246話 女神の報告
リビングに入ると、広々とした空間で柑橘系の匂いがする。
ティーナさんの家と比べるとかなり大きい家だ。
シャーロさんとソファに座る。
『あれ? 引っ越したの?』
「違う……改装した……レイたちを住ませるためにね……」
住ませるって……気が早い……。
『ふ~ん、でも色々と増える可能性はあるけど大丈夫なの?』
「大丈夫……足りなければまた改装をするだけ……」
『なるほどね~。やっぱりシャーロはティーナとは違って計画的だね!』
「ティーナとは違う……これで格の違いを見せる……」
シャーロさんは拳を握りしめて尻尾を振る。
俺に拒否権がないのでお任せします……
「レイ……お菓子はある?」
「ありますよ」
俺は無限収納から作り置きしたミルクレープをテーブルに出した。
「これこれ……アタシもらったお茶を用意する……」
シャーロさんは湯吞に入った抹茶らしき物を出す。
「抹茶ですか?」
「そうだよ……日本の神からもらった……」
神様同士の付き合いだからもらってもおかしくはないか。
というか日本の神様と仲がいいのか……。
飲んでみると渋みもありながら、まろやかもある。
ミルクレープと相性もいい。
「やっぱり抹茶とミルクレープは合う……」
「それで、ここに呼んだのはなぜですか?」
「まずはお疲れ様……スタンピードを終わらせてありがとう……」
シャーロさんは頭を下げる。
「いえ、お願いなので頭をあげて下さい……」
「魔王が止められなかったことをしたから……当たり前のこと……」
「それでもあげてください……」
「わかった……それじゃあ次に話すのは良い話と悪い話だけど……どっちから話したほうがいい?」
悪い話があるのか……後のほうに聞くと後味が悪いから先に聞くか。
「じゃあ、悪いほうから……」
「わかった……レイがお世話になっている【創種】のスキルを使っている迷い人――チトセに会ったよ……」
「会ったのですか!? それ……悪い話ではないですか!? まさか……」
「察しの通り……天界に来たよ……その意味はわかるよね?」
今世が終わったってことか……。
守り神に捜すとは言ったが断たれたな……どう説明すればいいんだ……。
『そっか……守り神にはボクから言うよ。捜すと言ったのはボクだからね』
エフィナが言ってくれるのはありがたいが、気まずいぞ……。
でも早めに言ったほうがいいよな、近々会いに行こう。
「そうですか……何か知っている情報がありますか?」
「知っていることは……魔大陸のどこかの島でのんびり暮らしていたらしい……子供も生んで一児の母だったみたい……」
まさか魔大陸で一児の母になっていたのか。
子供もいれば魔大陸で骨を埋めるか、守り神に会える機会がなくなる。
「どこかの島とは?」
「アタシにもわからない……島なんて色々あるから把握していない……無人島の可能性もある……」
ですよね……痕跡がないからシャーロさんの言った通り無人島に住んでいたことはあり得るか。
「ちなみにその本人はどうされましたか? 天界来たらここにいると思いますが?」
「あの子は……地球側の天界に行ったよ……父と母に会いたいとね……」
「それじゃあ……もういないのですか?」
シャーロさんはゆっくり頷く。
「そう……もうここには二度と来れないよ……この世界の家族には申し訳ないがそれでもいいと言って、送ったよ……」
そっちを選択したのか……急にここの世界に来たから親が恋しくなるか……。
「最後に何か言っていましたか?」
「最後は……もう一度いぬっころに会いたかったな……とは言っていた……」
やっぱりチトセも守り神に会いたかったか……。
だが、もう会えないことではない。
「では守り神も今世が終わったらチトセのほう――地球に送りますか?」
『レイ……それは無理な話だよ……』
「無理なのか……?」
シャーロさんは下を向き、エフィナと一緒に息が詰まる。
「なんで無理なんですか? 一緒に転移したのですよ……」
「その守り神は……数百いたからアタシたちの世界に魂が定着した……多分だけど魔石も体内に生成されている……」
全く意味がわからないぞ……。
魂が定着するとかあるのか……じゃあ、なんでチトセは定着しないのだ?
守り神は人とは違う存在だからか?
