125話 契約
精霊はこのままだと消える――契約すれば魔力も回復する。
あのときティーナさんは契約の条件で加護を付与させると言った。
精霊に女神の加護が付与すればマナイーターを倒せる道が開けるはずだ。
『わかった……無理はしないでね……』
エフィナは止めずに――この方法にかけてくれる。
「大丈夫だ、絶対に成功させてみせる」
無限収納から大量のマナポーションを出し――魔力が全回復するまで飲む。
「待たせたな、これから契約するぞ」
「マスター…………ずっと待っていたよ……」
「ああ、準備はいいか?」
「…………うん」
精霊はゆっくり頷き、最後の力を振り絞り立ち上がる。
すると、精霊が緑色に輝き始める――契約を受け入れてくれるようだ。
思い返すと出会って1年以上は経つ――まさか屋敷で神聖な存在がいるなんてあり得なかった。
彼女は知的で明るく綺麗好きで風のように自由だ。
そして…………俺の家族だ――。
家族を悲しませる奴は絶対に許せない――。
相手が厄災だろうが関係ない――倒して屋敷に帰るんだ――。
俺は全身全霊で精霊に魔力を注ぐ――そして――――。
「お前の名は――――リフィリア!?」
名前を叫ぶと精霊は大きく輝き始め――周りで光で埋め尽くされる。
光が消えると――目の前には俺と同じくらいの大きさになったドレスを着た精霊だ。
羽がなくなり、髪も前より長くなって魔力でキラキラと輝かせる。
『大精霊……スゴイよ! リフィリア、大精霊になったんだね!?』
エフィナは興奮して言う。
大精霊になったのか……これは大成功でいいよな……。
「ダメだ……限界……」
「マスター、ありがとう……私……あなたと契約して嬉しい」
倒れそうになったところ笑顔でリフィリアは俺を支えてくれる。
少し落ち着いた雰囲気になったな……傍にいると温かくて心地がいい。
「どうも……さすがに契約したから魔力が空だ……」
休まないと危ない……これはマナポーションを飲んでもすぐには立ち上がれない……。
「お返しします――――マナチャージ」
リフィリアは魔法を使い――俺の身体に魔力が溢れて回復する。
噓みたいに身体が楽になった。
「ありがとう、助かったよ」
「いいえ、大したことをしていないよ」
リフィリアは風の領域を解除した。
えっ、いきなり解除したら――――あれ? なんともない、それどころか相手の攻撃を防いでる感覚がある。
ステータスを確認すると――【精霊の加護・小】から【大精霊の加護】になった。
「これって……加護のおかげか?」
「そうだよ、もうマナイーターの攻撃は無意味だよ。安心して――アイシスとフランカにも付与したから大丈夫」
後ろを振り返ると――アイシスとフランカは魔力を吸い取られてはいなかった。
「ありがとうございます。これなら心置きなく戦えます」
「いいのを持っているな、ありがとよ! さて、アタイも暴れられるぜ!」
大精霊の名の通り凄い加護だ……これなら近距離戦も余裕だ。
「アイシスとフランカは休んで、意地を張るのは良くないよ。魔力が少ないからここは私とマスターに任せて」
リフィリアは2人に気を遣っている。
「まだ魔力はあります。少なくても今すぐ回復します」
「そうだぞ! アタイは暴れ足りないぜ!」
『2人とも、今回はレイとリフィリアに任せて、無理は禁物だよ』
エフィナも気を遣う。
確かに加護付与されてもあいつが何をするかわからないからな。
「わかりました……申し訳ございません……ご主人様をよろしくお願いします……」
「わかったよ……けど、あの球体野郎は絶対に倒せよ!」
「もちろんだよ。すぐに倒すから待っててね」
アイシスとフランカは渋々納得した。
「それじゃあ、アイツを倒すか」
『ちょっと待ってね! これはボクからのおすそ分け!』
エフィナから急に魔力を送られて――頭に魔剣が浮かぶ――。
「えっ? ――――風の魔剣……」
左手に黄緑色の光が溢れて――黄緑色に輝く魔剣を握っている。
「これって……」
『ボクがこの魔剣にリフィリアと同じように創ったよ! これでリフィリアも魔剣が出せるよ!』
「ありがとう、先生。これでスキルと魔法がいろいろと覚えたよ」
『大精霊になったお祝いだからね! どうってことないよ!』
理屈がわからないけど、リフィリアに風の魔剣と繋げた解釈でいいのかな?
だけど――。
「本当に大丈夫なのか? また負担が……」
『今回は少ししか使っていないから大丈夫だよ! けど……少し眠いや……お休み……』
そう言ってエフィナは眠りに入った。
全く……また無茶をして……。
頭に魔法を複数獲得が浮かぶ――【風魔法】上級に意外なのは【闇魔法】中級だ。
「気を取り直して、行くぞ!」
「はい、マスター」
リフィリアは身体を浮かして先に進む――羽がなくなっても風を使って飛んでいるみたいだ。
俺も続いて行く――。
マナイーターはさらに黒く輝いて――吸い取るのを加速させている。
もう俺たちの前では無意味なことだ。
「これ以上はさせない、邪魔な魔力をそぎ落とすね」
「ああ、頼んだよ」
リフィリアは空高く飛び――魔法を使う――。
「――――スパイラルランス!」
螺旋状に回る風の槍を放つ――速い!
