166話 ギルドマスターの奥さん
――翌日。
朝早く起き、出発の準備ができた。
リンナさん、小人たちは――見送りをしてくれます……。
昨日、リンナさんは俺たちが王都に行くとわかると、顔を膨らましてご機嫌斜めだったが、大丈夫みたいだ。
そして小人たちは俺たちがいない間も屋敷でお泊りするそうです……。
てっきりミツキさんの商館に泊まるのかと思ったが、そうではないらしいです……。
「不服だけど頑張ってね! しっかり小人ちゃんの面倒見るからね!」
「心配しないで行ってくれ」
「わたくしが面倒を見るのでご安心を」
まあ、何かあったときリンナさん、ウィロウさんとグラシアさんがいれば大丈夫か。
シエルは【身体強化・変】を使って身体を大きくし、俺たちは乗る。
「では、いってきます」
「「「いってらっしゃい!」」」
小人たちは元気よく手を振って見送り、シエルは翼を広げて空高く飛び――王都へ向かう。
――2時間が経過した。
そろそろ王都に着く。
移動している間、地上を見ると――魔物が大量にいて冒険者が戦っているのが見えた。
ほかの場所でも大変だと聞いていたがこれほどとは……。
もうこの大陸も魔物の異常発生が起きているのか……。
シャーロさんの言う通り魔大陸と同じ状況になって他人事では済ませられない……。
大きな城が――王都が見えてきた。
確かザインさんが言うには門前でオルリールさんが待機しているとか言っていたが……。
門前には数十人の騎士たちにオルリールさんにフェンリ、エミーニャ、ガレンさんもいる。
それに体格が良く、露出が多い狼耳の銀髪美女――フェンリの母親でサブマスターでもあるヴィクトリアさんだ。
確かヴィクトリアさんは数年前から魔大陸に行ったり来たりと往復して大忙しいと聞いた。
この状況だから帰って来たのか?
俺たちに気づくとオルリールさんたちは手を振り、騎士たちは敬礼をする。
騎士たちに事前に言っているみたいだから歓迎ムードだ。
シエルは地上に降りると――オルリールさんたちは駆け寄ってくる。
すると、ヴィクトリアさんは俺に近づいて高笑いしながら軽々と持ち上げるのですが……。
「ハハハ、久しぶりだなレイ! 大きくなったな! 飯はしっかり食っているか?」
忘れていた……ヴィクトリアさんは俺を会う度に持ち上げる癖があった……。
「お久しぶりですね……ヴィクトリアさん……俺……成人になっているので持ち上げるのやめてもらいませんか……」
「成人になってもまだまだ子どもだ! まだ甘えてもいいのだぞ!」
「ヴィクトリア……久しぶりで嬉しいのはわかるが……あとにしてくれ……」
「ハハハ! そうだったな、我が夫よ! 精霊使いも久しぶりだな!」
「久しぶりだなサブマスター、3年ぶりかな?」
ソウタを知っているのか、まあ、王都に頻繫に行っていたから知っててもおかしくはないか。
「ハハハ、もうそんなに経っていたか! だが今はサブマスターではないぞ! 今は協会側の方で働いているから違うぞ!」
協会で働いているのか!?
初耳です……だから魔大陸とか調査に行っているのか……。
「ほかにも我が夫から聞いているぞ! よろしくな!」
相変わらず豪快な性格をしていますね……。
裏表もなく嫌いではないけど。
ヴィクトリアさんは俺を降ろすとアイシスたちに挨拶をした。
オルリールさんはリフィリアを見ると驚いていた。
「ザインから聞いていたが、本当に大精霊になっている……信じられない……」
「ザインさんに聞いているのであれば事情はわかっていますね……」
「ああ……この話はあとだ。悪いな、忙しいなか引き受けてもらって」
「いいですよ、みんな大変なのはわかっています。状況を詳しくお願いします」
「そうだな、ザインから場所は聞いていると思うが、ここから東に位置する200㎞離れたダンジョン化した洞窟だ。扉の破壊と騎士団の救助だ――」
オルリールさんから印をされた地図を渡される。
端の方に戦った魔物も書いてある。
行く道中に確認しろってことだよな。
「扉が異常に硬い――魔力が尽きるまで粘ったが全然ダメだった……かすりもしなかったのがおかしい……」
「オイラもやったが全然ダメだったぞ! ハ、ハ、ハ!」
「協会の皆さんに応援を頼みましたが、歯が立ちませんでした……不覚です……」
ヴィクトリアさんは高笑いしながら、ガレンさんは下を向き言う。
ヴィクトリアさんも試したのか……それにガレンさん――協会の人も全員ダメとかあり得ない……。
「その扉は何か小細工はしてありますか?」
「小細工か? 【魔力感知】持っているやつは扉全体に膨大の魔力が通っているとか言っていた」
やっぱり小細工はあったか、すぐ壊せるか不安になってきたぞ……。
「なんだ、そんなことか、今回はアタイだけで十分だな! すぐ終わらせるから期待してくれ!」
フランカの発言で騎士たちが泣いている……。
やっと仲間が救えると確信したか……。
「泣かないでくれよ……アタイはこういうの苦手だ……」
「まあ、騎士たちも泣くのは当然だ。騎士団長――ファイスもダンジョンに閉じ込められたから心配でしょうがない」
ファイスさんも閉じ込められたのか!?
