112話 故郷の人が来た
シエルがミツキさんの故郷に行く当日になった。
1日分の食事を用意して準備ができた。
みんなで見送りをするため、屋敷を出てミツキさんを待つ。
――昼前頃。
ミツキさんが軽装の鎧を着て来た。
「みなさん、おはようございます! いい天気ですね!」
「おはようございます。ところでウィロウさんとグラシアさんはどうしましたか?」
あの2人がいないのは珍しい、何かあったのかな?
「ウィロウさんとグラシアさんはAランク昇格試験を受けに行きました!」
「そうですか、しかし急ですね」
「それはレイさんたちの強さを見て刺激されたと思います!」
いや、俺たちを比べてはいけない気がする……Bランクでも十分強いですけど……。
「ハハハ……そうですか……これは1日分の食事です。シエルの分もお願いしますね」
ミツキさんにお弁当を渡した。
「わ~い、カレーとウナギ丼にオムライスだ! いつもありがとうございます!」
ミツキさんはお弁当をアイテムボックスにしまった。
「シエル、頼んだぞ」
『問題ないのじゃ、ミツキを無事送って見せるから安心しておくれ』
シエルは胸を張って言った。
相当な自信だ。
「それでは行ってきます! シエルさん、1週間よろしくお願いします!」
『心得た』
「気をつけて」
『寄り道しないようにね~』
「お気をつけてください」
「無茶はするなよ!」
「いってらっしゃい!」
ミツキさんはシエルに乗り――翼を羽ばたかせて、上空に飛んで故郷である西の方角へと向かった。
――――◇―◇―◇――――
――1週間経過した。
普段通りゆっくりしていた。アイシスは裁縫、フランカは鍛冶とやりたいことをしていた。
精霊は……最近落ち込んで元気がない。
どうしたのか聞いてみると。
「なんでもないよ……」
何かあるだろう……。
エフィナにも聞いてみた。
『う~ん、ボクも聞いたけど、レイと同じような反応だったね。多分だけど、シエルがいなくなって寂しいと思うよ』
「そうなるか、予定だと今日帰って来るから大丈夫か」
昼食の前に窓からシエルの姿が見えた――帰って来たか。
ん? ミツキさん意外にほかに誰かいるみたいだな。
外に出ると――そこにはポンチョみたいのを着た小人が2人いる。
そしてシエルは……息が荒く疲れているのだが……。
「ただいま戻りました! シエルさんお疲れ様です!」
ミツキさんは笑顔でシエルから降り、続いて小人2人が降りて大はしゃぎだった。
「空の旅楽しかった! またお願い!」
「わ~い、大きい建物だ~! そこの人たちも大きいね!」
『主……戻ったぞ……妾もう休む……』
「お、お疲れ……ゆっくり休んでくれ……」
シエルは眠りに入った。
ミツキさんの故郷でいろいろとハードワークしていたのかもしれない。
大体予想がつくけど、体力が回復したら聞いてみるか。
しかし……小人2人はここが珍しいのか、周りを見渡している。
「仕入れお疲れ様です。ところであの2人は……?」
「親戚が商館で働きたいって言ってきたので、連れて来ました! 2人ともこっちに来て挨拶だよ!」
「「は~い!」」
ミツキさんが遠くに離れた2人に大声で呼ぶと走ってこっちに来た。
まさか他の小人が来るとは意外だな。
「ヒナです!」
「ユナです!」
笑顔で挨拶をしてくれた。
おかっぱの髪型で目がクリクリしているのがヒナで、ロングの髪型でジト目の方がユナか。
日本人っぽい名前ですね。
ミツキさんよりは背が低い、130㎝あるかないかだ。
そして笑顔が眩しい……。
『レイの母性が爆発しそうだね……いいような悪いような……』
またエフィナが訳のわからないことを言う。
「こちらがいつも言っているレイさんたちだよ! 失礼のないようにね!」
「わ~い、レイさんだぁ~! いつも村の食材を買ってくれてありがとう!」
「よろしくお願いします! レイさん大きいですね!」
「ハハハ……よろしく」
俺たちも挨拶をして――ヒナとユナはみんなと小さな手で握手をする。
ミツキさんの故郷では俺たちのことを言っているのか。
まあ、あれだけ買えば言うか。
「シエルさんに乗って行くと1日で早く村に着きました! 本当にありがとうございました! これは約束の品です、受け取ってください!」
ミツキさんはアイテムボックスから大量の食材を出してくれた。
結構な量だな……シエルの分含んで1ヶ月以上は保つ気がする。
「ありがとうございます……こんなにもらっていいのですか……」
「はい! みんなシエルさんにお世話になっておりますから、これくらいが適量だと思います! もし少なかったら言ってくださいね!」
「いえ、これで十分ですけど……」
やっぱりシエルで何かしていたか。
大変であるが今後シエルには頑張ってもらおう。
「それでは、これから領主様に会ってヒナとユナの在住許可証の申請をしますので、失礼します!」
そう言うとヒナとユナのお腹がぐうっと鳴る。
「ミツキ、お腹が空いた!」
「私も! 朝から軽いのしか食べてない!」
「わかった! その前に昼食でも食べよう!」
「「やった~!」」
ちょうど昼食のタイミングだし遠くまで来たから美味しいのでも作るか。
「でしたら俺のとこで食べませんか? いろいろともらって申し訳ないので」
「いいのですか!? わ~い、ありがとうございます!」
「「「わ~い、ご飯だ!」」」
3人とも庭を駆け回り大喜びでした……。
こうしてみると子どもですね……。
「だったらあれを作ったから持って来るぜ!」
あれってなんだ?