マナイーターに命中してドリルのように削っていく――。
黒く輝いていたのが薄くなり――傷がつく。
すごい威力だ……これなら問題なく倒せる。
すると――マナイーターはマナの大樹から剝がれて――大きな球体は飛んで逃げる。
もうここは用済みなのか――マズイ、あの速さは間に合わない……。
「逃がさないよ――――ゲート!」
精霊は空間魔法を使い――マナイーターの近くに移動した。
エフィナのおかげで覚えたのか。
そして――。
「――――エア・プレッシャー!」
風魔法であの大きな球体を地面に叩きつける。
「マスター! お願い!」
「はいよ! ――――エアリアルソード!」
魔法で豪風を纏う剣を創り――右手に持って、マナイーターに突っ込む――。
「――――風迅裂閃!」
深く傷をつけ、その後に傷口から風でさらに裂いてえぐり――マナイーターは全身にヒビが割れて粉々に砕けた。
どんよりした空気が周りになくなり、倒した。
『終わったみたいだね! お疲れさま!』
エフィナが起きた――。
「えっ!? もう大丈夫なのか!?」
『うん! ちゃんと寝たから大丈夫だよ!』
本当に大丈夫かわからないけど、無理はしないでほしい……。
「それより、倒したマナイーターを見て――」
砕け散ったマナイーターから出てくるのは虹色に輝く結晶だ。
「あれは魔石か?」
『違うよ、魔結晶だよ……あれだけ良質な魔力を吸えばそうなるよ……』
綺麗だが……皮肉にもこの中に精霊たちの魔力が宿っているのか……。
すると――リフィリアが降りてきて、魔結晶に近づき――。
「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
抱きながら泣く…………。
何も守ることができなかった……もし、リフィリアと一緒に行ってれば精霊たちを守れたのかもしれない……。
『レイ、もしかして……後悔してる?』
「ああ、悔しいほどにな……エフィナの言う通り一緒に行けばよかった……」
『それは違うよ、レイの選択は間違っていない……厄災がいる事態おかしいよ』
「それでも近くにいればもっと早く対処できたはず――」
『これだけは言わせてね、仮に一緒にいても厄災をすぐ倒せた?』
「それは…………無理だと思う…………」
『だろうね、結局はすべて厄災が悪いから、あまり後ろは向かないでね』
「わかった……善処する……」
エフィナは気を遣っているが、それでも俺の選択は間違っている……責任はある……。
…………この悔しさどこに吐けばいいのだ……。
…………こんなんじゃ、ダメだ、前を向かないといけない……。
もうこんなことが二度と起きないように、絶対に守る――。
アイシスとフランカもこっちに来たが――リフィリアの泣いている姿を見て何も言えずに下を向く。
リフィリアが落ち着くまでそっとする――――。
時間が経ち――リフィリアは落ち着いたようだ。
「少しは落ち着いたか?」
「うん……みんなにお別れを言ったから大丈夫……」
「そうか……その魔結晶は自分で持っておくか?」
魔結晶は形見としてリフィリアが持っていた方がいいな。
「いいえ……これはマスターが持っててほしい……」
意外な答えだ、逆に持っていると辛いか。
「いいのか……もしかしたら、この魔結晶使うかもしれないぞ?」
「いいよ、マスターが使うのだったらみんなもきっと喜ぶよ」
躊躇いもなく笑顔で返した、本当にいいのか……そう言うのなら俺が管理する。
「わかった、持っておくよ」
無限収納に魔結晶と報告用にマナイーターの破片をしまった。
そうは言ったが、今のところ使う予定はない、もし何かあったら魔結晶を使うかもしれない。
そのときはリフィリアにはしっかりと説明はしよう。
『あれ? まだマナの大樹に微かに魔力が残っているね……』
エフィナが急に言い出す。
「えっ? それって……」
『もしかすると、ここは枯れたけど再生すると思うよ!』
「それは本当なの先生!?」
『うん、本当だよ!』
「良かった……」
リフィリアは膝をつき、再び泣く――嬉し涙だ。
もしかすると再生すればまた精霊たちが来るかもしれない。
『けど、再生するのに数十年はかかるけどね……もっと魔力があれば違うけど……』
やっぱりそのくらいかかるか……いや、待てよ――魔力があればいいのだよな。
俺はマナの大樹に近づく――。
「マスターいったい何を……?」
「ちょっと無理するから、今日からここでお泊りだ――」
マナの大樹に両手を当て、風と回復の【混合魔法】を使う――。
「――――マナチャージ!」
俺の魔力を空になるまで大樹に注ぎ――枯れていた木が少しだけだが、葉がついて再生する。
『スゴイよ! これなら早く周りも再生するよ!』
とりあえずなんとかなったか……。
「それじゃあ……あとは……よ……ろ……しく……」
当然、魔力を使い果たしたから地面に倒れて眠りにつく――。




