129話 精霊使い
ある程度、人がいなくなった道を歩いた頃。
このタイミングで聞く――。
「ソウタは日本人だろう?」
そう言うと、目の色変えて驚く。
「日本のことを知っているのか!?」
「知っているも何も俺は元日本人の転生者だからな」
「転生者!? だからカレーとかうどんが作れるのか……」
「別にこの世界の食材でも作れるけど、作らないのか?」
「俺は料理が苦手で何も作れないんだ……できるとしたらカップ麵にお湯を入れるだけだ」
いたって普通な人ですな。しかし、異世界で料理ができないのは、さぞかし苦労したのだろう。
「そうか、久々の元同郷人に会ったことだし、食べたいのがあれば言ってくれ、ある程度の物は作れるから」
「レイ、本当にありがとう……いろいろありすぎて迷う……お任せでいいか……」
ソウタは涙を流して言う――やっぱりいろいろとあったのだろう。
「ああ、わかった。ところでソウタは、なぜこの世界に来たんだ?」
「俺は……15年前に仕事帰りにトラックから人を助けて引かれそうになったところ――目を覚ましたらフリール魔大陸の森の中にいたんだ……」
俺と同じ時に転移したのか、もしかして迷い人になるのか。
「そうか、それにしては随分若いな、何歳だ?」
「今年で46歳になるぞ、この世界に来たら急に若返ったからな」
若返った? ソウタの場合は魔力の影響かもしれない。
見た感じだと俺と同じ魔力量と質だからな。
「前世と合わせると俺とほほ同じ歳だな……」
「同い年なのか? レイはいくつだ?」
「15歳だ。再来月で16になる」
「じゃあ30歳でここに転生したのか、なんでレイは転生で俺は転移なんだ……わけがわからない……」
ソウタは深刻な顔した。
まあ、確かに疑問に思うことだよな。
『それはね、ボクが説明するよ』
「頭の中から声が聞こえる……レイの中にいる人の声か?」
「えっ? エフィナが俺の中にいることがわかるのか!?」
「ああ、エフィナって言うのか、俺の【第六感】スキルでレイの奥の方に違う魔力を感じるからな」
第六感? 【直感】スキルの上位互換か?
『【第六感】は【魔力感知】と【直感】を合わせて強くしたユニークスキルだよ。話が早くて助かるよ』
かなりチートじゃあないですか……。
だから精霊が簡単に見えるのか……。
「このスキルもお見通しとか、レイのガイド的な存在か?」
『アハハ! それは違うよ! もうそろそろ屋敷に着くからお茶飲みながらにしようね!』
「そうだな、時間もあるから色々と聞きたいしな」
驚くと思ったが意外にあっさりだ。
エフィナともすぐに意気投合している。
ソウタはこういう性格なのかな?
確かにオルリールさんは気さくな性格とか言っていたしな。
「リフィリア様、私にも聞こえるけど、大精霊の主様に誰がいるの?」
プロミネンスは首を傾げて言う。
やっぱり気になるよな。
リフィリアは笑顔で答える。
「マスターの中には私の先生がいるのよ」
「先生……リフィリア様の先生って……すごいお方じゃないですか!? それじゃあ、精霊たちの先生ってこと!?」
あっ、壮大な勘違いしている……。
「そうなのか?」
ソウタは俺に問いかけてくる。
「いや、違う……」
「私の先生は先生よ」
リフィリアさん、更にややこしくしないでください……。
「そ、それじゃあ、私も先生と呼びます!」
「ボクも呼ぶ……」
「私も呼ばせてください」
なぜかエフィナは精霊たちの先生になりました……。
『アハハハハハ! ボク精霊の生徒を持ったよ! おもしろい!』
自分でウケていますね……それに満更でもないですな……。
「そろそろ着くぞ……」
敷地が見えると――ソウタたちは驚いていた。
「広いな……王都のギルマスが言っていた通り、珍しいワイバーンを飼っているのか……すごいな」
『ようこそ客人よ、ゆっくりするが良いじゃ』
シエルは俺たちに気づいて立ち上がり、歓迎をしてくれる。
「しゃべれるのか!? だから頭も良くこの街に住めるのだな……」
ソウタはすぐにシエルのことを納得した。
理解して助かる。
「ワイバーンってこんなにもキレイなの!」
「か、かわいい……」
「これは興味がありますね」
精霊たちは警戒することなく、シエルに近づいてお腹の方をペタペタと触る。
『やめるのじゃ、くすぐったいのじゃ!』
とは言っているが、尻尾を振って喜んでいます……。
それを見てソウタは呆然としていた。
「俺が思っているワイバーンと違うような……」
「まあ、大きな犬だと思ってくれ……」
「ああ、わかった……」
ソウタでもそこは理解できなかったようだ。
アイシスも来たことがわかり、屋敷から出てきて歓迎をする。
「お待ちしておりました。私はレイ様のメイドのアイシスと申します。どうぞ中にはお入りください」
「メイドもいるのか……これはどうも、俺はソウタ・シラカワだ、よろし――」
ソウタが握手をしようとすると――精霊たちはシエルから離れてソウタの目を隠す。
…………なんで?
