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10話 決闘、魔剣の実力

 ――決闘当日。

 決闘場所は街から5㎞くらい離れた平地。当然、魔物も出る可能性があるのでギルドの人たちで警戒をする。

 リンナさんはやる気満々で、朝早くからすでにそこにいるみたいだ。

 アイシスは……まだ部屋にいる……そろそろ出ないと間に合わないぞ。


「お待たせいたしました、ご主人様」


『おぉ~似合っているね!』


 その姿を見ると、服装が違う。少しスカートの丈が短い……。

 準備って……これを作っていたのか……。

 確かに今まで着ていたメイド服よりは動きやすいが、見た感じ……ゴシックロリータじゃない? 

 

「なるほど、この服を作ってたわけか……」


「はい、勝負服を作っていました。普段着ていたものと同様に魔力を透しやすく作りました」


 えっ? あのメイド服ってそんなに高性能だったのか! 


「そうなのか……まさかゴスロリの服装になるとは……」


「メイド服でございます」


「……ん? メイド服なの?」


「はい、似てはいますがメイド服でございます」


『どう見てもメイド服だね!』


「そうか……」


 あっ、もういいです……2人が言うのならメイド服だな……。


「そろそろ時間になるから行くぞ」


「はい」


 ――決闘場所に着くと、周りにはギルドの人たち、噂で聞きつけたのか街の人々、それに門番の人までいるじゃないか!? 仕事しなくて平気なのか!?

 震えている人がいる……まだ【威圧】のトラウマがあるなら来なくてもいいのに……。

 しかし、これが見せ物ではないのにこんなに集まるとは……。

 俺とアイシスが来ると、小声で――あれが賢者の弟子か――美しい――賢者の妹らしい――賢者の愛人らしい――レイの許嫁だって――など言われる……。

 変な噂が広がるのは勘弁してほしいものだ……。

 人だかりを抜け、リンナさんを探す――いや、人が多すぎだろ! 500人以上はいるぞ!

 ようやくリンナさんの姿が見えた――あの……禍々しい鎧を装備して、ゴツイ剣を持っているのですが……鱗が付いている、もしかして竜か?


『いや~まさかと思うけどあれは、竜の剣(ドラゴンソード)竜の鎧(ドラゴンメイル)だね! 竜の素材は、魔力の扱いが難しいけど、使いこなせば剣の方はミスリルより切れ味が良くて、鎧はオーガの拳が当たっても傷一つ付かない代物だよ!』


 エフィナさん、説明ありがとうございます! こんな1級品を見るのは初めてだが……これって……決闘というより死闘でしょ! 明らかにアイシス殺しにきてるだろ! 

 アイシスに分が悪い降参させた方がいいのでは……。

 

「アイシス悪いとは思うが降参した方が……」


「大丈夫です、ご主人様、私を信じてください」


 全然不安ではないみたいだ、魔力がさっきよりも輝いている。


「……わかった、絶対に無理はするなよ」


「かしこまりました」


 アイシスはリンナさんに近づく。


「アナタ、時間ギリギリに来るなんて、余裕なのかしら? それとも怖気づいた?」


「違います、私は勝つ準備をしてきました」


「準備って……服装が変わっただけじゃない! それになにも武器持っていないけど、ナメてるのかしら?」


 リンナさんの魔力が膨大になった。【魔力制御】を解除したのか。しかしここまで魔力コントロールできるのはスールさん、いや、ザインさんと同じくらいかもしれない。

 もし、職員をしていなかったらSSランクの称号をもらったのでは?


「わかりました、この剣でお相手しましょう」


 青い光を放つ氷を付与した金属の剣(アイスソード)を握っている。……えっ? 魔剣(自分)使わないの?

 【武器創造・氷】を使うのか……。


『大丈夫だよレイ、あの子は対等にやりたいみたいだから、魔剣(アイシス)は使わないよ!』


 真面目ですね……。まあ魔剣を出したら大騒ぎになるかー。

 自分も人前では魔剣を出さないようにしよう。


「へぇーいいのを持ってるじゃない、てっきり杖で闘うと思ってた、アニキ、早くして!」


「待ってください、みなさん、できるだけ離れてください!」


 スールさんの指導でみんな距離をとる。

 あれ? スールさんが審判なのか? ザインさんではなく?

 連日リンナさんの相手をしてやつれていたのに大丈夫なのか? 

