154話 無意味な時間稼ぎ
あれから3週間が過ぎ、ド変態が戦に指定した日になった。
予定より早く来ると思ったが、珍しく何も仕掛けてこない、そのおかげで住民の安全確保ができたが、逆に怪しい。
昼頃からギルドで待機していたら――シエルに乗って偵察していたセーレさんが戻って来た。
「スールから動きがあったわ! みんな準備しといて!」
「変な動きはあったか?」
「みんなで布に被った大きい何かを運んでいたわ!」
運んでいる? 何か遠距離系の武器でも運んでいるのか?
「よーし、お前ら気を引き締めて行けよ! 相手は姑息な手を使ってくるから油断はするなよ!」
「「「――――オォォォォォォォ――――!」」」
みんな気合を入れて雄叫びを上げる。
どんなに卑怯な手口が使おうと俺たちがド変態の軍勢に負けるはずはない。
「いい返事だ、セーレ任せたぞ」
「任せてちょうだい! みんな行くわよ!」
セーレさんの指示に従い、ギルドのみんな――数百人でド変態の軍勢の方に向かう。
相手は数千の軍勢だが、ザインさんはみんなの強さを見込んでこの数となった。
『気をつけるのじゃよ!』
「みんな気をつけろよ!」
シエルとゼネロット――商都の冒険者たちが城門前で手を振って見送ってくれた。
配列としてはアルロさん、ガルクが率いる重戦士のみんなで固めて、その後ろに俺たちですぐ仕掛けられるようにしている。
ほかは街に入れさせないように後方にいる。
意外にだったのは精霊たちが一緒についてくることだ。
危ないからリフィリアと一緒にギルドで待機しているように言ったが――。
「私はあのド変態が許さないから戦う!」
「こ、怖いけど……戦う……」
「懲らしめないと気が済みません! 同行の許可をお願いします!」
やり返したいみたいです……リフィリアと離れないで戦うのと、危なくなったらすぐリフィリアの空間魔法で撤退する条件で同行を許可した。
昼過ぎになり――街から30㎞離れた平地の場所でド変態の軍勢を待つ。
――1時間後。
魔力反応が出た――ド変態の魔力に、それと……近くに魔物の反応があるな……。
もしかして――いや、そんなわけないか。
軍勢が見えてきた、うじゃうじゃと近づいて来る――本当に数千はいるな。
その中に馬車が混じっている――セーレさんが言っていた何か運んでいた物か。
軍勢の距離は数百メートルで進行が止まり――睨んでるように見える。
セーレさんの指示では相手が動き始めたら仕掛けるようになっているから今のところ様子見だ。
バジリスクの素材を使用した鎧を着たド変態と、同じくお揃いで俺に嫉妬している鎧を着たエルフが前に出て、ある程度近づいてきた。
攻撃はしてこないな、するとド変態は大声で――。
「みなさん約束を破りましたね! おとなしく精霊たちを渡せばいいものの……残念です……勇敢なる同胞よ! 洗脳者から精霊を解散し、洗脳された街――カルムを救って見せましょう!」
「「「スール様の導きのままに!」」」
軍勢は膝ついてド変態に敬意を払う。
みんなその茶番を見てドン引きしています。
「何あれ……気持ち悪い……」
「何が解放だ……頭がいかれてる……」
「エルフの谷で魔力摂りすぎてバカになったか……」
初めて見る人にとってはそう見えるが、あっちはいつも通り健全です……。
まあ、いつ見てもおかしいけど……。
嫉妬しているエルフは俺たちを見て鼻で笑っている。
「フッ、こんな少人数で何ができる……バカバカしい――それにギルドマスターにあの女エルフ2人がいないだと――なめているな。スール様、我々の勝利は間違いないですよ!」
「そうです! 勇敢なる同胞――ハヌヤよ! ザイン、リンナ、リリノアは街の防衛に回っているので、私たちに怯えています――好機です! 勝利の栄光は我々にあります!」
