22話 猪祭③
ボア祭は5日が経過したが、ボアの群れは減ることがない。
既に3日間で去年狩った以上の数に達している……今回は本当に異常だ……。
まあ、今のところ怪我人の報告もないからまだいいとして、それにみんな5日連続で狩っているが疲れているかと思ったがイキイキとして、笑顔でいる。
大量に狩ったボアの肉は例年以上にたくさん食べられてテンションが上がってる。
そして肉は上質で毎日食べても飽きない。
今までそうだけど今年は別格でボア祭の中で1番美味しい部類になっている。
それだと士気も上がりますよね……。
――6日目の朝。
朝食はもらった肉を薄くスライスし、香辛料、塩、胡椒をしロングオニオンと一緒に炒める。
前回作ったうどんの麺とスープを無限収納から出し、麺を茹でて肉うどんを作ってアイシスと食べた。
朝から少しガッツリだと思うけど、今日から30㎞先まで広げて狩るからこのくらいがちょうどいい。
朝食を終え、準備をして指定された場所に赴く。
アイシスはザインさんに食料庫の肉が多くなったから氷魔法を使って冷凍保存するように頼まれ、その後狩りに向かう。
俺と精霊は先に行く――城門前にブレンダと護衛のカミラさんがいた。
「おはよう! お兄ちゃん! 精霊さん!」
「おはようございます!」
「おはよう、ブレンダ、カミラさん」
「ぼっちゃま聞いてください! 昨日、お嬢様がビッグボアを1人で仕留めたのですよ!」
「それはすごいな! よく頑張っているな!」
「えへへ……」
まさかこの歳でビッグボアを狩るなんて大した少女だ。ミランドさんも娘の成長に喜んでいるだろうな。
「今日から狩る場所が広くなるけど大丈夫かい?」
「うん、大丈夫!」
5日連続で疲れていると思ったが、空元気でもなさそうで大丈夫みたいだ。確か2人は15㎞圏内までいい条件になったはずだ。少々危ないが――。
「心配ありません! 私がお守りしてるので大丈夫です!」
この人がいれば距離が広くなっても大丈夫か。
「それじゃあ、2人とも無理せずに」
「うん、またね!」
「ぼっちゃまも、気をつけて!」
2人に挨拶をして、指定された場所に行く。
――指定場所に着くと朝の担当がいて、交代するように言う。
倒したボアの収納を頼まれ、その人は街へと戻った。
さて、頼まれたボアたちを収納するか――周りを見回すと明らかにビッグボアの数が多かった……。
そうなるとこの周辺か、その先にキングボアがいるに違いない。しかし【魔力感知】では大きな反応はない。
すぐ近くにいても大騒ぎになるから、出ない方が助かるのだが。
いつも通りボア狩りをする――。
――6時間後。
夜の担当の人が来て交代する。今日はビッグボア52頭、ブラウンボア100頭以上を狩った……。
うん、ビッグボアが多くなってきたな。それにしても減るどころか、周囲にはボアがたくさんいる。終わりがキリがない!
このボアたちは街に向かって来ないからまだいいが、もし群れで来たらみんなで対処できないだろう……。
まあそんなことがないように30㎞に広げたのだろう。あとは地道に減らすしかないか。
――城門前で狩ったボアを解体担当に渡し、アイシスに念話を送り、合流して屋台で薄くスライスした肉と野菜のサンドイッチを食べ、6日目が終わった――。
――――◇―◇―◇――――
――7日目。
変わらずボアを狩り続けているが、1時間経過した。精霊は疲れた顔をしている。
さすがに連日手伝ってもらっているから無理もない。
「疲れたなら休んでいいよ」
精霊は首を振り拒んでいる。
まいったな……このままだと魔力が切れて倒れる可能性がある……。
『ちょっと危ないかな、レイ、あの子に魔力をあげてみたら?』
「そんなことができるのか?」
『人によって適性はあるけど、あの子は風の精霊だからほら、レイは風魔法を使えるから大丈夫だよ!』
「じゃあ、やってみるよ」
『うん! それと風を分け与えるイメージであげてね!』
風を分け与えるか……とりあえずやってみるしかない。ボアも来ないからタイミングがいい。
精霊を手のひらに乗せて、魔力と風を精霊に流し込むようにイメージした。
精霊は輝き始め、顔色も良くなった……あれ? 少し顔が大人っぽくなったのは気のせいかな?