「ソータには目に毒! あんなに大きなのがいるなんて聞いてない!」
「主……不潔……」
「ソウタ様にはまだ早いです! いったいどうやったら、こんなに大きくなるのですか……」
精霊たちはアイシスの胸をジッと見る……そういうことか……。
別に普通に握手しようとしていただけだと思うが……。
「ご心配なさらず、私はご主人様一筋でございます」
「そう、それならいいわ……」
「大丈夫だ……」
「それなら心配ありませんね」
アイシスが言うとホッとして精霊たちは隠すのをやめる。
「いや、そんな目で見ていないから! 全く……綺麗な女性がいるといつもこうだから……誰もつくらないから大丈夫だって……」
「本当に? じゃあ、許す……私もあのメイドみたいに大きくなったら……」
「ボクも……大きくなりたい……」
「私もその……大きくなりたいです……」
精霊たちはアイシスの体型を見て少々嫉妬しているみたいだな。
その瞬間、アイシスの目にが光ったような気がする……。
「わかりました、ではお茶は胸が大きくなる飲み物を用意します」
それを聞いた精霊は衝撃を受けたように驚く。
「その飲み物って本当に効くの!?」
「ボクもこれで……」
「そんな物があるのですか!? 聞いたことはない……」
「はい、毎日飲めば大きくなります。私が保証します」
そう言ってアイシスがドヤ顔をする……。
いや、精霊に食べ物で成長する概念があるのか……。
いつもながらまた大きく出ますよね……。
というかソウタの精霊たちも飲食するのか……。
「おっ、これはまた賑やかのが来たな」
フランカも自分の家から出てきた。
精霊たちはフランカに近づいてジッと見つめる。
「ん? なんだ?」
「あなたは大丈夫ね」
「問題ない……」
「気が合いそうですね!」
体型的に大丈夫なのかホッと安心する。
胸で判断しているのか……。
「何が大丈夫なんだ?」
フランカは首を傾げる。
「ううん、なんでもない」
「なんでもない……」
「なんでもありません。気にしないでください」
精霊たちは笑顔で答える……逆に失礼では……。
こうしてお互いに挨拶を済ませて屋敷に入り――客間に案内する。
アイシスがお茶とお菓子を用意する。
ソウタには緑茶で、精霊たちにはハチミツ豆乳。
お菓子はガトーショコラを用意した。
ソウタたちは目を輝かせていた。
「これ緑茶なのか!? それにお菓子まで……本当にありがとう……」
ソウタは緑茶をゆっくり味わうかのように飲んで――涙を流した。
やっぱり日本人は緑茶が1番ですよね。
「ウマいな……懐かしい……」
まだ序の口だが、昼食は大丈夫だろうか。
「これで……私も大きくなれる……」
「毎日飲むぞ……」
「これは美味しいです! こんなに美味しいのが大きくなるなんて初めて知りました!」
精霊たちは無我夢中でハチミツ豆乳をドンドン飲み干していく。
うん、前のリフィリアと同じで魔力に変換しているな。
そして全然お腹が膨れていない……本当に不思議です……。
「そんなに焦らないでゆっくり飲んでね」
「「「はい、リフィリア様!」」」
リフィリアは温かく見守るかのように精霊たちを見つめる。
しかし……この様子だと話ができないな……もう少し落ち着いたらでいいか。




