123話 黒い球体
このままだと危険だ、精霊を手のひらに載せて魔力をあげようとすると――。
『レイ、ポーションとマナポーションを飲ませて!』
「えっ、ああ、わかった」
俺はエフィナの言う通りに無限収納から2等級ポーション、マナポーションを出して精霊にゆっくり飲ませる。
ボロボロだった身体も回復して、苦しかった顔も和らいできた。
「マス……タ……ありがとう……」
「どうした? 帰りの途中で魔物にやられたか?」
「違う……故郷……みんなを助けて……お願い……早く……」
そう言って精霊は眠りに入った。
故郷? みんな? まさか俺たちに助けを求めて休まずに戻ってきたのか……。
『レイ、早く行った方がいいよ……』
状況がわからないが、エフィナの言う通り精霊の仲間を助けに行く。
「シエル、今すぐ行けるか?」
『いつでも行けるのじゃ!』
1000㎞も離れている場所だからシエルに乗っていった方が速い。
「私も行きます」
「アタイも行くぜ!」
そうと決まればみんなでシエルに乗り――高く飛び羽ばたいて、行く方向を指示して目的の場所に向かう――。
安全のために精霊を俺のコートの中に入れる。
しかし……シエルに乗るのはこれが初めてだ。まさかこんな形で乗るなんて思わなかった。
時間がない――シエルに時魔法をかける――。
「――ヘイスト!」
『ぬおっ!? 急に速くなったのじゃ! みんなしっかり掴まるのじゃよ!』
「大丈夫だ」
「問題ありません」
「余裕だぜ!」
シエルの身体を加速させて急ぐ――。
上空で周りの景色を見る余裕もなく1時間が経過する。
「私……どのくらい寝てたの……」
コートの中からモゾモゾと動いて精霊が目を覚ました。
「少しの間だよ。今、精霊の故郷に向かっているから……ところでいったい何があった?」
「急に本で見た球体が現れて……みんなの魔力を吸い取られて……みんな……みんなが……消えて……」
精霊は泣きながら答える……。
本で見た球体って……まさか――いや、確かめないとわからない……。
『レイ、確信はできないけど、その球体……一筋縄ではいけないよ……みんなで倒せるかわからない……』
エフィナもわかったか。
本当にそいつだったら大変なことになる……。
「そいつとはまだわからないだろう? そいつを倒して安全確保だ」
『うん、そうだね!』
「私の氷で蹴散らしますよ」
「誰が相手だろうがアタイにかかれば問題ないぜ!」
『妾もそやつを灰にしてくれるわ!』
「みんな……ありがとう……」
精霊も泣くをやめて表情が明るくなった。
できるだけ被害は最小限に抑えたいところだ。
――1時間後。
俺とエフィナの予想は当たってしまった……。
最悪の状況だ……。
「おいおい……噓だろう……」
『こんなの誰も望んでいない……』
「そんな……結界が破れている……」
「この光景はあり得ません……」
「なんの冗談だ……」
『酷いのじゃ……』
上空から見えるのは勢いよく木や草、花などが枯れ、大地はヒビが入っている光景だ……。
そして遠くから見える――ドデカイ大樹には漆黒に輝いている球体が張り付いて寄生している……。
『マナイーターだ……しかもあんなに大きい……』
マナイーター……あらゆる生命と魔力を吸い取る300年に1度と言われている厄災級の魔物……。
まさか魔力の多い精霊たちに目をつけて、恰好な場として住み着いたか……。
「みんな、みんなは……」
『残念かもしれないけど……もう仲間は……無理かもしれない……運よく逃げた者もいればいいけど……』
「そんな……みんな……ごめんなさい……」
精霊は羽をたたみ、泣き崩れる……。
精霊には申し訳ないけど、仲間はマナイーターに魔力を吸われて息途絶えたかもしれない……。
俺は許さない……コイツを放っておくわけにはいかない――倒す。
「エフィナ、確認するが、俺たちでも倒せるか?」
『ハッキリは言うけど、難しいよ。あのマナイーターはここら辺の魔力が良いのか、かなり大きくなっている……それでもやるかい?』
「ああ、絶対に倒す……」
『わかった、けどボクの言うことは聞いてね』
「わかった、どうすればいい?」
『よろしい、まずは――』
エフィナの指示に従う――。
近くに降りるのは自殺行為だから魔力を吸われてない――50㎞くらいの離れた平地に着陸する。
シエルは危険だからその場に待機をさせる。
精霊も危険だとエフィナが言うけど――。
「私も行く! あいつは絶対に許せない! みんなの仇を取りたい!」
と言って引かなかった。
さっきまで泣き崩れていたが、今度は怒りに変わってしまったようだ。
これ以上聞いてくれないからエフィナは渋々了承をした。
『みんな気をつけるのじゃよ!』
「大丈夫、早く片付けるから」
『シエルも危なかったら離れてね!』
「シエルも気をつけてください」
「おう、あの球体野郎は粉々に砕いてやるよ!」
「許せない……」
シエルと離れてマナイーターのところに向かう――。




