132話 意外な大収穫
みんなに期待されながらナポリタンを作る――。
とは言っても、作るのは簡単だ。
玉ねぎ、ピーマン、マッシュルームを切って、それから――。
「ソウタはウインナーとベーコンどっちがいい? 両方入れるのもアリだぞ」
「迷うな……両方でいいか?」
「わかった、両方だな」
ソウタの要望でウインナーとベーコンを切り――フライパンで切った具材を炒める。
ケチャップ、ホワイトバードの骨で取った出汁を入れて少し煮詰める。
このタイミングで茹でていたスパゲッティが柔らかくなったらお湯から出して――冷水にさらす。
「水に入れるのか!? そんなことしたらマズくなるのでは……」
「冷水で冷やすと麺がモチモチとした食感になるから大丈夫だ」
「そうなのか……初めて知った……」
まあ、料理していない人間にしたらそう見えるのはおかしくはない。
「うどんと蕎麦を作るやり方と同じですね!」
「ミツキさん、今回はこのやり方ですよ。普段は湯切りするだけなので」
「そうなのですか!? おもしろいですね!」
うどんも釜揚げうどんがある気もするけど……。
それは置いといて――スパゲッティを煮詰めたソースに合わせて完成。
ほかにもアイシスと――ハンバーグ、カニクリームコロッケ、コンポタージュ、サラダなど作った。
「召し上がれ――」
「久々のナポリタンだ……」
ソウタはナポリタンをフォークに巻いて――震えながら口に入れる。
「美味しい……懐かしい……故郷の味だ……」
泣きながら喜んで食べていました。
余程好きなんだな、今後はパスタ系の食事を増やすか。
「「「おいしいです!」」」
小人組は口を赤くしながら喜んで食べている。
しかし……ナポリタンを箸で食べるのか……意外だ……。
「フフフ……小人さんたち、お口が真っ赤だよ」
リフィリアはハンカチを出して小人3人の口を拭く。
それを見たウィロウさんとグラシアさんはショックを受けていた……。
「私が拭くのに……」
「わたくしが拭くのに……」
そんなに拭きたかったのか……。
『リフィリアの母性には勝てないからね~レイもそのくらいしないと~』
だからいつも俺を巻き込むな!?
全く……冗談でもやめてくれ……。
「おかわりできるか?」
「「「おかわり!」」」
「わかった、作るから待っててくれ」
予想以上に好評だったのか、減る量が多くまた作る――。
ソウタと小人組は5杯くらい平らげた。
いい食べっぷりだ……。
その後、ミツキさんたちとリンナさんを見送り――寛ぐ。
「へへへ……ひざまくら~さい~こ~う~」
「酔うまで飲み過ぎよ」
リフィリアは酔ったフランカに膝枕をする。
それを見たソウタ驚いている。
「魔剣って酔うのか……」
「フランカはな、いろいろと疑問があるがそういことにしてくれ」
「わかった……レイ、今日はありがとう。和食や俺の好物を作ってもらって感謝しきれないよ」
「別にいいって、王都からわざわざ来たのにこれくらいしないと割に合わないぞ」
「それでも感謝しているよ。しかし、レイってなんでも作れるのだな、前いた世界の味を再現できるとかすごいよ」
「さすがになんでもはできないぞ。ラーメンは今のところ無理だな」
「えっ、スパゲッティ作れるのに無理なのか?」
「かん水がないからな、コシと食感が再現できないと中華麺は作れない」
「そうか……無理なのか……」
ソウタは落ち込んでいる……やっぱりラーメンも食べたいのか。
「まあ、代用として重曹か、炭酸水とかあればできなくはないが」
それを言うとソウタは驚いて立ち上がる。
「炭酸水がある場所なら知っているぞ!」
…………なんだと!?
「それは本当か!?」
「ああ、ティアと出会った森の湧水に炭酸を含んでいた」
「ボクの故郷の水は美味しい……」
なるほど、ティアと初めて会った場所か、水の精霊だから綺麗な場所に違いない。
故郷だから他にも精霊がいるのか?