「「「――――オォォォォォォォ――――」」」
軍勢はド変態とともに拳を上げて雄叫びを上げる。
いろいろとツッコミたいことはあるが、もう一回痛い目に合わないとダメみたいですね。
「もう見ていられない――茶番はもういいかしら? ――ライトニング!」
「――――ひぃ!?」
「「「スール様!?」」」
セーレさんは魔法でド変態に近くに雷を落とした。
茶番が長すぎて面倒になったか……相手に挑発させるにはいいけど。
「貴様! よくもスール様を――」
ハヌヤは単純なのか簡単に挑発に乗って剣を抜く――ド変態が必死に止めようとする。
「待ってください! 私は大丈夫です! 相手の挑発に乗ってはいけません!」
「す、すみませんでした!」
「ですが、私のために怒ってくれるのは嬉しいです。ですが私もかなり怒っています――洗脳者どもに神の鉄槌を下しましょう」
「はい!」
「何訳もわからないこと言っているの!? って何逃げているのよ!?」
茶番が終わったのかド変態とハヌヤは後ろに下がっていった。
ド変態の指示で無数の馬車が前に出てきた、秘密兵器か――いや、違う魔物の反応それも――。
「さあ、愚かな魔物――オーガたちよ! 洗脳者どもに醜く争うがいい!」
エルフたちは布を退かすと檻――岩の檻に入っているのはオーガだ。
あの布は普通のではない、魔力を遮断するようにできた布か。
だから魔力反応が曖昧だったのか。
「「「――――ガアァァァァ!」」」
岩の檻が解除されると――オーガたちは前進して俺たちの方に向かって来る。
それも数百……長期限を設けたのはオーガを捕獲するためか。
「セーレ、どうする? さすがにあの数は受けられないぞ。というかなんであいつらに攻撃しないでこっちに来てるのだ? よくオーガなんて運んだものだ」
重戦士とはいえ、アルロさんも限度があるな。
確かにオーガ大人しく檻入って、運ぶのは普通にあり得ないこと。
こっちに向かって来るのは相手に怯えて逃げてるように見えるけど……。
「思い当たるところはあるわよ。魔物除けの花持っているか、魔物除けの魔道具を使っておとしくさせて運んでいるしかないわ。全く……変に頭が回るわね……」
そうなるか、だったら魔物除けの花を使ったかもしれない、魔物除けの魔道具だったら白金貨1枚はする。
あの数だと何十個も必要で莫大な金額になるから使わないだろう。
「「「わ~い、オーガだ!」」」
小人のみなさんは喜んで飛び跳ねています……素材が欲しいのかな……。
「小人ちゃんたち、ごめんね、オーガは魔法で処理するから我慢してね」
「「「わかりました!」」」
笑顔いっぱいに返してくれた……。
やっぱりあの数は魔法で倒した方が手っ取り早いな。
「ありがとう! ということでレイちゃん、フランカちゃんアレを使うわよ!」
「わかりました」
「おう、いいぜ!」
俺、フランカ、セーレさんは前に出て殲滅させるのに最適な魔法を使う――。
「「「――――エクスプロージョン!」」」
「「「ガギャァァァァ――――!?」」」
上空から爆炎を落とし――周囲は爆撃音と共にオーガの群れは跡形もなく消えた。
3人で思いっきり使ったからか、地面に大きな穴ができた。
相手はオーガをすぐ倒されたことに青ざめている。
「何をしている! 所詮オーガは時間稼ぎに過ぎない! 進め! スール様のために!」
「「「スール様のために!」」」
ハヌヤは大声で指示をして、エルフたちは前進した。
いや、オーガは時間稼ぎにもならなかったが……。
「よし、相手は動いたな! セーレ、もういいか?」
「ええ、頼んだわよ!」
「お前ら、行くぞ!」
「「「ウオォォォォ――――!」」」
アルロさん率いる重戦士は前進し――相手に突っ込む。
さて、ド変態たちにお仕置きの時間だ。