それに魔力が五分の一持っていかれたような気がする……。
「これで大丈夫かい?」
精霊に問いかけると、笑顔でいきなり俺の頬に近づき、顔をスリスリする……むちゃくちゃ喜んでいますな……。
『あれ? 成長したみたいだね』
「成長って……まさか契約でもしたのか!?」
『それは違うよ! たぶん、レイが思った以上に魔力をあげたか、その子と相性が良すぎるか、だと思うよ!』
そうなると前者があり得るか……それはわかったけれど、精霊さん、そろそろ離れないとボアが来ますよ……。
――――ドドドドドドドドド――――。
このタイミングで数十頭の群れが来た……またいつものパターンで「アーストラップ」でも使うか。
すると、精霊が顔から離れてボアの群れに向かう――。
「いくら成長したからってそれはダメだって!」
精霊は胸を張って「大丈夫だよ」みたいな感じで、群れに向かった……。
『まあ、あの子なら大丈夫だよ!』
もうボアの群れが近づいて危ない――。
精霊は詠唱をしている――魔力の量が違う中級魔法でも使うのか?
「――――エアリアル・サークル」
ボアの群れは空中に浮かぶ風の球体に吸い込まれて身動きが取れなくなった……。
しかも……。
「しゃべった!? それに知らない魔法まで使うとは……」
『しゃべるのは魔力を多く消費する魔法だけだよ! それほど魔力が必要ってこと!』
「じゃあ中級魔法ぐらいから言葉を発するってことでいいのか?」
『そういうこと! それにあの子はオリジナルの魔法も使えるから大した子だよ!』
やっぱりオリジナルなのか!?
………すごいとしか言いようがない、それに風に飲まれたボアの群れはどうするのだ?
このパターンだと魔法を止めて落とす感じがするけど。
また精霊は詠唱をしている――。
「――――エア・プレッシャー」
「「「――――ブヒィィン!」」」
ボアの群れを思いっきり地面に叩きつけた――風で圧をかける魔法だ。
脳震盪どころか即死だなこれは……。
精霊はボアが倒れたのを確認して、こっちに来てまた顔をスリスリする……。
『あ~この子と相性良いみたいだね……多分だけどレイは風魔法中級は使えると思うよ』
「なんで!? 魔力あげただけだぞ!?」
『ビッグボアがこっちに来てるから試しにやってみなよ』
精霊も頷いている……風の中級魔法か……じゃあ風魔法の中でこれを使えば1人前になる魔法を使うか――。
風の槍をイメージしてビッグボアの頭を目掛けて――。
「――――ウインドランス!」
「――――ブヒィィン!」
ビッグボアの頭に風の槍が貫通をした……。本当に中級魔法が使えた……。
「これだと契約しているみたいだな……」
『だから違うって! そう思うかもしれないけど、魔力をあげた分のお返しにこの子がレイに風魔法を使いやすいようにしたってこと! 言わば等価交換みたいな感じ!』
精霊が頷いてた……契約もしないでそんなことできるのか!? 理屈はわからないけど、得るものは大きい……本当に等価交換なのか?
それにしては俺の方が得をしてるけど……まあ、精霊のご厚意ならありがたく使わせてもらうよ。
――その後、交代の時間になり、街に帰る。
…………いや、いつまで顔をスリスリしてるのだ!?
ボアが来るときは空気を読んで離れているけど、それ以外はずっとこのまま!
『ハハハ、成長できて嬉しいみたいだね!』
「それはいいけど、そろそろ離れてくれないかな……」
そう言っても精霊はやめなかった……今日は諦めるか……。
城門前で解体担当の人にボアを渡し、アイシスに念話して帰るとしますか。
『アイシス、今どこにいる?』
『ご主人様の後ろにいます』
後ろを振り向くとアイシスとリンナさんがいた。
「レイ君、ちょうど良かった、仕事が終わったからこれからみんなで一緒に夕食を……精霊ちゃんが成長している!?」
やっぱりわかるのか……とりあえず説明した方がいいな。
リンナさんに精霊が成長した経緯を説明した――。
「なるほどね……そんなことが……周りには支障はないけど、またアニキが興奮する……」
それを聞いてた精霊は震えが止まらない……すごく頬っぺに振動が伝わる……。
「大丈夫よ精霊ちゃん! そのときは私が守ってあげる!」
震えが止まった、精霊も頷いた。リンナさん、男気ありますね。
それにアイシスが何か言いたげだ。
「精霊が顔に……ラブラブですね……」
「いや、そんなんじゃないから!?」
「ら、らぶらぶ?」
しまった、この世界にこの語源はない……。
「絆が深まっていることですよ」
ナイスフォローって……ワザと言ったな!
「ふ~ん……そうなんだ……それじゃあ!」
「いっ!」
リンナさんが俺の腕を組んだ……しかも力が強い……。
「私もレイ君とラブラブする!」
なんでそうなる!?
「ご主人様、私も失礼します」
アイシスも俺の腕を組む……お前もなにやっているんだ!?
『ハハハ、両手に顔にも花っていいね!』
エフィナも茶化すんじゃない!
「それじゃあ、行きましょう!」
このまま歩いて屋台で夕食を摂った……。




