230話 諦めが悪いです
みんな会議室に入って席に座り、ヴェンゲルさんが話した。
「昨日話した通り賢者御一行と精霊使いを向かわせる形でいいな?」
そう言うとみんな頷いて了承を得た。
「よし、話が早くて進みそうだな。サイガ、偵察者を向かわせていたのだな? 魔物はこの街にどれくらいで着く?」
「1週間くらいと予想しています」
「少し早まったな。だが、問題はないか。作戦はこうだ――」
ヴェンゲルさんの作戦は――俺たちは予定の3日前には街から出て東300㎞くらい離れている魔大陸の前の平地で待機をする。
そこでスタンピードを迎え撃つ。
万が一のことを考えて協会、ギルドマスターは俺たちが遠くから様子が見れる距離で待機して魔物の駆除をする。
他のみんなは後方――街から100㎞圏内で俺たちが逃した魔物の駆除をすることなった。
「――2日後には商業ギルドから大量の食材が運んで来る。運搬が終わり次第、街の周りを地魔法で囲み態勢を整える。それまではゆっくり休んでくれ以上だ」
安全確保のために街を囲むのは当然か。
スタンピード前だから切羽詰まっていると思ったが、準備も余裕ができるし安心ですな。
会議が終わった。
やることがないから街でも散策でもしようかな。
みんな解散を――。
「グランドマスター、なぜ俺は不参加ですか!? お答えください!?」
ドアから慌ててジャックが飛び出して来た。
状況を理解していないみたいだな。
ヴェンゲルさんは溜息をついて呆れていた。
「お前……ルージュとソウタに朝まで追っかけて迷惑をかけただろう……ルージュの尻を狙っている奴に任せられない」
「し、尻など追っていません!? 俺は戦乙女のことを全部知っています! 純潔を精霊使いに取られたくはないだけです!? 俺は芯の底から戦乙女を愛しています! わかってください!?」
異常だ……全部知っているとかストーカーじゃん……ド変態と同じ域ですね。
それを聞いた周りはドン引きです。
「コイツ大丈夫なのか……」
「俺たちと同じSランクだよな……」
「コイツ……大人しくさせたほうがいいよな……」
「そ、そんな目で俺を見るな!? 愛している人は誰だっているだろう!?」
「じゃあ、お前はルージュに愛の告白をしたのか? してもすぐに断れているだろうがな」
「そ、それは……」
ジャックは汗を垂らしながら固まる。
わかりやすい、図星ですね。
「もう諦めろ。ルージュはお前には眼中ではない。冒険者として頼っているだけだ」
「そ、そんなことはありません!? 何度断れてもその内を俺に目を引くはずです!? 俺は精霊使いより魅力がある男です!?」
自分で魅力があると言ったぞ……。
周りは「絶対にないから諦めろ」という視線でジャックを見る。
こういう奴ほど諦めが悪いよな……。
『うわぁ……誰かさんと同じで気持ち悪い……』
「コイツ……誰かさんと同じだな……惨いぞ……」
「い、嫌……この感じ……ド変態……」
「か、考えたくない……」
「あの人、い、嫌です……」
エフィナさんとザインさんは俺と同じようにド変態と重ねてきましたね。
精霊たちはも身体を振るえながらリフィリアの後ろに隠れた。
トラウマが蘇っていますね。
「あら、ジャック~またルージュちゃんを困らせると、どうなるかわかるわよね~」
トリニッチさんは拳をポキポキと鳴らしながらジャックに近づく。
またとは……いつもトリニッチさんがジャックたちの暴走を止めているみたいだ。
「俺は何もしていないぞ!? そう言うお前はいつも俺の邪魔をしやがる! なんでお前は戦乙女と仲がいいのだよ!? そこにいていいのは俺だ!」
「意味がわからないわ~。ルージュちゃんはワタシと同じ乙女だもの~仲がいいに決まっているじゃない。嫌になっちゃうわ~」
「お前男だろ!? 意味がわからないのはお前のほうだぞ!?」
「心は乙女よ~。親友を欲情して見るなら……いい加減に……しなさい!」
トリニッチさんがジャックの顔に殴ろうとするとジャックは剣を抜いて拳を止めた。
「さっきは油断したが、弱い拳だな。それでもSSランクか?」
「言うわね~その弱い拳で気絶したのはジャックよ。それでもSランクかしら~?」
「貴様!? 覚悟しろ!」
「両者とも、おやめください!」
「――シャドウバインド!」
ガレンさんが大声で言うと、ホルダーさんは闇魔法で2人を拘束して離れさせる。
「ごめんなさい……つい、カッとなって……」
「わかればいいのです」
トリニッチさんは潔く認める。
さすがSSランクの貫禄、だがジャックは――。
「ふざけるな!? 俺はオカマ野郎を切らないと気が済まない!」
影から離れようと暴れて抵抗をする。
コイツ本当にSランクか?
