美味しかった……。
こんなに騒がされた奴がこんなにも美味しいのは少々複雑な気持ちだった……。
さて、残りの期間は思う存分楽しもうか――。
街で賑わっている人だかりに混じり、思いっきり肉を食べて祭りを楽しんだ――。




