128話 再び大迷惑
――翌日。
ミランドさんにリフィリアが大精霊になったことを報告すると――。
「フハハハハハ! 素晴らしい! いつもレイたちは私を楽しませてくれる! この街は安泰だ!」
そう言って10分以上笑いが止まらなかった……。
やっぱり大精霊がいる自体あり得ないか……。
そのほかにも――。
「ブレンダに見せてやりたいが、今年は帰ってこないのが残念だ……」
再来月辺りから魔法学校の授業は1ヶ月休みに入るのだが、ブレンダは帰ることを選択しないで引き続き王都で勉強するみたいだ。
無理はしていないといいのだが……。
俺の周りが大変賑やかになったから会ったら驚くだろうな。
まあ、ミランドさんが定期的に言っているとは思うけど。
色々と報告が済んだことだし、後は精霊使いが来るのを待つ。
――――◇―◇―◇――――
――1週間が経過した。
昼前に玄関からノックする音が聞こえて、アイシスが出ると――。
リンナさんが慌てた様子で来た。
「レイ君、リフィリアちゃん! 精霊使いがギルドに来たから、今すぐ来てちょうだい! それと大変よ!」
その大声で俺とリフィリアが玄関に向かう。
「わかりました。大変ってどうしたのですか?」
「バカ痴漢アニキが精霊使いに難癖つけているの!」
…………はい?
スールさんはザインさんに強制されて依頼を受けているはずだが……。
それも、2週間以上の遠征で見張り役としてアリシャたちが同行しているはずなのに……。
「なんでですか……アリシャたちと依頼に行っているはずじゃあ……」
「途中放棄よ! 本当に信じられない! 今まで順調だったのに……呆れるわ……」
リンナさんは深いため息をつく、…………放棄したのかよ!?
1番やってはいけないことだぞ!?
そんなことしたらザインさんも黙っていないぞ!
しかもアリシャたちの目を盗んで帰って来たのか……。
『どこまであの変態は……バカなんだ……最低だ……』
「私の仲間と契約者に危害を……絶対に許せない……」
もちろん、エフィナとリフィリアはご立腹です。
けど、誰かしら止められるはずだが、リンナさんが来るってことは何か問題が発生したのか?
「誰もスールさんの暴走を止められないのですか?」
「そこなのよ! ギルド長は厄災の件で協会にから呼ばれて王都に会議に行ったわ! 唯一止められるセーレも依頼でいなくて……私もなんとかしようとは思ったけど……すばしっこいくて無理なの……どこであの速さを身につけたのが不思議だわ……」
タイミングが悪すぎだろう!?
だから誰も止められなくて好き勝手してるのか……。
「今すぐ行きます」
「私も行きましょうか?」
さすがのアイシスも心配で行くのか。
「アイシスはお茶の用意をしといて、私があの愚か者を止めるから大丈夫」
「わかりました。お気をつけてください」
アイシスに見送られ、俺たちは急いで向かう――。
リフィリアは急いでいるから飛んで――周りにバレないように【隠密】を発動して行く。
ギルドが見えてくる頃には尋常じゃない魔力を発している……。
精霊使いとスールさんがやりあっているのか?
扉を開けると――。
「このド変態、しつこすぎる――――フレイムナックル!」
「――――ブヘェ!」
「なんだ!?」
スールさんが丸焦げになりながらこっちに吹っ飛んでくる――。
俺たちは横に躱して――スールさんは扉の向こう――外に転がり……鼻血を出しながらブツブツと何か言っている……。
「精霊の愛を……しっかり受け止めました……もうすぐ契約ができる……」
そう言って気絶した…………。
打ち所が悪かったのか……発言がおかしい……。
もういいや、回復させないでそのままにしておこう……十分に反省してほしい。
それよりも――無詠唱で魔法を使っていた。
中に入ると――ホール中央に20~30㎝くらいの羽で飛んでいる精霊3体と近くにいる人物――軽装の鎧で短めの黒髪の20代前半くらいの男だ。
あの人が精霊使いみたいだ。
魔法を放ったと思う、赤く輝いている赤髪のロングで顔を膨らましながら涙目の女精霊だ。
火の精霊だとわかった。
ほかの2体は――水色に輝くセミショートで少しおどおどした精霊、黄緑色に輝くおかっぱで呆然と見ている精霊だ。
2体も女性で、この感じだと水と風の精霊かもしれない。
「二度と私たちの前に現れるな!」
火の精霊はスールさんに届くように大声で言う……もう気絶しているから無理ですけど……。
『アハハハハ! いいね! この精霊気に入ったよ!』
エフィナはスールさんがやられているのを見てスッキリしたようだ。
リンナさんは慌てて精霊使いたちに駆け寄り――頭を下げる。
「ごめんなさい! 本当は喜んで歓迎しようかと思っていたけど、あの精霊大好きなバカ痴漢が迷惑をかけてしまって……申し訳ないわ!」
「謝らないで、私たちと同じ恩恵を受けているエルフちゃん、あのド変態が悪いよ! 気にしないで!」
火の精霊はリンナさんには良い印象だな、恩恵を受けている? 加護のことか。
すると――リフィリアは【隠密】を解除して姿を現した。
「大丈夫? 平気? 怪我はない?」
心配するリフィリアを見て精霊たちは震える。
「「「だ、だ、大精霊様――――!?」」」
精霊たちは飛ぶのをやめて、膝をついて経緯を払う……。
あ~大精霊だと上司的な存在になりますか……。
「どうして膝をつくの? 私はアナタたちと同じだよ?」
「と、とんでもございません! 大精霊様は私たちにとって神様な存在です! 初めてお会いして光栄です!」
「大精霊様……お会いできて嬉しいです……」
「精霊ではなくて大精霊様が来るなんて……予想外だ……今後ともよろしくお願いします」
「そんなにかしこまらなくていいよ。ほら、よしよし――――」
リフィリアは精霊たちを風で浮かせて自分の方に寄せて――抱いて顔でスリスリする……。
「「「ふわぁぁ…………」」」
精霊たちは赤くなり力が抜けた状態になった。
「これでよし、あれ? 今度は気が抜けたみたいね」
リフィリアは精霊たちを離すと――ゆっくりと落ちていく、精霊使いが近づいてキャッチをする。
「おっと、危ない――悪いな、大精霊さん。もしかして後ろの青年が主かな?」
「そうだよ。私のマスターだよ」
「やっぱり魔力がすごいな、これはどうも、会えて嬉しいよ。俺はこの通り精霊たちと冒険者をしている――ソウタ・シラカワだ、よろしく」
そう言って精霊使いが手を差し伸べる。
…………えっ!? 名前が日本人!?
