215話 謁見
長い廊下を歩き、ヴェンゲルさんは止まる。
派手に宝石がついて、金製の大きな扉――奥は謁見の間だ。
扉をゆっくり開けると――大広間で床には赤い絨毯が敷かれていて、窓はステンドグラス製といった作りだ。
真っ正面――2つ設置してある玉座に座っているのは10代後半くらいと若々しく、赤いマント、宝石を散りばめられたミスリルの王冠をかぶっていて、女性と間違われるほど中性的な顔立ちをしている金髪ロングの男性エルフに、王女さんとほぼ同じくらいの若さでミスリルのティアラと赤いドレスを着た髪を束ねた美少女のエルフ――王様と王妃だ。
2人とも魔力が桁違いだ。
普通のエルフと違い、2回り、いや、3回りも違う。
これが王族の貫禄ってやつか……。
隣にはドレス姿の王女さんが立っている。
『う~ん、やっぱり誰かに似ている……』
またエフィナが急に言い出した。
どちらかと言うと魔力が似ている人がいるが……気のせいだろう。
そして周りは少人数しかいない。
ファイスさん、スカーレットさんに、役人らしき30代後半の髭を生やした獣人の男に、修道院にいるような服装――いや、豪華な飾りをつけているから司祭らしき50代前半の短髪の男に、少しぽっちゃりとした水色の髪型で20代前半くらいの女性――シスターが待っていた。
俺のイメージだと大勢の貴族を呼んで謁見をすると思ったが、違うようだ。
まあ、すぐ戻ってきて集まりはできないから、こちらとしては助かる。
「陛下、連れてきました」
「おお、其方たちがそうか! 会いたかったぞ!」
王様は笑顔で言う…………あれ? 全然堅苦しくはないぞ……すごいウェルカムだが……。
「アナタ……」
「はっ!? す、すまぬ……」
王妃がひと声かけると、王様は硬い表情になる。
取り乱しましたね。
スカーレットさんはクスクスと笑っている……。
その姿を見て司祭らしき男とシスターはムッとした表情をする。
「女神教会の奴がいるから油断しないでくれよ……」
ヴェンゲルさんはため息をついた。
やっぱりあの2人は教会の関係の人か。
じゃあ、もしかしてあの女性が聖女なのか?
『ん? あのぽっちゃりの子、ティーナの加護ついているね』
聖女が確定しました。
だからお告げが聞けるのか。
玉座の近くに寄り、俺たちは膝をつく。
「顔を上げてくれ、余は、このプレシアス大陸の国王である――ディカルド・ミスティ・エレントアーネだ。そして妻の――」
「カーネリザ・ミスティ・エレントアーネです」
「此度は余の急な申し出ですまない、名はなんと申す?」
王様の問いに俺たちは名前を言い、謁見が始まった――。
「うむ、覚えたぞ。しかし……こうして見ると不思議でしかない。小人族、精霊にブルーワイバーン……手を取り合っているのは珍しい。まさに平和の象徴だ。この大陸に相応しい――」
「陛下……本題を……」
王様が盛り上がっているところ役人が止めて、少し落ち着いた。
「すまぬ、つい興奮してな。では本題に入ろう――我々の宝である王国騎士を救ってくれ感謝をする。今すぐにでも其方たちの歓迎会をやりたいのだが、大ごとになってしまった。魔大陸で大量発生した魔物がもうじきこちらの大陸に来る。そして不可解なことがあったそうだ。司祭――ベースン・ユクーゼ、聖女――アマ―二・キュリセットよ」
「はい、ではアマ―二から――」
「私が申し上げます。――先日、女神ミスティーナの像にお祈りをしていたところ、頭の中に透き通った美声が響きました……賢者の息子と弟子……3体と契約をしている精霊使いが必ずプレシアス大陸を守ってくれようと……間違いなく女神ミスティーナのお告げです……」
ティーナさん……細かく言ったな……完全にお呼ばれしますよね……。
『アハハハハ! 美声って何それおもしろい! ティーナの声って普通で綺麗じゃないのに! よく酒を飲んで声をからしているけど!』
エフィナさん、しれっとディスっています……。
聞かれていたら怒られますよ……。
「ということだが、最初は信じられなかった……だが、この目で確かに確認するとお告げの通りの其方たちが来た。間違いないと思った――」
王様……目を輝かせないで言わないでください……。
困ります……。
「そこで不躾な申し出ではあるが、大陸の危機だ。其方たちの力を見込んで前線で戦ってくれぬか? 報酬もある……考えてくれぬか?」
前線ですか……数万の魔物を前線は――。
『わ~い! たくさん魔物が狩れる!』
『まさかアタイたちを前に出すとか王様、気が利くじゃないか! 珍しい素材が根こそぎ回収できるぜ!』
ルチルとフランカは大喜びです……。
この場ではしゃげないから念話で送ってきます。
まあ、前線と言ってもみんなで狩るから問題はないか。
ソウタを見ると、頷いて答えてくれる。
喜んで引き受けるとしよう。
「国王陛下、代表として私が申し上げます」
「おお、賢者の弟子アイシスよ。もう決めたのか?」
アイシスが言ってくれるのか。
先に王様と面識があるアイシスなら言いやすくてこちらとしてはありがたい。
「私たちは喜んで引き受ける存分でございます」
「おお、そうか!
