209話 違うのか……
ヴェンゲルさんは魔力を徐々に出して俺の剣がヒビが入り、粉々に砕けた。
押されている……再び白金の剣を2刀創り、立ち向かうが、すぐに砕け散る。
剣に魔力を多めに通しているが、魔力ごと削れて、破壊される。
【破壊者】は魔力も通用するのか……ジリ貧だな……。
「どうした? お前の力はその程度ではないだろう! もっと力を示せ!」
えぇ……ヴェンゲルさんが気が済むまで終わらないな……。
じゃあ、早く終わらせますか。
後ろに下がり、結晶魔法を使う――。
「――――クリスタルソード! ×2」
虹色に輝く結晶の剣を持ち、槍斧を受け止める。
さすがの【破壊者】も硬い剣は壊せないみたいだ。
「やっと本気になったか、俺の攻撃耐えて見せろ! ――――旋舞狂華!」
全力で来るのですか……だが、今の俺なら余裕で受け流せる――。
「――――極晶乱華!」
力強く大振りしながら襲いかかって来るが、俺も負けじと剣を交わす――。
「――――な、何!?」
一歩、一歩と前に押していき、槍斧は2本ともヒビが割れ砕け散った。
「これでいいですか?」
「まさか俺が押されるとはな! ハハハ! さすが俺の孫だ! 本当に強くなったな!」
「――――いっ!?」
ヴェンゲルさんにバシバシと背中を叩かれる。
あれだけ魔力を使っても平然としている……。
さすがグランドマスターだけある……。
しかし、稽古用の武器であれだけの強さはおかしいです。
自分専用の武器ならミスリルの硬さなら余裕で破壊できるかもしれない。
途中から来て見ていた騎士たちの拍手が鳴り止まないです……。
王女さんが駆け寄って――。
「す、素晴らしいですわ!? 師に負けないくらいの強さ! 感服いたしました! 是非私にも稽古をお願いします!」
噓でしょ……王女さんとするのですか……。
「ハハハハハ! クラーラ嬢に気に入られたようだな! 国王陛下が来るまで相手しろよ!」
ヴェンゲルさんは高笑いして言うが、俺としたら物凄く困る……。
稽古して怪我でもしたら首が飛びます……。
「早速と言いたいですが、今日はお疲れのようで明日お願いします。昼食まで時間がありますので泊まるお部屋に案内します」
明日から……逃げ出したいのが本音だが、怪我をしないように策を練るしかない。
案内をしてくれるメイドと一緒に城内に入り、階段を上り2階へ行く――。
俺たちとソウタたちで隣同士の2部屋で分けられている。
「じゃあ、何かあったら呼んでくれ」
ソウタたちと別れ、部屋に入ると――広すぎる……豪華なホテルより広いぞ……。
さすがお城といったところか。
「わ~い! フカフカのベッドだぁ~!」
ルチルはベッドに思いっきり飛び込んで喜んでいる。
俺はイスに座り、ドッと疲れが出る……。
5日ほど城内にいて、しかも王女さんの相手もしないといけない……。
気がめいります……。
「王女殿下と御一緒に食事をするので、フランカとルチルはこれに着替えてください」
「そうだな。今回は正装しないとな」
「わかった!」
アイシスは無限収納からゴシックロリータの赤とオレンジ色の服を出す。
鎧のままだと失礼だよな。
2人は鎧を脱ぎ、着替える。
「ご主人! アタシ似合う?」
「ああ、とてもお似合いのゴシック――」
いや、ちょっと待てよ……アイシスはゴスロリをメイド服と言っていたな。
まさかこれも……だったら――。
「――メイド服だな」
「ん? これメイド服なの?」
ルチルは首を傾げる。
本人はわからないが、アイシスが作ったから間違いなくメイド服だ。
アイシスの反応は――。
「ご主人様、これはゴシックロリータでございます。確かにメイド服に似ていますが違います」
『やだなぁ~レイは何言っているの? どう見てもゴスロリじゃん!』
…………もう訳がわかりません……。
もしかしてアイシスが着るとメイド服でほかの人が着るとゴスロリになるのか……。
「ダンナ、ドンマイ……」
察したのかフランカが肩をポンポンと叩いて慰めてくれます……。
よき理解者がいて助かる。
時間が経ち、メイドが来て、食事の用意ができたみたいだ。
ソウタたちも部屋から出てきて、3階の食堂へ案内される。
すでに王女さんとヴェンゲルさんはイスに座って待っていた。
それにコック姿をしている――茶色の短髪をした女性が緊張しながら立っていた。
ここに料理人――宮廷料理人がいるってことは料理長かな?
『いい匂いなのじゃ……』
シエルが食堂に入ると尻尾を振る。
嗅覚が鋭いシエルは美味しいのが来ると確信したみたいだ。
「さあ、座ってくださいな。目の前にいるのは料理長のワネッカよ」
「お、お口に合うかわかりませんが、よ、よろしくお願いします!」
「もう緊張しすぎよ……いつもの堂々とした態度はどうしたの?」
「も、申し訳ございません……」
料理長は思いっきり頭を下げる。
普段とは違うみたいだな、なんで客人の俺たちに緊張しているのだ?
メイドたちが料理を運んで来た――パン、牛肉のステーキ、ペースト状にした野菜のスープ、ハムとチーズの野菜サラダだ。
「ど、どうぞ……」
食べてみると、全部美味しかった。
パンは 一般的に食べられている硬いパンより柔らかく、牛肉は脂がのっているがあっさりとした味わい、スープは濃厚で野菜の旨味を引き立て、サラダも文句はない。
フランカ以外は頷いて食べている。
やっぱりな、美味しいのだが少々甘い。
全部の料理にハチミツを入れてある。
確か王様はハチミツが気に入っているとオーウェンさんが言っていたな。
まさかここまで好きとは……。
「ど、どうですか……」
「美味しいですよ」
「あ、ありがとうございます!」
料理長は笑顔で頭を深く下げる。
「良かったですわね」
「いつも甘めだが、美味しいぞ!」
ヴェンゲルさんもそう思うのか、というかいつもって……。
毎回王様たちと一緒に食事をしているのか……。
ん? 料理長がなぜがソワソワしているのがどうした?
「あ、あの! まだ会ったばかりで失礼だと思いますが! か、カレーの作り方を、お、教えてもらえないでしょうか!」
…………えっ、カレーを……。
「なんでカレーを知っているのですか?」
「はい! ハチミツ村から帰って来た騎士――ネクスに聞きました! 香辛料で作った液体と聞いてどうやって作るか気になって眠れない日々が続いていました! 本当に失礼だと思いますが、め、めったにない機会です! どうかお願いします!」
そういうことですか……。
まあ、料理人として知らない料理は気になるのもしょうがない。
って……アイシスさん、目が光ったように見えました……。
「アイシス、頼んでいいか?」
「承知いたしました。では厨房をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「い、いいいいのですか!? や、やった~!」
料理長は涙を流しながら喜んでいる。
よほど嬉しいみたいです。
「ではワネッカ、そのカレーを夕食に作ってくださいますか?」
「はいクラーラ様! このワネッカ、命を懸けて作ってきます!」
「命を懸けなくてもいいわよ……」
食事をが終わり、アイシスはワネッカの案内で厨房の方に行った。
じゃあ、俺たちは部屋でゆっくり――。
「レイさん、どこに行くのですの? この後、私とお茶ですわよ」
王女さんとお茶という接待ですか……。
わかりました……強制みたいなのでご一緒します……。




