14話 屋敷での新生活
――翌朝。
顔に違和感があり、目を開けると精霊が顔を叩いている。
起こそうとしていたのか。
「おはよう」
すると、にっこりと笑顔で返してくる。
かわいい……。
部屋の備品を無限収納に入れ、ここと部屋とはお別れだ。いろいろな思い出に浸り、部屋を出る。
楽しい思い出をありがとう……。
食堂に向かい、アイシスと朝食を摂る。そういえば、精霊は何か食べるのか?
エフィナに聞いてみた。
『この子は周囲の魔力を摂っているから食べなくても平気だよ。もう少し大きくなれば食べると思うよ!』
大きくなったら食べるって、精霊には成長過程があるのか? 大きくなるって言っても、長い年月だろうな。
朝食を済ませ、ザインさんにお礼を言いに向かう。スールさんとリンナさんもいた。
「今まで、部屋を貸していただき、ありがとうございました」
「おう、そうかしこまるなって! まさか成人になる前に屋敷持ちになるとは驚きだ! たまにでもいいからよ、食堂で飯でも食べに来いよ!」
「はい」
「まあ、いつでも会えるけど、少しは寂しくなるわね……アイシス! レイ君をしっかり頼んだわよ! それと時間があれば遊びに行くから!」
「はい」
「お任せください」
「うぅ……もう子離れですか……それに精霊ともっと仲良くなりたいです……」
「アニキ、泣くな! 女々しいぞ!」
スールさん……泣くことですか……だってギルドから徒歩20分で着く距離ですよ……。
「それと新居の準備で大変だと思うが祭りは参加するよな?」
「はい、もちろん!」
「よろしい!」
「お世話になりました!」
3人に挨拶をし、購入した屋敷に向かう――屋敷に着いて中に入る。本当にここに住むのかと思うと信じられない気分だ、さて、周りを確認するか。
まず1階から、居間、食堂、台所、客間、洗濯場、浴室、トイレがある。嬉しいことに、台所は魔石付きの立派な窯や魔道具も完備してあり、しっかり火も出る。
浴室は広く、浴槽は大人7~8人は入りそうだ、これで1人で入るのは贅沢だ。
次は2階だ。寝室、書斎、書庫室、メイド室、トイレ、空き部屋2つである。特に寝室のベッドが…………デカくないか! 余裕で8人くらい寝れるぞ! 本当に短期間で住んでた人はこんないい家具とか本を置いていくなんてどういう神経してるんだ! 有効活用させてもらう!
しかし、周りを見てもホコリもない、カビも生えていない、これって精霊が何かしているのか? 聞いてみると、本を見て掃除の知識を覚え、前いた世界の石鹼や洗浄剤の代わりである、泡の植物を採取し、汚れてる箇所を風魔法を使い泡立て、周りを綺麗に掃除してるみたいだ。
いや……すごいの言いようしかないな……。風魔法を使えるからってそんな応用したことは普通はできないはず、精霊はもしかしてかなり頭が良いのでは?
今後もお願いしてもいいか聞くと、喜んで頷いてくれた。なんていい子なんだ……。それを聞いたアイシスがしょんぼりしていた。じゃあ一緒にやってと言うと表情が明るくなった。
そんなに用意するものは特にないな。あとは、調理器具や食材だな。市場に行くか――アイシスと一緒に出かけようとすると、精霊もついてくる……。
いや、さすがに市場はダメでしょう! ギルドならまだしも! 精霊に説得したが首を振り、すると、自分の魔力を抑え、半透明になる。
……って【魔力制御】使えるのか!
『これなら、周りに気づかれなくて大丈夫だよ!』
それならまあいいか、精霊に謝ると、自慢げな顔をする。
――市場に着き、既に昼食の時間だったから屋台で鶏肉の野菜サンドイッチを2つ銅貨4枚で買い、アイシスと食べる。
食べ終えたら、調理器具一式と食材を、大銀貨1枚分購入して屋敷に帰る途中で、精霊が屋台の本を気にしている。やっぱり興味があるのか。
「見てみるかい?」
笑顔で頷く。
「そこのあんちゃん、本に興味があるのかい?」
「ええ、まあそれなりに」
30代後半くらいの男の店主に声をかけられた。
「若いのに偉いねー。いろいろとあるから見ていきなよ」
まあ、そのつもりだけど、屋台には数十冊置いてある。精霊は真剣に本を見て飛び回り、気になったのか羽を止めると、ほかの本と比べ分厚く丈夫な本を見つめる。
「調合書か……」
「お目が高いねーでもあんちゃん、結構高いよ」
「いくらだ?」
「銀貨5枚だよ。」
まあ、調合書ならそのくらいはするか。高いけど、買えなくはないな。紛い物だったら困るけど。
「少し見せてもらっていいか?」
「どうぞ、どうぞ。」
中身を見る……本物だ。しかもわかりやすい! これなら金貨1枚の価値はあるだろう!?