 ザインさんを探す――いた、大柄だから見つけやすい。


「ザインさん、スールさんが審判ですか?」


「おう、そうだ! 心配するな、2等級ポーション飲ませてあるから問題ない」


 2等級ポーションって……金貨1枚の値段じゃん!? ドーピングさせてまで審判させるつもりなのか……。


「そんな高価なものを飲ませて、審判をさせるのも酷な気がしますが……」


「俺がするつもりだったが、リンナちゃんが不正をしないか見極めるために、スールに変えたってことだよ。まあ、俺は周りに被害が出ないように動けるのは良いんだがな……」


 不正は絶対にしないと思っているが……それにしてもスールさん、お疲れさまです……。


「まず、規則を説明したいと思います。どちらかの体力または魔力が尽きたら負けです。そして、魔法の使用を許可します。両者構え――始め!」


 リンナさんがアイシスに距離を詰め、剣を振りかざす――速い! それをアイシスは剣で受け流すが、リンナさんは剣撃を繰り返す――アイシスはそれに対応して剣で受け流し続ける。


 しかし……2人ともすごいな……リンナさんは剣と鎧はかなり重いはずなのに、俊敏に動いて剣を振るっている。アイシスはそれを軽々と受け流している。 

『ほら、言ったでしょ! アイシスはレイが思うほど弱くはないって!』


『ああ、アイシスに謝らないといけないな』


『これ終わったらケーキ買ってあげな!』


『あぁ……』


「嬢ちゃんがここまでやるとはな……本当に賢者の弟子なのか? 剣聖の弟子の間違いだろ……」

   

 ごもっともです……魔剣ですのでその方がしっくりきます。


「すげえ……こんなの見るの初めてだ……」

「なんにも見えねえ!」

「絶対に闘いたくねぇ……」


 まあ周りはその反応になりますよね……。


 ――5分以上経っても状況は変わらない。お互いに息も切れずに攻防が激しい。しかし、アイシスは全く攻撃をしない。リンナさんの体力を削るだけなのか? それとも他の策があるのか?


