13話 小さき者
ミランドさんたちと怪奇現象が起きるという屋敷へ馬車で向かう。貴族街を出て10分経過、人家がない離れた場所だ。
周囲には建物などはなく、周りは草だらけ、それと馬車で最低限通れる道幅だけだ。
長年ここに住んでいてもこんなところがあるのは初めて知った。
「もうすぐ見えてくる頃だ」
屋敷が見えてきた……貴族街の屋敷と比べると一回り小さい感じだ。
それに……無駄に庭が広すぎないか!? ミランドさんの庭ほどではないが、貴族街の倍はあるぞ!
そしておかしいのが、その敷地内だけ草が生えていないことだ。毎日手入れをしているように見える。
馬車を降り、確認をする。
「ここは手入れとかしているのですか?」
「そんなことはしてない不思議なことにずっとこの状態のままだよ」
やはりおかしい、何かしら存在しているのは間違いない。
敷地内に入ると何かの魔力を感知した――2階の方からか。
アイシスも感じたようだ――お互いに頷き。
「2人はここで待っていてください、何かわかりました」」
「そうか! くれぐれもむちゃはしないように頼んだよ!」
屋敷の鍵を受け取り、鍵を開けて入る。辺りを確認した……綺麗な状態だ。家具も清潔でホコリが付いていない。すると、周りの物が――。
――――ガタガタガタガタ――――
――揺れ始める。
風魔法か……幽霊やアンデッドではないことはわかった。
これはイタズラなのか、それとも警告なのか……。
まあ、いい。2階へ上がる。
すると、揺れが収まった。歓迎でもしているのか? 感知した部屋の前まで来た。
相手は風魔法を使う。何かしてくる可能性はあるから体制を整える。恐る恐るドアを開けた、部屋の中は本ばかりの書庫か。
けど、何もしてこない。その奥の方に魔力を感じる。
奥へ向かうと――ん? 小さい……20~30㎝程、羽が生えている。髪は黄緑ロングの女の子? がこちらを見て震えている。
「妖精?」
『違うよ! 精霊だよ! 風の精霊!』
なんで屋敷に精霊がいるんだ? 普通は森の中で、魔素が濃いところにいると言われているけど……。
まずは敵意のないことを示さないと。
「何も危害は加えないよ、大丈夫だから、安心して」
震えが止まった、言葉は通じているみたいだ。
「しゃべれるかい?」
悲しそうな顔をして首を振った。
その精霊は、紙とペンを用意し、風魔法を使い書き始める。
『精霊が文字を書くなんて珍しいね~』
やはり珍しいのか……えっとなになに……「あなたは誰」ってそうなるだろうな。
精霊に自己紹介し、いろいろと聞いてみた――わかったのが。
森の中で過ごしていたけれど、外の世界も見たいと思い、森から出てきて辿り着いたのがここで、居心地が良かったため、この辺りに住みついたようだ。
しかし、何もないところに屋敷ができ、それに興味を持ち、屋敷の中を散策した。
そこで、怪奇現象と間違われたかもしれない。
エフィナによると――。
『この精霊は大体20年以上生きているが、精霊としてはまだ幼い。当時だと、いくら【魔力感知】があってもこの子を認識するのは難しく、怪奇現象と間違われてもおかしくはない』
エフィナが言うのだから、間違いないだろう。
それと、文字を書けるようになったのはここにある本に興味を持ち、勉強したからのようだ。
すごいな……。
その精霊に事情を話すと、「私を追い出すの?」と書いてきた。いや、精霊って神聖な存在だよな。追い出すのは罰当たりだろう……。
「俺がここに住むけど、嫌でなければここにいてもいいよ」
すると喜んでくれたのか、俺の周りを飛び回る。受け入れてくれるようだ。
「名前はあるの?」
首を振った。じゃあ名前を付けた方がいいか。
『あ~精霊に名前を付けるのは契約するのと同じだから、やめた方がいいよ。勝手に名前を付けると契約違反で魔力を全部奪われて命に関わるからね」』
何それ!? 怖すぎだろ!? 迂闊に名前を付けようとするところだった……。
名前はなしで。
さて、問題が解決したが、ミランドさんにどう説明するか。正直に話した方がいいか。
――庭に向かう……。
ついてくるのか? まあ、いた方が説明しやすいか。
「レイ、まさかその球体は……」
球体? ミランドさんは精霊の姿が見えないのか。
「えっと、実は──」
精霊のことを説明した。
「精霊……だと……もっと早く気づけば……本当にすまなかった……」
精霊に頭を下げる。えっ!? やっぱり神聖な存在なのか?
「なんで謝っているの?」
「ブレンダ……精霊がいることは、この街が安全な場所であることになるんだよ……。精霊は平和の象徴だ……それに気づかないなんて、失礼なことだよ」
確かに、魔物がいる場所に精霊が存在するなんて聞いたことない。居心地がいいと言っているから、この街が安全であることは間違いない。
「そうなの……ごめんなさい……」
ブレンダも頭を下げ、精霊は戸惑っている。そして、2人の周りを飛び回っている。
「彼女は気にしていないみたいですよ」
「姿が見えるのか!?」
「ええ、はっきりと」
「すいぞレイ! さすが、賢者の末裔だ! それじゃあ私の養子に──」
「いえ、養子になりませんから――それで、彼女はしっかりここにいたがっているみたいなので、このままでよろしいですか?」
「ああ、もちろん! むしろ、ずっといてほしい!」
これで問題が解決し、ミランドさんの屋敷に戻り、契約書に署名し、土地と屋敷を購入することができた。
すぐに住むわけではないからギルドに戻る――別に嫌ではないけど……精霊がついてくる。
『はは、随分と懐かれたね!』
ついてくるのはいいけど、見える人には大騒ぎになるぞ……。
ギルドに帰ると――。
「おかえり、レイ君、アイシス、今日は…………せっ……精霊!?」
そういう反応ですよねー。
リンナさんに事の次第を話すと納得した。ギルドの人で精霊の姿が見えるのはエルフと魔法を使える人だけ、その他の人は球体に見えるだけだ。
大勢の人に囲まれ、戸惑うだろうとは思っていたけど、精霊は喜んで飛び回っていた。
特に興奮していたのはスールさんだ。精霊を見るのは初めてで、精霊にグイグイ迫ってくる……さすがにそれには引き気味で、俺の後ろに隠れる。スールさんはショックを受けていた。まあナンパしてるような感じだから、精霊も嫌がるだろう……。意外にもザインさんは平気なようだ。
すっかり周りに溶け込んで、ギルドの偶像みたいだ。
就寝前も……うん、一緒に寝るのはいいのだけど、横で寝るのはやめてほしい! 寝返りを打つと潰してしまうからだ。精霊に説明すると、ムスッとして不機嫌そうだったが、納得して、布団の上で寝るみたいだ。そこも危ないけど、まあいいか……。
明日でこの部屋とお別れか。