12話 怪奇屋敷?
翌日、アイシスと一緒に領主に物件の相談に行く、ギルドと少し離れた貴族街へ行き――領主の屋敷の前に着いたのだが……相変わらず大きな庭に、大きな屋敷だ……。
ほかの貴族街の土地と比べても2~3倍の大きさである。
門番の人がこちらに気づき、慌てている……はぁ……また始まるのか……屋敷内のメイドや執事が急いで庭に来て――。
「「「――――おかえりなさいませ! レイぼっちゃま――――!」」」
『おかえりなさい? なんでぼっちゃまなの?』
『話せば長い……頼む、俺の記憶をのぞいてくれ……』
『わかった! …………なるほど、わかったよ!』
のぞくの早いな!
屋敷のドアから、大柄で正装した男が出てくる、ミランドさんだ。
「やあ、レイ、久しぶりだね。せっかく馬車で迎えに行こうと思ったのに残念だ」
「お久しぶりです、ミランドさん、そこまでしなくてもいいですよ。いつも思うのですがこの迎え方、やめてもらいませんか……」
「何を言ってるのだ、養子になるまでやめさせないぞ! いや、養子になってもやめさせないぞ!」」
「あの……いつもながら養子には――」
すると茶髪でポニーテイルのブラウス、ロングスカートを着た少女が駆けつけて、勢いよく抱きついてくる。
「お兄ちゃん!」
「ぐはぁ!」
相変わらず力が強すぎる……この少女は……。
「久しぶり!」
「……あぁ……久しぶり……ブレンダ……」
「ブレンダ、屋敷で待っていなさい。今日はレイと大事な話があるのだから」
「え~今日は遊んでくれないの……」
「ごめん、今日は話だけだから」
「じゃあ、一緒に聞く!」
「すまないがレイ、ブレンダも同席してもかまわないか?」
「大丈夫ですよ」
「はは、いつもすまないね」
ミランドさんの屋敷に来るといつもこうである。
このミランド・ルイス男爵は、この街、カルムを治める領主で、そしてザインさんと親友である。
元は騎士の出身で、騎士として優秀でその功績から男爵へ成り上がった実力者である。転生初期にミランドさんはザインさんのお願いで俺を孤児としてではなく、在住者として申請してくれた。
まあコネなんですけどね……。
最初は顔を合わせる程度だったが、10歳の時、スールさんと狩りの帰りにゴブリンの数百の大群に遭遇し、馬車が襲われていた。ゴブリンの群れを必死に剣で切り続けていたのがミランドさんであった。護衛の人と幼いブレンダ、そしてメイドを守りながら相手をしていて、いくら強くても数が多く不利な状況であった。
俺とスールさんは迷わず加勢し、【武器創造】と魔法を使い援護し、被害もなくゴブリンの群れを全滅させる事ができた。
それ以来、ミランドさんと会うたびに養子になってくれと言われる、ブレンダにも懐かれる。
「そして君が……」
「はい、お初にお目にかかります、私は賢者様の弟子であり、レイ様のメイドのアイシスと申します。先日は在住許可証を発行していただき、誠にありがとうございました」
「おぉ、君がそうなのか! ザインから聞いているよ! あのリンナに決闘で勝ったとは驚きだよ! あのとき、用事で見られなくて本当に残念だった!」
アイシスの印象は良好だ。ブレンダはアイシスをじっと見ている。
「デカい……お母さんより……デカい……」
2度も言った! ミランドさん、メイド、執事は冷や汗をかいている……。
「ブレンダ……お母さんの前では言ってはダメだよ……」
「わかった……」
「あの……そろそろ話を……」
「ああ、すまない、客室に案内するよ」
――客室に案内され、ブレンダと同じ服を着たミランドさんの奥さんがいた。
「こんにちは、レイ、お茶を用意するわ」
「こんにちは、エレセさん、いつもありがとうございます」
「それで、あの子が噂の賢者の弟子なのね……よろし……負けたわ……」
アイシスの胸を見て驚愕している……。
「いったいどうなったら……あんなに大きくなるの……」
「恐れ入ります」
やっぱり気にしていたか……エレセさんは胸がまな板……あ、いえ、なんでもないです……乏しいお方で……。
元騎士でスレンダーのモデル体型だから別に気にしなくてもいいとは思うけど。
「と、とりあえず、お茶でも飲んで話そうか!」
ミランドさんは話をそらし、今回の件の話をする。
「さて、ザインに頼まれた件だが、私が管理する屋敷を紹介しようと思う」
屋敷なんて聞いてないぞ…。
「待ってください、屋敷ではなく家の相談ですが……」
「安心したまえ、屋敷といっても小さな屋敷だ」
「いえ、お金の問題が……」
「心配するな、お金なら安くするよ、ただ……」
急に黙りはじめた、これは訳アリだな。
「屋敷に何か問題でもありますか?」
「ああ……君たちなら解決してくれると思うのだが……実は――」
ミランドさんの話では、10年前にある貴族が別荘として見晴らしの良い場所に小さな屋敷を建てた。しかし、5日程で退去した。理由は住み始めて3日で怪奇現象が頻繫に起こるようになり、恐怖のあまり我慢できなくなったらしい。
あそこにいたら呪われるとか言って、家具や書物など置いたままこの街を出た。それでミランドさんが買取、管理をしている。
その噂が広がり、そこの周りだけ家や屋敷など建たず、ザインさんにお願いしても怖がって誰も依頼を受けてくれず困っているという。
そこで賢者の弟子であるアイシスがその怪奇現象を解決してくれると思ってその物件を紹介する事に。
解決したら、大金貨2枚払えば住んで良い条件だ。
『いいね! おもしろそう! ボクは絶対にそこがいい!』
エフィナさん……見てもいないし、解決もしていないのに、決めるのは早いですよ……。
しかし、かなりの好条件だ。怪奇現象って幽霊か? アンデッド系の魔物か? 行ってみないとわからないな。
その類が出たら光魔法「ターンアンデッド」があるから心配ない。
……その話、乗った!
「その場所を案内していただけますか?」
「もちろん! 今すぐ馬車の手配をするよ!」
「わたしもいく!」
「ブレンダ……危ないからお母さんと留守番してなさい」
「む~」
「大丈夫だと思いますよ。お二人は庭で待機していれば問題ないと思います。それに、危なかったら馬車に戻ってください」
「そう言うなら……わかった、ブレンダ、一緒に来ていいよ」
「やった! ありがとう、お兄ちゃん!」
――そうして馬車に乗り、件の物件へ向かう。