まさか……いや、まだ確信がない。
まずは自己紹介しないと――。
「これは丁寧に、俺はこの街――カルムで冒険者しているレイだ。こちらこそ会えて嬉しいよ」
お互いに握手をした。
『まさかレイの元同郷の人?』
『まだわからないぞ……』
『そうか、同郷人だったらボクも話してもいい?』
念話送るのかよ!?
まあ、別にいいか……。
『ああ、いいよ』
『やったね! じゃあ早く聞いてね!』
エフィナさん、そう急かすのではありません……。
「精霊の紹介がまだだったな。みんな自己紹介を――」
気を抜いていた精霊たちは起き上がり――。
「私はプロミネンスよ! よろしくね、大精霊の主様!」
「ぼ、ボクはティア……よろしくお願いします……大精霊の主様」
「私はブリーゼと申します。よろしくお願いします、大精霊の主様」
精霊たちは丁寧に挨拶をする。
大精霊と契約しているからこのような態度なのかな……。
優遇されてます。
「ハハハ……よろしく」
「私もまだだったね、私はリフィリアよ。よろしくね、みんな」
リフィリアは笑顔挨拶をした。
「リフィリア様……良い名をもらいましたね!」
「良い名前です……」
「素晴らしい名前でございます!」
精霊たちはリフィリアの周りを喜んで飛んでいる。
さて、挨拶も済んだことだしいろいろと聞くか。
「立ち話もあれだから俺の屋敷でおもてなしするよ」
「いいのか? この若さで屋敷持ちか……それじゃあ、お言葉に甘えるよ」
「ああ、ご馳走も用意するよ、そうだな――カレーでも用意しようかな」
カレーと言った瞬間ソウタが反応する。
「か、カレーを作れるのか!?」
「ああ、物足りなかったらほかにも――うどんに天ぷら付きで用意するよ、丼物も作るか」
「うどんに天ぷら……丼物って……米があるのか!?」
ビンゴ、日本人確定だ。
精霊を3人契約するのはやっぱり異世界人特有のチートを持っているからか。
「ああ、そうだよ。この街は最近米とか販売している商館があるからな」
「ようやく……故郷の飯が食べれる……」
ソウタは少し涙目になっていた。
この様子だと長くこの世界にいるみたいだな。
「良かったね、ソータ、いつも話している故郷の食べ物がありつけるのね」
「主が喜んでいる……私も嬉しい……」
「良かったですね、ソウタ様。長年の願いが叶いましたね」
精霊たちも頷いている。
「ありがたいのだが……アイツはどうすればいい?」
ソウタはスールさんの方を指をさす。
難癖つけられていたのに心配しているのか。
意外に優しいな。
「ソータ、あんなド変態なんてほっとけばいいじゃない!? 私たちを嫌らしい目で見ていたから気持ち悪い!」
「あのエルフ私たちを犯そうとしている目だった……気持ち悪い……」
「そうです! ソウタ様にわけもわからないことを言いつけて、私たちをよだれを垂らしながら興奮していたのですよ! あんな気持ち悪い生物初めて見ました!」
そんなに酷かったのか!?
すいません……ウチのギルドの変態が迷惑をかけてしまって本当にすいません……お詫びとして食事はリクエストします……。
「私が後処理するから問題ないわ。ゆっくり楽しんでね」
リンナさん、いつもながらありがとうございます。
俺の屋敷に来ないように縛り付けてください。
「そうか、職員さんよろしく頼むよ――レイ、お世話になるよ」
「ああ、悪いけど精霊はあまり人前では見せないように隠してくれないか? 街中だと大騒ぎする可能性があるから」
「それなら問題ない、みんないつもの頼む」
精霊たちは姿を消した。
「【隠密】のスキルを覚えているのか」
「そうだ、さすがに人混みは危ないからな、ギルドは別だけど」
意外に俺と同じ考えをしているのだな、まあ、普通に考えればそうなるか。
「それじゃあ、案内するよ」
リンナさん見送られ――ソウタたちと外に出る。
その横目に気絶しているスールさんは職員に運ばれる。
「愚か者……次に会ったら容赦はしない……」
リフィリアは声を低くして言った。
次会ったらスールさんの命日になる、そうですね……。
さて、人が少なくなったら、いろいろと聞きますか。




