2話 幸せな日々、その経過
月日が経ち、思い返すといろいろとあった。
転生初日、赤ん坊の姿のまま森の中にいた……周りには誰もいない……。
最初から詰んだと思ったが、体内時計で30分くらい経ったころに、若くてイケメンで耳が長いお兄さんが来た。あの人はエルフかな?
するとこちらを見て、驚いて、慌てて俺を抱き上げ街へと駆けた。
街に入るとすぐさまギルドに行き、ギルドマスターや職員たちと相談。手がかりは紙に書いてある生年月日と名前「レイ」の文字だけ。
ギルド職員達は孤児院に引き取った方がいいと言っていたが、俺を拾ったエルフのお兄さんは魔力の質が良いので、周りに知られると危険という理由で自分が面倒を見ると申し出た。
ギルドマスターは俺の将来を見込んでみんなで育てるべきだと言い、みんなが同意した。
そしてギルドの空き部屋、大体8畳くらいの部屋で育てることになった。
どういうわけか、とんとん拍子に進んでいくのが不思議だった。これって加護が発動しているからなのかな?
瞬く間にギルド内の人たちにかわいがられ、次第にギルドのマスコット……いや看板息子という扱いになった。
主に面倒を見てくれたのが拾ってくれたエルフお兄さんのスールさん、ギルドマスターで大柄な男の人間ザインさん、ギルド職員で金髪セミロングの美少女エルフのリンナさんだ。
3歳くらいのときに、部屋に誰も来ない、そんなタイミングで自分の確認をする。
さて、加護とスキルどう確認するかわからない。この場合は……。
「ステータス」
と言ったら画面が出てきた。これはお約束ですな。
ステータスを確認すると。
【名前】 レイ
【性別】 男 【種族】人間
【称号】異世界転生者 神に愛されし者
ギルドに愛されし者
【加護】ミスティーナの加護 異世界神の加護
【スキル】武器創造 魔力感知 身体強化 隠蔽
無詠唱 器用 料理人 手加減
交差利き アイテムボックス
【魔法】火魔法 水魔法 風魔法 地魔法
氷魔法 雷魔法 光魔法 闇魔法
時魔法 無魔法 回復魔法
……多すぎでしょう!? いくらなんでも、これはさすがにおかしい!?
完全に強くてニューゲームな感じがする……魔法の数、それに【無詠唱】はチートすぎ。あと通常の基準がわかりません……それとレベル要素がない。
前世で引き継がれているのは、多分【器用】【料理人】【手加減】【交差利き】だ。。
この中でわからないのが【手加減】だ。前世で手加減することってあったかな?
【交差利き】はわかる。英語で確かクロスドミナンス、俺は文字を書く時や包丁を握るのは左手を使う。
ボールを投げる、蹴る時は右を使う。自分が何利きなのか、わからない曖昧なのが交差利きである。
基本的に左手を使っているから左利きなのだが、このスキルがこの世界でどのように活用できるのかは不明だ。
それと、【武器創造】が気になる、試してみるか。
頭の中で剣をイメージすると、手に木製の剣が出てきた。これはすごい! しかし気を緩めると消えてしまう。次に槍をイメージしてみたところ、木製の槍が出てきた。
なるほど、今のところ木製の武器ならイメージで創ることができるのか。
しかし、木と言っても凶器だから、3歳児にはこれは危険だ。今はなるべく使うのを避けよう。
次は魔法だ。ギルド内だから迷惑のないものにしよう。そうすると風か氷あたりかな、風をイメージする。
すると、風が吹いてきて風の球体が出てきた感覚があった。おお~! 思わず感動してしまった。まさか自分が魔法を使えるなんて思っていなかったから。
しかし、これどうやって止めるんだ? とりあえず風を遮断するイメージをしよう。そうすると風の球体が消えた。なるほど、こうやって魔法をコントロールするのか。
頭の中から【魔力制御】獲得の文字が浮かんできた。ステータスを確認するとスキルに【魔力制御】が追加されていた。
この世界では特定のことを学べばスキルが追加されるのか。自分なりに解釈をする。
あと氷魔法も使う。氷の結晶をイメージする。すると手のひらサイズの氷の結晶が出てきた。かなり冷たい。成功のようだ。しかし氷の結晶は消えない。これは溶けるのを待つしかないか。
魔法にはそのまま具現化できるものとできないものが分けられているかもしれない。
なかなか面白い。
バタバタと足音がしてきた……。
「レイ、どうした!?」
スールさん、ギルドの人たち、多数が慌てて見にきた、魔法を使っているのを見られてしまった……。
スールさんの【魔力感知】で察してきたのだろう。みんな氷の結晶を見て動揺している……。
「これは、いったい……」
マズい……ごまかさないと……。
「本を見て……氷の結晶をイメージしたのです……」
いやいや、3歳児がそんなことできるわけがない……しかしまともな言い訳もできない……。
「もしかして私と一緒に本を見ていたときに文字を覚えたのかい?」
あれ? 展開がおかしいぞ、すかさず頷く。
「すごいぞ、レイ! もう文字も覚えて、魔法が使えるのですね!」
スールさんは俺を抱きかかえた。周りのみんなにも歓声を浴びる。
「すげぇ!」
「やるな!」
「神童だ!」
なんとかごまかせましたが、もしかして【隠蔽】のスキルが発動したのかな?