「無駄ですよ。アナタの力では私の魔法で逃げることはできません。抵抗はやめるように」
ホルダーさんは魔力を強めてきつく縛ってもジャックは動かそうと抵抗をする。
「ジャックさん、グランドマスターの前ですよ。それ以上恥をかくのはやめてください」
「俺は……諦めない……」
「ジャックさん、迷惑行為を大目に見ていましたが、限度があります。Bランクに降格させます」
Aを通り越してBに降格させるのか、それほどジャックは酷かったのか。
「なんで降格しなればいけないのだ!? 俺は何も――」
「いいえ、情報は山ほどありますよ。ルージュさんの自宅での張り込み、お風呂の覗き込み、買い物の尾行など迷惑行為があげられています。他にも――」
「ふざけるな!? 常に戦乙女を守っているのだぞ!? 何が迷惑行為だ!?」
思いっきりストーカーじゃないか!?
降格されてもおかしくはないぞ!? よく今まで処分を下らなかったな……。
「おい、その情報本当なのか!? 知らなかったぞ!?」
ヴェンゲルさんは驚いている。
ん? ルージュさんとそんなに関わりがあるのか?
「親代わりに育てたグランドマスターにとても言いづらかったので、伏せておきました」
まさかルージュさんもザインさんと一緒に親代わりに育てたのか……うん、納得です。
ということはスカーレットさんも同じか。
「てめぇ……今すぐ降格しろ! よくも大事なルージュを……今すぐ消え失せろ! 二度とルージュから姿を見せるな!」
ヴェンゲルさんは魔力を出して怒りが頂点だ。
当然ですな、これでジャックも――。
「いいえ、できません!? 例えグランドマスターであっても戦乙女から離れません! 女神ミスティーナに誓っても!」
マジかよ……自分の立場がわかっていませんな……。
このド変態、終わったな。
『えぇ……そんなことで女神に誓っても……ティーナに大迷惑なんだけど……』
エフィナさん、ティーナさんはそんな奴にスルーすると思うのでご安心を。
「おい、命令だぞ!? 身の程をわきまえろ!? 聞かなければ――」
ヴェンゲルさんも限界のようだ。
拳に魔力が集中しています。
「グランドマスター、落ち着いてください。私がジャックさんをSランクにした責任があります。私にお任せください」
「ガレンがか……しょうがない……お前に任せる」
ヴェンゲルさんはガレンさんの発言で渋々納得して魔力を抑えた。
ジャックの試験監督もしていたのか。
「ありがとうございます。ではジャックさん提案があります。私と勝負してください。ジャックさんが勝ったなら今までの非行を取り消します」
まさかの勝負ですか……。
ジャックは不気味な顔をして微笑んでいるが。
「いいだろう! 今すぐに勝負しろ! 絶対に俺が勝ってやるからな!」
「いいですよ。ですが私が勝ったらギルドカード没収に加え、街への追放です」
…………ジャックの方にリスクが多いが気のせいか?
バカげた勝負だから文句は――。
「ヘン、どうせ、俺が勝つから関係ない! 早く始めろ!」
…………コイツ、本当に終わったな。
次の更新は25日です。