「ですが条件がございます」
「条件? 限りがはあるが言ってみよ」
アイシスさん……何、王様に条件を出しているのだ……やめなさい……。
「はい、私たち以外を前線に出さない条件でお願いします」
ちょっと待て!? 何勝手に決めているのだ!?
そんなみんなが――。
『アハハハ! いいね! おもしろい提案だ!』
『わ~い! いっぱい狩れる!』
『良い条件だな! アイシスも気が利くぜ!』
『2人とも賛成しているからしょうがないわ……無茶ぶりだけど仕方がないね……』
全然問題ありません……けど、ソウタと精霊たちは冷や汗かいています……。
ですよね……。
アイシスの発言で、周りは驚きを隠せなかった。
司祭はにやけて、聖女さんは目が輝いている……予言通りになると思ったのか……。
「な、なんと!? 其方たちだけで戦うと申すのか!?」
「さようでございます。理由がございます――私たちが前線に行くといことは皆様に危険が及ぶ可能性があるからでございます。魔法で敵を一気に制圧します。手加減ができないので、皆様に怪我をさせてしまうと大変でございます。できれば逃した敵を後方で仕留めるようお願いしたいです」
なんとなくだが、誰も前線で戦わせないのは魔剣を使って全力で戦うのと見せたくないからだと思う。
確かに魔王が魔力が尽きるほどのスタンピードだと魔剣は必須事項だ。
「そ、そんな力があると言うのか!? さすが賢者の弟子だ……余は良いと思うがグランドマスター、ヴェンゲル・ガルタット……其方の判断で任せる」
やっぱりヴェンゲルさんの許可が必要だよな。
腕を組んで悩んでいる。
「時間をください……」
ですよね……急には決められないか。
「良かろう。ではこれから余と考えようぞ。其方たちもまだ帰らぬようにな」
えぇ……終わりではないのか……。
こうして一部の人を取り除いて謁見が終わり、司祭、聖女、ファイスさん、スカーレットさんは広間から出ていった。
王様がホッとして――。
「其方たちはもう肩の力を抜いて良いぞ」
……はい?
そう言うとヴェンゲルさんは大あくびをしてのびのびとする。
「全く……女神教会の奴がいると普通に会話ができない」
ん? どういうことだ?
すると扉が開いて、ファイスさんとスカーレットさんが戻ってくる。
「2人は帰ったか?」
「はい、ですが油断はしていけませんので、ここでお茶でいいかと思います」
「そうだな、ではジェストよ。用意を頼む」
「わかりました」
獣人の役人――ジェストは広間から出ていった。
聞き間違えではないよな……スカーレットさんがお茶と……。
「ほら、お前さんたち、終わったから楽にしろよ」
楽にしろとは言っても、状況が把握できないが……。
「これはいったい……」
「余が説明を――いや、僕が説明するよ。本当ならこのくらいで謁見とかしないで一緒にお茶を飲んで話したいところだったけど、どうも教会が予言予言とうるさくて、君たちに会いたくて困っていてね……だから仕方なく謁見をした。ごめんね」
さっきまで王様の堅苦しく言葉を使わないで普通に会話している……これが素なのか……。
まさか教会のせいで俺たちは城に行くのは強制だったのか……いや、会いたいと言っていたから、教会を利用した感じはあるが……。
「教会がいると空気が重いですわ。礼儀をしっかりしていないとすぐ睨みつけて、怖かった……お兄さん、そのときは助けてね」
「えっ、あっ、ああ……」
スカーレットさんがソウタにウインクをする。
絶対噓だ……というかみんな教会の人間に良い印象はないみたいだ。
「おっ、ジェストが戻ってきたからみんなでお茶でも飲もう」
ジェストとメイドたちがテーブルとイスを運んできて、みんな躊躇いもなく座る。
あの……ここ謁見を間ですよね……普通にお茶していいのですか……。