「店主、この本って……」
「素人が出した本だけど、調合書としては立派だよ。売れないけどね」
そうなのか。精霊も目が輝いている。欲しいのか。まあ、屋敷を掃除してくれるし、安いものだ。
「店主、買うよ」
そう言うと、喜んで精霊が僕の周りを飛び回る。
「本当に!? いや~助かるよ。売れなくて困ってたんだよ!」
銀貨5枚を渡して、調合書を買った。
「あんちゃん、またよろしく!」
しかし、本当に素人が書いたのか? 学者が書いたような内容だぞ。作者を確認する、メメットという人が書いたのか、覚えておこう。
精霊も早く読みたそうでいる。
「帰ってからね」
激しく頷いた、いや~いい買い物をした。
けど後ろからアイシスの視線が気になる、少し無駄遣いしたのがまずかったかな?
アイシスにも悪いからケーキを買って帰宅した。
――帰宅し、精霊に買った本を渡すと風魔法で本を浮かしてページをめくる、結構器用だな。
さて、少し早いけど、夕食の準備をする。今回作るのは兎肉のピザとミネストローネを作る。もちろんアイシスと一緒に作る。
俺はピザ生地を作り、アイシスには野菜と肉を切るようお願いする。まずは、小麦粉、酵母、塩、水を入れ、手で捏ねる。
なめらかになったら、オリーブオイルの代用として、グリーンオイルを少し入れる、グリーンオイルはオリーブオイルと味が似ているから助かる、少しグリーンオイルの方があっさりしているけどね。
水分が飛ばないように布をかぶせ、約2時間発酵させる。
本当はもっと時間をかけて発酵したいけどそんな余裕はない、生地を発酵させている間ソースを作る。
鍋にグリーンオイルとバターを熱してアイシスに切ってもらった、ロングガーリック、ロングオニオン、ナナト、順に入れ煮詰め、塩、胡椒を入れソースの完成。
ナナトはトマトと同じ味がするから助かる。それとニンニクが長いとは思わなかった。あとロングオニオンと聞いて長ねぎを連想したが、食べると玉葱その物の味だった。前いた世界と違う食材で戸惑ったけど、それなりに工夫すれば似た物を再現できるから問題ない、寧ろ、面白い。
次はミネストローネでも作るか。
「私が作ります」
「えっ、じゃあお願いするよ」
ミネストローネはアイシスに任せる、とその前に、無限収納から干し肉を出し、コンソメの代用と言って渡す。
後は、一口サイズに切った兎肉に塩、胡椒、香辛料を塗ってなじませ、フライパンを熱してから軽く焼く、さすがに生のままピザに乗せて焼くと生焼けになるから多少は焼かないといけない。さて下準備もできたし焼くか。窯に付いている魔石に触れ火を付け、発酵させた生地をめん棒で円状にし、ソース、チーズ、キノコ、兎肉を乗せて焼く。大体2~3分経って窯から出して完成。
ミネストローネも出来上がったみたいだし、熱い内に食べますか。
「「いただきます」」
「……ウマ!?」
「……美味しいです」
「しかし、このミネストローネも美味しいなー」
「ありがとうございます」
アイシスと初めて一緒に作ったが、息もピッタリで、こんなに手際よく出来るとは思わなかった。いくら【家事】スキルがあるっていっても、気配りは例外だ。本当に大した魔剣だ。満足のいく食事だ。また時間があればピザでも作るか。
食後のデザートにケーキを食べる。相変わらずの安定の美味しさだ。アイシスはもちろん、ケーキにはデレデレの状態である。
片付けをしようとすると、精霊が風を使い運んでくれる。いや、食べてないのに運ばせるのは申し訳ない、文字で「本を買ったお礼」って書く。
まあ、そういう事ならいいか、洗うのはアイシスが担当するみたいだけど、精霊もやりたいようだ。
「私がやります」
首を振っている。
「ジャンケンで決めれば?」
精霊は首を傾げる。アイシスがジャンケンの説明をし、納得したようだ。ジャンケンの結果は――。
――アイシスが勝った、精霊は悔しそうだけど、そこまで悔しいのか……洗ってくれるのはありがたいけど。
じゃあ俺はお風呂のお湯を沸かして入るとしますか。2人に告げて、浴槽にお湯を溜めて、裸になる。
まずは身体を流し粉末状のバブルプラントを溶き、泡立てる――ガタッ、ん? アイシスと精霊が入ってきた……ハッ! しかも裸だと!?
