193話 守り神の存在
「俺は転生した元日本人だが」
「俺は転移した日本人だ」
俺たちの発言で守り神は尻尾を振って興奮する。
『なんと! 転生者と転移者なのか!? じゃあ、儂の親友――チトセを知っているか!?』
親友? 旅人のことか。
それに名前がチトセなら女性の方かな?
「悪いが俺たちはそのチトセを知らない」
『そうか……知らないか……まだ生きていればいいのだが……』
守り神は尻尾を下げて落ち込む。
なるほど、この世界に来た日本人なら何かしらの噂を聞いて同郷を捜して、会っていると思ったか。
かなり前に来たならチトセは周りに痕跡を残すはずだが、全くそれがない。
ミツキさんが来なかったらチトセの痕跡はわからなかった。
もしかしてチトセは自分の価値に気づいて周りに種をばら撒かなかったのかもしれない。
シャーロさんは天界に来ていないからまだ生きているとは言っていたけど、話すべきか……。
『あ~その子ならまだ生きていると思うよ!』
『むっ、誰だ? 儂らの話を盗み聞きしている奴は?』
このタイミングでエフィナが話すとややこしくなる……。
というか守り神には念話送るのかよ……。
しょうがない訳を話すか。
誤解を解くために、守り神に俺たちの経緯を教える――。
『そうなのか……なら仕方ない……それでチトセは生きているのか……?』
『女神が言っているのだから間違いないよ! シャーロは絶対に噓はつかない!』
『良かった……本当に良かった……』
守り神はボタボタと涙を流す。
親友の安否確認ができて嬉しいみたいだ。
「会いたいのか?」
『できればもう一度会いたい……』
「もう一度? 別れた後、会ってないのか?」
『そうだ……』
親友ならたまに来て顔を合わせるずだが、それっきりなのか……。
何か理由があって会わないのか? それとも逆に会ったらつらい思いをさせるのか?
酷だが聞いてみるか……。
「もし良かったら親友との出会いを話してくれないか? 無理にとは言わない」
『親友はとの出会いは200年以上前になる――』
守り神は全て話してくれた。
意外だったのは守り神が日本に住んでいたことだ。
自分は妖怪という存在で人には姿は見えなくて、神社でのんびりと暮らしていた。
その中で毎日参拝していた女性――チトセが気になっていた。
彼女は小さな酒造会社の社長令嬢で会社の商売繫盛として通っていたらしい。
守り神は面白いと思い、後をついて行って見守っていたとのこと。
次第に会社の経営も右肩上がりで順調だった。
しかし、曇り空の中いつものように神社参拝に行く途中で、ストーカーに刃物を突き付けられてピンチに。
守り神は見守ることしかできなくて対処できないと思った瞬間、頭上から雷が落ち、気がついたらチトセと一緒にこっちの世界にやって来たとのこと。
守り神はこの世界では姿形見えるらしく、あと普通にしゃべれるようになった。
チトセは突然のことで大混乱し、落ち着きがなかったという。
徐々に自分の状況化を理解して受け入れて、守り神と一緒にこの世界探索を決めた。
しかし、街や村に行くと守り神は魔物扱いされて、門前払いされることが多く、苦労はしていたが【創種】のスキルで飢えることもなく、大丈夫だった。
そして小人の村に着き、チトセと守り神を大歓迎をしてくれた。
チトセは小人は肉ばっかり食べていたから、栄養を考えて畑を作って【創種】でいろいろと作物を作ったという。
それだけでは収まらず、日本で学んだ知識を小人に教えて年月が経ち、チトセはほかの場所に行きたいと言い、旅に出た。
チトセは小人の村は守り神の安住の地だと思い、村に残したみたいだ。
長く住んでいたら次第に小人から守り神と言われるようになったらしい。
守り神が妖怪……いや、神社に住んでいたから神の使い――眷属ではないのか?