フランカは家に戻り――見覚えのあるやつを持ってきた。
「ほらよ、アイシスが欲しかったタコ焼きプレートだ」
よくタコ焼きプレートなんて作ったな……もう一つ比べ物にならない大きなプレートも持ってきた。
これはシエル用かな?
「ありがとうございます。では私が全身全霊でタコ焼きを作りますので、少々お待ちください」
アイシスは1人で作るみたいだ。
「え? 俺も手伝おうか?」
「ご主人様は見ていてください。ここから私の戦場ですから」
タコ焼き作るのに気合いが違う……タコが好きとか言っていたから、作るのも譲れない何かがあるのか。
「わかった、とびっきり美味しいのを作ってくれ」
「はい、ご主人様」
『アハハ! アイシスが燃えている! おもしろい!』
エフィナさん、アイシスは命懸けで作るのでそこは笑ってはいけませんよ。
「しかし、タコはあるけど、肝心な食材が揃っていないな……鰹節と青のりとか……」
「問題ありません。これを見てください」
アイシスは無限収納から大きなテーブルを出してその上に鰹節? 出汁、青のり、天かす、紅ショウガ、刻んだ長ねぎ、ボイルしたタコ、タコ焼き用のソースなどいろいろ出した。
「これ鰹節なのか? しかも青のりもある……」
「違いますよ、オレンジサーモンで代用した鮭節です。青のりはカイザーオクトパスの後、ご主人様が寝ている時に海藻を取って青のりにしました」
「そうか……用意するの大変だっただろう……」
「いえ、大好きな物に手間をかけるのは当たり前です。より美味しくなりますから」
相変わらずすごすぎて抜け目がない……。
まあ、久々にタコ焼きが食べられるのは嬉しいけど。
アイシスは気合いを入れているのか鉢巻きをしてタコ焼きを作る。
先程庭を駆け回っていた3人も珍しいのか興味津々で見る。
熱したプレートに油を馴染ませて生地を流し込み――具材を入れる。
焼き加減を見ながら串で転がして形を整ったら皿に盛り付けてソース、青のり、鰹節をかけて完成した。
「どうぞご賞味ください」
「「「いただきます!」」」
ミツキさんたちは口を大きく開けて食べる。
「そんな思いっきり食べたら火傷する……」
「「「おいしいです!」」」
熱いはずなのにドンドン頬張って食べている。
大丈夫なのか……。
『加護が発動しているみたいだね!』
それを忘れていました……。
ミツキさんとこの守り神って万能ですね……。
俺も食べる――うん、外はカリッとして中はトロッとして、とても美味しいです。
鮭節も味が濃くてとても気に入りました。
さすがアイシスだ。
「美味しいな! 辛さが物足りないからタバスコかけるぜ!」
フランカは変わらずタバスコをガンガンかけて食べていました。
横目で精霊はいつも通りドン引きです。
「「「おかわり!」」」
「少々お待ちください」
ミツキさんたちは次々と出来立てを食べていく。
結構な量を食べてるな、小人ってみんなそうなのか。
「「「アイシスさん、ありがとうございました!」」」
満面な笑みでお礼を言った。
「お粗末様です」
「よ~し、お腹いっぱい食べたし、領主様の屋敷に行くぞ~」
「「お~!」」
なぜだろうか、こうして見ると遠足に行くみたいな感じですね……。
『ヤバい! レイの母性が…………』
エフィナさんもういいです……。
「それでは、さようなら!」
「また、食べたいです!」
「レイさん、またね!」
こうしてミツキさんたちはミランドさんの屋敷に向かった――。
今後、賑やかになりますね。
アイシスも落ち着いたのかタコ焼きを食べる。
「美味しい……作った甲斐があります……」
笑顔で食べて魔力が輝いています。
お菓子並みに好きみたいだ。
『妾も食べたい……』
シエルは匂いで起きたか。
「少々お待ちください、私が食べたら作ります」
『わかったのじゃ……』
「疲れてるなら私がマッサージしてあげる!」
先ほど落ち込んでいた精霊はシエルが起きているのがわかると、元気を取り戻した。
やっぱり寂しかったみたいだ。
マッサージと言ったなエフィナから教えてもらったのか。
その後、アイシスが大きなタコ焼きプレートで作ってシエルは大喜びで食べた。
食べた後はすぐ眠りについた。
ミツキさんの村で何があったのか疲労が回復したら聞いてみるか。
 