まあ、騎士団長が調査するのは当たり前か。
すると、後ろから騎士1人が向かって来る――オーウェンさんの後輩のネクスさんだ。
ハチミツ村から戻って来たか。
「みなさん、本当にお願いします! その中に――せ、先輩がいます! ど、どうか助けてください!」
ネクスは泣きながら頭を下げる……オーウェンさんも閉じ込められたのか!?
まさかオーウェンさんも戻っていたのか……いや待てよ。
「オーウェンさんは村の専属騎士になるって言っていたはず……」
「はい! ですがこの状況です! 人が足りないので王都に戻って魔物討伐をしています! 先輩が言ってました――「これが終わったらミンディと結婚するんだ」と言っていました! 彼女も先輩を無事を祈って待っています! どうかお助けください!」
なるほど事情はわかった、それは――。
『あ~、言っちゃったね~俗に言う、死亡フラ――』
『最後まで言ってはダメだぞ!? 縁起でもない!?』
『そうだね! 早く助けないとね!』
全く……エフィナは本当に危ない……。
なんとしてでも回避せねば。
「まさか本当に言うやつがいたとは……」
ソウタはフラグ発言に呆然としていた。
気持ちはわかるけど、ここは異世界だ、気にしてはいけない……。
「と、とにかく、アタイに任せておけ! すぐ出発しようぜ! ギルマス、依頼が終わったらダンジョン攻略していいのだな?」
「俺たちとしては大助かりだが、無理はするなよ。何があるかわからないが、いったん帰って攻略する方がいいぞ」
「心配するな、アタイたちの強さはわかるだろう?」
「賢者御一行に精霊使いもいる……普通だとあり得ない組み合わせだ……だが危ないときは引き返せよ」
「わかっているよ! 早く行こうぜ!」
フランカさんそう急かさないでください……。
救出より攻略の方が目的になっている……。
「洞窟の周りは強力な魔物がいます。私も参加しましょうか?」
「アタイたちだけで十分だ! 協会のアンちゃんもほかのことを優先してくれ!」
「そうですか……残念です……」
ガレンさんは落ち込む。
扉を破壊するところ見たいのか……。
さすがにガレンさんには奥の手を見せるわけには行かないから、一緒には着いていけない。
「レイたちいいな……オレも参加したいぜ……」
羨ましそうにフェンリは俺たちを見る。
相変わらず戦闘狂です……。
「我が娘よ! オイラたちは王都を周辺の魔物を討伐に忙しいから我慢だ! なんなら昨日と同じようにどれだけ魔物の数を倒せるか勝負するか?」
「母ちゃんが勝負するなら我慢するよ……」
そういえば、ヴィクトリアさんも好戦的で戦闘狂だった……。
血は争えないな……。
「2人ともほどほどにしろよ……」
「ボスの奥さんとフェンリがいると恐ろしいにゃ……」
オルリールさんとエミーニャはため息をした。
何かと言わないけど大変ですな……。
「夫とエミーニャよ! ここら辺の魔物は弱いから問題ない! 魔大陸に比べればゴブリンとオーガの差だ! ハハハ!」
なぜかヴィクトリアさんは自慢げに言う。
やっぱり魔大陸はやばいのか……。
「今魔大陸はどのような状況はですか?」
「この大陸より魔物の数が多いぞ! オイラも手助けしようと思ったら魔王からプレシアス大陸の人は危ないから戻って非難するように言われてな! 強制的に帰還された! 非常に残念だった! オイラは余裕だったのにな!」
魔王と会ったのか……それに別の大陸の人を巻き込むのを避けて帰らせるのは優しい魔王ですな。
「そうですか……」
「そうだ! 話が長くなってしまったな! 頑張って行って来いよ!」
「絶対に無理はするなよ!」
「みんな気をつけろよ!」
「依頼頑張ってください」
「気をつけて行くにゃ!」
再びシエルに乗り、空高く飛び――オルリールさんたちは手を振り、騎士たちは敬礼をしながら見送ってくれる。
ダンジョン化した洞窟に向かう――。