「妖怪だから違うのですか?」
「そうじゃない……守り神はアタシたちの世界に適応してしまったと言ったほうが早いかな……レイが言っている妖怪ではなく……神獣として変化した……」
ややこしい……だが、エフィナは守り神を神獣と言っていたから本当だとは思う。
『守り神はそもそも日本では人に見えない架空の存在となっている……ボクたちの世界に転移したら守り神の存在が確認されるようになった。つまり守り神は日本――地球ではあまり確認できないけど、ボクたちの世界では存在を確認できるようになった。地球より存在があり、魂が定着したと考えて』
なるほど、存在の問題か……。
難しい話だが、わからない話ではない。
見えない存在が、こっちの世界に来たから、見えて魂が優先的に定着するって解釈でいいか。
その後、ここの環境に適応して守り神は妖怪だったのが、神獣として変化したことでいいのかな?
じゃあ、今世が終わっても俺と同じで地球側にはいけないのか。
「このことも守り神に言うしかないか……」
『そうだね……それもボクが言うから心配しないで』
「いいのか?」
『当然だよ、先に言ったのがボクだからね。今のボクはこれくらいしかできないからね』
なんか申し訳ないな……けど、これがエフィナのケジメなら止めはしない。
「わかった、頼んだよ」
『いつでも任せなさい!』
エフィナは元気よく言う。
その発言でシャーロさんはホッと安心をする。
もうこの話は終わりだ。
「それで良い話はなんですか?」
「致命傷だった魔王が元気になった……本当に良かった……」
喜んでいるのか耳を動かして尻尾を振っている。
致命傷だったのか……。
あれだけの魔物を相手するとそうなるか。でもまあ、俺たちとしては良い話だ。
魔大陸の人に愛されている人? がいなくなるのは大変だからな。
「良かったですね」
「うん……魔王がいなくなったら世界中が大騒ぎになる……特にズイール大陸の帝国の奴らが魔王がいなくなった隙に魔大陸を侵攻してくるから危ない……」
確かに危ない……帝国の奴らが何してくるかわからないな。
魔王ってこの世界で重要な存在ですね。
「これでアタシもゆっくり寝られる……ということでお菓子食べたら一緒に昼寝でもしよう……」
「一緒にですか? なんでです?」
その発言にシャーロさんは首を傾げる。
反応に困るのですが……。
「ん? 何って……もうレイと一緒に住む家で一緒に寝るのは当たり前でしょう……レイだってまだ寝足りないでしょう……?」
確かに寝足りないが、それとこれとは違う……気が早い……。
まあ、一緒に寝るくらいならいいか。
「わかりました……」
「うん……素直でよろしい……じゃあ、早く食べ終わったらベッドね……」
シャーロさんは小さく鼻歌を歌いながらミルクレープを食べる。
嬉しいみたいですな……じゃあ、俺って抱き枕的な扱いになりますね……。
お菓子を食べ終えると、何か身を覚えの圧が向かって来ます……。
シャーロさんは気づいたのか溜息つく。
「はぁ……お忍びで呼んだけど、もうバレたか……」
「ちょっとシャーロ! レイを勝手に呼ぶとはいい度胸ね!」
ティーナさんが来ました。
シャーロさんは俺に抱きついてくる。
「早い者勝ち……というかティーナ……勝手に入らないでよ……女神として恥ずかしい……」
「あら……それは悪かったわね……じゃなくて、家にレイ1人呼ぶのは卑怯よ! レイは私の家に住ませるのよ!」
「早い者勝ち……レイ1人じゃなく……エフィナちゃんもいるから……ティーナはいつも間違えてる……」
「あら、そうね…………関係ないわよ! いいからレイから離れなさい!」
『アハハハハ! ティーナが来るといつもおもしろいね! お腹が痛い!』
エフィナは大爆笑です……。
これだと昼寝ができませんな。
「しょうがないな……レイ……今回は残念だけど、お別れね……次は邪魔がない時に呼ぶから……」
シャーロさんは俺から離れて手をかざして、床から魔法陣が出る。
「しゃあね、2人とも……」
『じゃあね~! ソシアにもよろしく~!』
「待ちなさい!」
ティーナさんが近づこうとするが、視界が真っ白になり――目が覚めるとトリニッチさんの客室用の寝室のベッドにいた。
急だが戻って来た。
『いや~最後はおもしろかったな~』
エフィナは大満足のようです。
最後にシャーロさんは呼ぶって言っていたな。
もう、ここにいる時は呼ばないとは思うが、違うとこに像があったら呼ばれると思っておこう。
時間はそんなに経っていないからまた寝るか。
次の更新は30日です。