「アナタ、やるわね……けど、いつまでそうしていられるかしら」


「わかりました、それでは魔法を使います――――アイスフィールド」


 一瞬で周り一面が冷気で包み込まれる。


「さみぃ~」

「なんだ、この魔法!?」


「オイオイ、これ氷魔法なのか!? 聞いたこともないぞ! それに無詠唱もあるのか!?」


 アイシスと俺が使えるオリジナル魔法だ。多分リンナさんの体力の消耗も激しくなるはずだ。

 それに……金属音が鳴り響く度に竜の剣(ドラゴンソード)が凍りつく。

 この魔法は衝撃を与えると空気中の水分と反応して凍る仕組みになっている。

 このままアイシスに攻撃を続ければ、氷漬けなる。

 これはアイシスが有利になったか。


「なんなの、この魔法!? アナタだけ凍らないのは卑怯よ!」


「卑怯ではありません、自己防衛魔法です」


 アイシスは氷の魔剣だから凍るはずがない、むしろ、快適なはずだ。リンナさんはもうアイシスの()()()()の中にいる。

 しかし、俺は全然寒くはない。【氷剣の加護】を持っているから、涼しいくらいだ。

 リンナさんの動きが鈍くなっている。しかも、腕の辺りまで凍ってきた。


「キリがないわね!」


 リンナさんは攻撃をやめ、引き下がり、距離をとる。詠唱を開始した。


「炎よ、我が拳に宿り、敵を滅せよ――――フレイムナックル!」


「――――アイスウォール」


 炎の剛球は氷の壁に塞がれ周りは冷気で真っ白に……リンナさんは……いない……。

そしてアイシスの背後に―――。


「もらった! ――――刺剣!」


「――アイスバインド」


 剣はアイシスの一歩手前で止まる。リンナさんは足を氷漬けにされ、動けない。徐々に足からお腹まで凍っていく。


「なんで……【隠密】を発動したのにわかるの……」


「魔法を発動したままです。冷気を読み取り、正確な位置を把握できます。それに、氷がある限り()()()()です」


 リンナさんは諦めたのか剣を落とし、泣きそうだ。


「そ、そこまで。勝者、アイシス!」


 周りは大きな歓声や拍手で大いに盛り上がる。


「すごい~」

「賢者の弟子って本当に強いんだな!」

「最高の闘いだった!」

「2人とも強かったよ!」

「歴史に残りそうだ!」


 本当に良い闘いだったけど、ここからが大変だ。リンナさんは納得するのだろうか……。


「お前ら! 決闘は終わった! 解散だ!」


 その声で、みんなは街へ帰っていく。もうすっかり夕暮れ時、残ったのは俺たちだけ。


「リンナ、負けを認めて帰りましょう」


「うぅ……レイ君……」


 スールさんは慰めているが、ダメだ……無視されている……。

 ザインさんは溜息をつき、少し離れ、俺と話す。


「なあ、レイ、リンナのことどう思ってる?」


「ギルド内の家族だと思っています」


「はあ……やっぱりか……実はな、リンナはお前のこと好きで、伴侶として迎え入れたいみたいだ……」


『ほら! ボクの予想通り!』


 はい? ちょっと聞き間違えましたか…伴侶ですか…。好きだというのはわかりますけど…伴侶ですか…。…。


「いやいや、いきなり伴侶にしたいなんて言われても困りますよ…人間とエルフですよ! 寿命が…」



「まあな、けどよ、お前とリンナは魔力の質も量もほぼ同じになっているから大丈夫だ」


「それってつまり……」


「病気にならない限りは死なないな! 不老状態だ! リンナは最初からレイを見極めていたってことだ!」


「だからずっと一緒にいたいってことですか……」


「そうだ! 嬢ちゃんが来たことでかなり焦っている感じだ。すぐとは言わないが、考えておいてくれ。すまないが、リンナを説得してくれ」


 と言われてもな……確かに今は答えが出せないが、なんて言うか……。


『レイ、あの子は周りがいなくなるのが寂しいのだよ。周りが寿命を迎え、一人ぼっちになるのは嫌なんだと思う…ボクも一人になるのは嫌だよ…』

 

 エフィナはその経験をしているから言えるのか……そうだよな。


『ありがとう、エフィナ、おかげで吹っ切れたよ』 


『えへへ、どういたしまして!』


 リンナさんに近づき、気持ちを伝える。


「リンナさん、ザインさんから話を聞きました」


「そうなの……それであの賢者の弟子と一緒に住んで、そのうち街を出るの……?」


「アイシスと住みますが、街を出ることは考えていません。もし街を出るとしたら一緒に来ますか?」


「えっ……? それって……」


「もしもですよ、けど今はまだリンナさんをギルド内の家族としか見られません……」


「うぅ……そんな……」


「ですが、伴侶にしてくれるのはとても嬉しいですよ! ……それで、気持ちを整理するのに時間をください!」


「……え?」


「まだリンナさんの気持ちに答えられませんが……時間をください! いつになるかわかりませんが、こんな優柔不断な俺を待ってくれますか?」


「レイ君!」

 

「いっ!」  


 リンナさんが抱きついてきた……力が強い……。


「うぇーん! ……うぅ……待つよ……いつまでも待っているから……うぅ……返事……おねがいね……」


「はい、それとアイシスを認めてくださいね」


「……うぅ……それは……」

  

 なぜそこは黙るのですか……アイシスが勝ったから認めてください……。


「ちなみにですが、私はご主人様のメイドですので愛人くらいが限度です。もしご主人様がよろしければ2番目以降の妻にしてくれるのでは……」


 何言ってるんだ! アイシス! 火に油を注ぐ発言をして! これだとリンナさんは……。


「……そうなの? じゃあ認める! 私が悪かった! 淫らな行為も認める!」


 なんで!? そこはあっさりOKなんだ!?


『どうやらアイシスが1番目になると勘違いしてたね!』


『この世界の1番と2番の差はどれくらいだ?』


『天地の差だよ! だから焦っていたのだよ!』


 そうですか……あっ……もういいです……。


「とりあえず、問題は解決したな! 良かったな嬢ちゃん! それと良い闘いだったぜ!」


「ありがとうございます。皆様のおかげです」


「そうかしこまるなって! さて帰るぞ!」


 ザインさんは剣を持ち、リンナさんを担いだ。


「ちょっ! ギルド長! 私はレイ君と一緒に帰りたい!」


「お前はまだ動けないだろ! レイ、嬢ちゃん! 先に帰ってるぜ!」


「うぅ……わかったわよ、レイ君、それに()()()()またギルドでね!」


 あれ? アイシスを名前で呼んだ。認めてくれたのか、本当に良かった……。


「ザイン、リンナ、レイに何の話をしていたのですか? 私にも説明してください!」


 スールさん、このくだり、わからなかったのですか……3人の姿は見えなくなった。


 とりあえず一件落着か。

 それにアイシスもよく頑張ってくれた。


「アイシス、お疲れさま。そして、ごめん!」


 俺はアイシスに頭を下げる。


「なぜ謝るのですか!?」


「まさかここまで強いとは思わなかった。もっとアイシスを信用すればよかった。 これじゃあ、主として失格だ!」


「私は当然のことをしたまでです! 頭を上げてください!」


 本当に真面目な魔剣だ。俺にはもったいないくらいだ……。


「では、私が勝ったのでお願いしてもよろしいでしょうか?」


「ああ、なんでもいいよ!」


「その……街に戻るまで手をつないでもよろしいでしょうか?」


「ああ、わかった!」


 手をつなぐと、アイシスの手は少し冷たかった。


「ありがとうございます。ご主人様の手は本当に温かい……」


 アイシスの魔力が回復している。直接触れることで回復できるのか?


「帰るか……」


「はい……」


 お互い照れくさく、夕暮れの街道を歩き街へ帰る――。

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