11話 試したいこと
アイシスとリンナさんの決闘から3日が経ち、あれから2人は……仲良くなっている……。
しかも、相談をするような仲に……。
受付対応の如く、リンナさんの切り替えの早さに思わず困惑してしまった……。
まあ、その性格は嫌いではないからいいけど。
何を相談しているのか聞いても内緒の一点張り、エフィナは。
『乙女の話を聞くもんじゃないよ』
そういうわけで聞いたんじゃないけど……もう……いいです。
その翌日、狩り禁止が解除されたが、またあんなことが起きないようにアイシスの同行を条件に狩りの許可が出た。
解禁初日だけど、いろいろと試したい。
昼前にアイシスに作ってもらったコートを着てホールに行くと、魔術師だね――本当の賢者みたいだ――レイは鎧よりこっちの方が似合うな。
まさかと思うけど、賢者っぽく見せるために狙って作ったのか……アイシスは周りの反応が良かったせいか誇らしげだった。
まあ作った本人が嬉しければいいか。ギルドを出て、街から30㎞の草原を目指す、今回はCランクのキラースネークだ。
街道を離れ、森の中に入り、草原へ向かう。森の中は先日雨が降ったせいか、地面が泥濘んでおり不安定だ。けど【身体強化】とエフィナの魔力で全然つらい道のりではなかった。
森の中を駆けること1時間、森を出ると周りは一面草だらけ。目的の草原に着いたようだ。
不思議なことに、あれだけ泥濘んでいた場所を走っていたのに、俺とアイシスは泥一つ付いていなかった。コート自体に魔力がコーティングされているからか、泥がついても弾くようになっていたようだ。
とんでもないものを作ってしまったね……、アイシスさん……。
アイシスのメイド服は魔力を通しやすいからか、コートと同様に水や泥などを弾くのかもしれない。しかし、決闘のとき着ていたメイド服は、あれ以降は着ていなかった。尋ねてみたら――。
「あれは勝負する時しか着ません」
と彼女は答えた。彼女のこだわりは強いと解釈した。
草原周りを見てもホーンラビットしかいないので、もっと奥へと探す――警戒したホーンラビットがこちらを目指して突っ走ってくる。慌てることなく【武器創造】で剣を出し、首を切る。魔力が増えたから切れ味が良い……ん? 銀の剣を握っていた……。
あれ? 普段通りに出したのにバージョンアップしている……。やっぱり魔力が増えると質の良いものが創れるのか……。
ほかにも試してみると、弓矢を出すとやはり銀だった。100m先のホーンラビットを狙って弓を引き、射つ――はやっ!? 頭に直撃し、貫通した……。
もう威力がおかしい……。
「お見事です!」
パチパチと拍手をしているけど、アイシスさん……やめてください……エフィナからもらった魔力なのでやめてください……。
仕留めたホーンラビットを回収し、キラースネークを探す――草原を散策して30分経過、3㎞先に大型の魔物の反応が出た。1㎞辺りで蛇と似たような形をしたのが見えた、間違いない。危なかったらアイシスに援護をお願いすると、彼女は頷く、本当に良い子だ。
200mくらいで魔剣を出す、今回は魔法を使わずに挑む、100mくらい近づくとこちらに気づく、およそ、10m以上の巨体を引きずりながらこっちに来る。
大きい牙で噛みつこうとするが、横に飛びながら躱す。
体制を整え首目掛けて飛び――剣を一振りし、首を切る――硬い骨も断ち切り、仕留めた。
さすが魔剣、切れ味が良すぎる……しかし違和感がある。
するともう1匹こっちに来る――同様にそいつも同じやり方で仕留める……やっぱりおかしい。
レッドオーガの時は危機感で気にすることはできなかったけど、魔剣を持っている左手に違和感がある。
試しに右手に持ち替えると――魔力の循環良くなって軽い……しかも魔剣が輝いている……まさかこの魔剣はスキルの【交差利き】が発動しているのかもしれない。
そう考えるともう1匹反応があった。試しに右手でキラースネークを切る――スパッと豆腐みたいに柔らかく切れた……ちょっと待て!? 左手とは切れ味が全く違うぞ!?
しかも切れたところ凍っている! やっぱりスキルが発動しているのか……アイシスに聞いてみる。
「魔剣を使っていたけど、右手と左手どっちがいい?」
「右手がいいです。右手に持っていただいた方が心地よいです。」
「そうか、左手はどうだ?」
「可もなく不可もない感じです……」
【交差利き】が発動してるのか? それとも魔剣によって持ち手による相性があるのか? エフィナに聞いてみる……。
『多分だけど両方だと思うよ! 交差利きのスキルが発動しているし、アイシスは右手と相性がいいみたいだね!』
つまり……右手で魔剣を持っている時は左手と同じ感覚で剣を振れる。これが【交差利き】が発動しているということだ。
アイシスは右手の方が相性が良く、力を発揮できるという解釈でいいか。
まさかここで【交差利き】が役に立つとは思わなかった。アイシスと相性が良すぎだろう!
じゃあ【器用】のスキルはどうなるんだ?
ややこしくなるからそこは考えるのをやめておこう。
ってことは…レッドオーガの時、不完全なまま使っていたことになる……。
末恐ろしい……。
これは本当に人前に出すのはやめよう。あと、魔剣に頼り過ぎてもダメだ、強い魔物だけ使う前提でいこう。
アイシスにも人前で魔剣を出さないようにお願いをする。彼女も承諾してくれた。
いろいろと収穫できたし、今日はここまでとしよう。キラースネークを収納して、街へ帰る。
ギルドに戻り、換金所に向かう――リンナさんが担当だった。
「お帰り、レイ君。アイシス、今日はどうだった?」
「結構いいのが獲られましたよ」
ここでは危ないからギルドの裏にある解体場所に移動し、キラースネーク3匹とホーンラビット13羽を収納から出す。
「いいの狩ったわね!」
リンナさんの目が輝いていた。まあそのつもりだけど。
「キラースネーク1匹はギルドに奢りますよ」
「やった! ありがとう! 夕食が楽しみだわ!」
リンナさんはそれをギルドの人に伝えると。
「「「よっしゃ――――!」」」
テンションが上がっている。
キラースネークの肉はとても人気で、初めて食べたときは脂がのっている硬い鰻を食べているようで大変美味しかった。
鰻と同様のスタミナ食で、肌の艶が良くなることで女性にも大人気である。持ち運びも困難なため、市場ではあまり売られていない。
無限収納とアイテムボックスがあれば、キラースネークだけを狩って生計を立てることも可能だ。
「あっ、そうだ! ギルド長がレイ君を呼んでいたわ」
「わかりました、査定の方よろしくお願いします」
――ギルドマスター室へ行く――
「おう、レイ、嬢ちゃん! 良い物件が見つかったらしいぞ!」
「本当ですか!」
「ああ、明日領主から直接話を聞いてくれ。あと、嬢ちゃんも一緒にな。多分話が長くなるから気をつけろよ」
「わかりました、それと今日の夕食はキラースネークの肉を使いますよ」
「おぉ、マジか!? 楽しみだ!」
「では、失礼します」
換金所に戻り、査定が終わり金貨1枚、銅貨13枚を受け取る。食堂に行き、調理室を覗くと既にキラースネークの肉が置かれている。
解体するの早すぎるだろ! まあ、それほど楽しみにしてるってことか。
みんなでキラースネークの香辛料焼きを美味しくいただく――。