「あっ、あの……これはいったい……」
「背中を洗います」
精霊も頷く。
「いや、それはだっ、大丈夫! 1人でできるから!」
「そこは譲れません! 私はメイドですのでやらせてください!」
ちょっ、近すぎる!? 服を着てて、かなりのボリュームだったけど裸でもこの重量感……じゃなくて、メイドだからってやるにも限度があるだろう!?
『いいじゃん! 減るものじゃないんだから! 主なんだからドンと構えてればいいよ!』
なにエフィナも勝手なこと言って! しかもアイシス頷いているし! 理性が崩壊する前に言い訳しないと……。
「いや、俺は1人で入るのが好きだからゆっくりとしたいんだよ」
よし、これなら……。
『ボクもいるよ!』
それ言っちゃったダメだ!
「エフィナ様もいますので、私も邪魔をしませんので洗わせてください!」
なんだそれ!? 変なとこで頑固だな! てか精霊も頷いているし!
『あっ、それと、精霊にもボクの声聞こえるようにしたよ! 同じ家に住む者同士失礼だからね!』
そんなことできるのかよ!? てかこの状況で今言うことなのか!?
『フフ……観念するんだよ』
「いや、だから――」
その後、5分くらい揉めて――はぁ……負けた……。
「わかったよ、ただし、布で隠すのが条件だ」
「わかりました、最初の方はそれで我慢します」
何で我慢なんだ!? まあこれなら理性を抑えられる。まあ精霊は服を着ているから大丈夫だな、すると服が消えて裸になった……
そこそこあるな……じゃなくて、魔力で服作っていたのかよ!?
「いや、だからせめて布で隠してって……」
精霊は顔を膨らして、魔力を使って布で裸を隠した、ふぅ……これで安心だ。
「それでは洗います」
「……あ……うん……」
アイシスは背中を洗い、精霊は髪を洗ってくれる……大丈夫だ、理性はまだある。
「少し、失礼します」
ちょっ、柔らかいの当たっていますけど!?
「これで終わりです……」
「あ……ありがとう……」
崩壊寸前だった……危ない……。浴槽に入り取りあえず落ち着こう……。
しかし……ありがたいのだけど、ここまでしなくてもいいのだが……これじゃあゆっくりできないな……。
これからずっと一緒に入るって言ってるけど、慣れるしかないのか……。いや、あんなに美人でナイスバディの魔剣に慣れるなんて無理だ!
美人は3日で飽きるとか、噓に決まっているだろう! 飽きるどころか毎日ドキドキするだろう!
はぁ……理性を鍛えるか……。
風呂から出ると2人も一緒に出てくる。いや、もっとゆっくりしてもいいんだよ!? 精霊は風を使い、髪を乾かしてくれる。この子なんでもやってくれるな、本当にありがたい。
――風呂上がり、居間でハーブティーを飲みながらゆっくりしていたら寝る時間になった。
そろそろ寝るか。
……って、寝るのも一緒なのか!?
「さすがに寝るのは……」
「いいえ、ギルドでは、みなさまがいたので安心しましたが、屋敷では誰もご主人様をお守りできません! 一緒に寝るのは当然です!」
『アイシスはレイの事が心配なんだよ! そこのとこわかってよ』
「わかった、アイシスにお任せするよ……」
「ありがとうございます」
「じゃあ、おやすみ……」
「おやすみなさい、大好きなご主人様」
ちょっ、不意打ちがきたのは気のせいか……まだ新居生活始まったばかりだぞ!? 先が思いやられつつも、明かりを消して就寝――。