また別の存在なのか……。
200年前って……確かミツキさんは300年以上生きているとか言っていたな。
もしかして日本で100年以上生きていることになるか。
それにチトセは災難だな……ストーカーがいたなんて……恐らく、令嬢だから変なのに付きまとわれたか……。
まあ、そのストーカーも雷が落とされて無事ではいられない、罰が当たったな。
酒造会社の令嬢だから知識も豊富で調味料の作り方も教えることができたのか。
いろいろと納得しました。
その横でソウタが泣いています……。
自分の苦労と重ねたみたいだ。
「うぅ……苦労したのだな……」
『もう昔のことだ気にしないでほしい。久々に同郷に会ったのだから、ゆっくりしていってくれ』
逆に気を遣ってしまった……。
守り神が俺たちを歓迎してくれるのならいつ来ても大丈夫だな。
「ところで名前はないのか?」
『名はない……親友に名を付けてくれと言ったが、いつもごまかして「いぬっころ」と呼んでいた……もう諦めたが』
なぜごまかすのだ? 付けられない理由でもあったのか?
何かしらの事情があるなら、追求することもない。
「そうか、それで親友を捜そうとは思わなかったのか?」
『捜そうに手がかりがない……それに小人が心配するからな……儂が少しでも遠くに行くと大騒ぎになって大変だ』
やっぱり無理か……もう離れられないな……。
『だったらボクたち捜そうか? シエルなら喜んで引き受けるよ!』
『本当か!? 是非とも頼む!』
守り神は頭を下げる。
エフィナ……勝手に決めるなよ……。
俺も会いたいと思うが、シエルがいるからってすぐには捜せない……まだ先の方になる。
「俺も協力するよ!」
ソウタはやる気です……。
……魔物の騒動が落ち着いたら情報収集でもするか。
確信が持てたならそこに向かう。
「捜すのはいいが、俺たちにも用があるし、手がかりがない。数年――いや数十年以上かかるかもしれないぞ? それでもいいのか?」
『大丈夫だ! 儂は長生きだから数十年待つのは余裕だ!?』
意外に長く待ってくれます……。
待ってくれるなら捜すこともできるか。
「わかった。気長に待ってくれよ」
『末永く待っているぞ!』
再び尻尾を振って喜んでいる。
うん……シエルと同じで犬みたいだな……チトセも「いぬっころ」と言うのはわかる気がする……。
「話は終わりでいいか?」
『ああ、そろそろあの子たちが気になって見てくるからお開きだ。ほかに聞きたいことがあれば、いつでも良いぞ。儂はこの村から出ないからな。だが日本関係はほかの者がいないときにな』
意外に守り神は秘密主義なのか?
チトセに日本のこと言わないように言われたと思うから堅実な性格だと思っておこう。
みんなのとこに戻ると。
すぐさまルチルが駆け寄る。
「ご主人! 何話してたの?」
気になるのか……。
『この話は秘密にしといてくれ』
「ブ~!」
俺たちに言っても問題はないと思うが、守り神が言わないでほしいならやめておく。
『あ~ボクたちは日本のことを知っているからこの子に言っても大丈夫だよ!』
エフィナが言うと守り神が頷いた。
あっ、いいらしいです……。
『ここでは言えないからあとで話すよ』
『わ~い、わかった!』
先ほど顔を膨らましていたが、機嫌が直った。
素直でよろしい。
小人たちは守り神に集まり――。
「守り神様! 今日の夕食はミツキたちが獲ってきたカニとウナギだよ!」
「守り神様! 今日もいっぱい収穫できたよ!」
「守り神様! 今日はレイさんたちの歓迎会をやるから絶対参加してね!」
『そうか、そうか、みんな1人ずつ話してくれ。しっかり聞けないぞ』
守り神は小人の耳を傾け対応している。
みんな守り神のことが大好きだな。
これだとどこにも行けないな。
さて、いろいろと情報も聞けたから、のんびりと村の周りを見てみますか。