スールさんと本を見ていたときには文字が普通に読めた。多分ティーナさんの加護のおかげだと思った。
その後ステータスを確認したら称号に【神童】が追加されていた。
それ以来、スールさんと魔法の練習をするようになった。
5歳の頃にスールさんから物覚えがいいからといろいろと教えてもらった。
この世界は魔道具で生活が成り立っており、この街、カルムは大きな街であり、王都から少し離れていて、魔道具の普及率が高く、不便がない街だということ。
次に大陸の情勢のこと。
プレシアス大陸、ズイール大陸、フリール魔大陸に分けられ、俺が住んでいる大陸――プレシアス大陸は人間とほかの種族が治めて、女神ミスティーナを信仰しており、差別などはない平和な大陸で、フリール魔大陸の人々と良好な関係を築いている。ズイール大陸は良い関係も悪い関係もなく、いわばグレーな関係だ。
次にズイール大陸は人間の国家だけで治めていて、女神ソシアを信仰している。人間以外の種族を差別しており、貧富の差も激しい。また、奴隷の合法化をしていて非常に危険な大陸である。
スールさんはあそこの大陸には絶対に行かないでほしいと言っている。
そして、フリール魔大陸は人間はあまりいなくて、多種族が存在する大陸である。女神シャーロを信仰しており、魔王がいる。
魔王といっても争いを好まない魔王のようだ。プレシアスと同じで平和主義な大陸である。しかし、ズイール大陸とは断交している。
その理由は、200年前にズイール大陸の帝国が勇者召喚をし、フリール魔大陸の魔王を討伐する指示を出して争いが起きたからだ。
しかし、英雄が現れ、勇者を倒し、ズイール軍は撤退し争いは終わった。争いを好まないプレシアス大陸の国王は仲介役として、ズイールの帝国とフリールの魔王に一時休戦を申し入れた。
現在は争いは起きていないが、勇者召喚をすると戦争が起きるかもしれない。噂では勇者召喚を試みているが、失敗ばかりしているらしい。
次に、魔力について教えてくれた。
魔力は質が良ければ老けなくて、量が多ければ寿命が長いらしい。人間の魔力の質はいろいろとあるらしく、普通の場合、40代ぐらいで止まるらしい。しかし、プレシアス大陸の人間は魔力の質が良いため、30~40代くらいで老化が止まるらしい。
だが、ズイール大陸の人間は魔力の質が悪いらしく、かなり老化するようだ。スールさん曰く、俺の魔力の質が良いから、エルフ並に老けないらしい。というより老けない。量は成長とともに変わっていくからわからないらしいが、今の予想では300歳までは生きられるみたいだ。。
この世界観……おかしいです……。
スールさんは今は100歳だが、自身の魔力の量はまだ増えているとのことで、1000歳以上は余裕だと言っている。
恐るべしエルフ……。
7歳くらいになると、ザインさんが武器指導をしてくれた。
【武器創造】スキルを使うと、かなり驚いていた。ザインさん曰く、ユニークスキルのようだ。この大陸では大丈夫だが、あまり人前で出さない方が良いそうだ、悪用されるかもしれないと言っていた。。
武器はいろいろ試したが、全部使いこなすことができた。これにも驚いていた。スキルに【器用】があることを伝えると、納得していた。
やはり【武器創造】と【器用】の相性はかなり良い。敵に応じて対処できるからだ。特にしっくりきたのが双剣だ。
まあ、前世でゲームをしていたときは、ずっと双剣を使っていたからなー。個人的には、人に手の内を見せたくないから人前では別の武器を使うつもりだ。
10歳になると、スールさんと一緒に近くの森に魔物討伐に出かけた。ホーンラビットやゴブリンを討伐すると、なかなか筋が良いと言われ、調子に乗って数十匹も狩ってしまい、少々呆れられた。
そんなに持ち帰れないと言われ【アイテムボックス】がある」と言って収納すると、驚いてしまう。やっぱり珍しいのか……。
その後、ギルドの在庫整理などを手伝わされた。
そんな日常が続いたけれど、楽しくて、何も不自由なく幸せな日々だ。
今となってはティーナさんには本当に感謝している。
そして14歳になった──。