「ティア以外にほかにいるのか?」
「いや、ティアだけだった。ティア曰く、みんな成長のために故郷を出ていったみたいだ」
「ボク……外の世界が怖くて出られなかった……けど……主とプロミネンスに会って……外に出ることができた……」
まさかのティア1人だったのか……寂しかっただろうな……。
だからソウタはティアと契約したのか。
納得です。
もしかしたらと思ったが、ほかに精霊がいればリフィリアも喜ぶと思った。
いないのであればしょうがない。
「場所はどこなんだ?」
「と言ってもこの大陸の端――魔大陸に近い場所だ」
ソウタはアイテムボックスから地図を出して――印をしているところを指す。
ここから北西1500㎞以上は離れている。
「結構遠いな」
「それと、ここの魔物は強いぞ。餌になる魔物がいいのか周りと比べて大きい。まあ、レイたちの実力なら余裕だけど距離がな……」
「距離なら心配はいらないぞ、シエルに乗って行けば1日はかからないぞ」
「そうか、ブルーワイバーンがいれば余裕か、それじゃあ……」
「ああ、ある程度準備すればいつでも行けるぞ。案内よろしくな」
「わかった、じゃあ、行く予定を決めようか――」
ソウタと相談して5日後に行く予定になった。
まさかソウタが炭酸水のある場所を知っているのは意外だ。
俺としてはかなりの大収穫だ。
――就寝の時間になった。
「いや~いい湯だった、思わず長く浸かったよ」
ソウタと精霊たちはお風呂に入って満足げだ。
「それは良かった。空き部屋だが、何もないが大丈夫か?」
「アイテムボックス中にベットが入っているから大丈夫だ」
入っているのか……しっかりと用意しているな。
「それなら安心だな、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみ……」
「いい夢を見てください」
今日はトラブルが発生したが、無事ソウタたちをもてなすことができて良かった。
明日も色々と忙しくなりそうだ。
――――◇―◇―◇――――
――翌日。
エフィナに起こされ、食堂に向かうと――みんなテーブルで待っていた。
「おはようレイ」
「「「おはようございます!」」」
「ああ、おはよう。旅の疲れもあるからもう少しゆっくり寝ていればいいのに」
「ぐっすり眠れたから大丈夫だよ、今日は領主さんに挨拶しに行くから気合いを入れないと」
「気合は入れなくてもいいのだが……」
「お待たせしました。今日の朝食です」
アイシスが作ってくれたのは――おにぎり、ボアの角煮、厚焼き卵――珍しく野菜の豆乳の味噌汁である。
豆乳を入れたのは精霊たちの要望かもしれない。
それに――。
「ありがとう……なぜか俺とレイの角煮の量が多いのは気のせいだろうか……?」
やっぱりソウタもそこは疑問に思うか……。
「ご主人様とソウタ様はミランド様の屋敷に行くので適切な量だと思います。残さずお食べください」
『このくらい余裕だよ!』
「レイ、いつもこうなのか……?」
「そうだ、朝から肉や魚は多めに出てくるから覚悟してくれ」
「わかった……朝から元気をつけろってことだな」
「ご理解が早くて助かります」
そう言う意味で出してるわけではないと思うが……。
朝食を食べ終え――お昼になったらリフィリアとソウタたちとミランドさんの屋敷に向かう――。
「「「――――おかえりなさいませ、ぼっちゃま――――!」」」
いつも通りメイドと執事たちがお迎えしてくれる。
ソウタたちは呆然としていた。
「えっ……レイって領主さんの息子なの?」
「違う……あとで話すから……」
「わかった……」
セバスチャンに案内してもらい――ミランドさんの書斎に向かうと――。
「待っていたよレイ、私をお義父さんと――」
「いいません」
「今回も残念だ……」
「おとうさん?」
「そうだとも、レイは私の娘の婚約者でもあるからな!」
「えっ!? 婚約者もいるのか!?」
「まだだ……それもあとで話す……」
「えっ、ああ、わかった……」
全く……ソウタに何を言っているのだ……気が早い……。
「ところで君が噂の精霊使いだね」
「はい、ソウタと申します。3人とも出ておいで」
精霊たちは【隠密】を解除してミランドさん挨拶をする。
「まさか3人と契約しているとは……素晴らしい、それで私に何か用かね?」
「俺が話します――」
ミランドさんにソウタがこの街に住みたいと説明すると――。
「精霊使いがカルムに…………フハハハハハ! 素晴らしい! 実に素晴らしいよ! もうこの街は大安泰だ!」
ミランドさんは高笑いしながら拳を上げて喜んでいる。
まあ、強い冒険者が住むとなるとそうなるか。
「セバスチャン! ソウタ君たちに良い借家を紹介してくれたまえ!」
「はい、それでしたら、ぼっちゃまの屋敷の近くにもうすぐ借家ができます。それでよろしければ、すぐ手続きができます」
「あそこに建てられる家か、レイの近くなら何も困らないからそこにお願いします」
「ありがとうございます。ではこちらの契約書に――」
ソウタはセバスチャンに出された契約書にサインをした。
ものすごいトントン拍子で進んでいるのが、大丈夫なのか……。
「計画通り……」
「計画通りですね……」
ミランドさんは拳をギュッと握りしめて小さくガッツポーズし、セバスチャンはメガネをあげて光らせていた……。
計画通りって……まさかあそこの周りは俺の知り合いを住ませるように本当に計画していたのか……。
まあ、それなら変な奴が来なくていいけど……。
「「「――――いってらっしゃいませ、ぼっちゃま――――!」」」
こうしてソウタの借家の件はあっさりと解決した。
「ところでレイ、ぼっちゃまと呼ばれて婚約者がいるのだ?」
もうこの流れだと理解していると思ったが、わからないのか……。
そこで【第六感】が働いてくれよ……。
『じゃあ、ボクが説明するね!』
エフィナがソウタに説明しながら俺たちは屋敷へと戻った――。
その後、ソウタは納得してくれた。




