105話 騎士と稽古
――翌日。
エフィナの起こされると――昼になっていた。
リビングに向かうと――アイシスはハチミツミルクを飲みながら編み物をしている。
「おはようございます。軽めの食事を用意したので、お食べください」
昼食に近い時間だからありがたい。
テーブルにはおにぎりと熊の味噌汁だと思うのだが……肉が山盛りですけど……。
「肉が多いのだが……」
「適量でございます。王国騎士の方々と稽古しますので、このくらいがいいと思いました」
『そうだよ、軽食なんだから余裕でしょう』
いや、軽食とはいったい……はい、もういいです。
みんなにどこに行ったかアイシスに聞くと――フランカは工房で作業、精霊はハチミツの妖精のとこに行き、シエルは花畑に散歩、ミツキさんたちは村を散策しているらしい。
昨日夜遅くまで宴をやっていたのにみんな早起きですね……。
食べ終え、騎士が稽古している場所に向かう。
外に出ると――ハチミツの妖精は行き来している。
蜜集めを再開したみたいだ。
この様子だと問題なく作業している。
ハチミツを大量に購入できるのが楽しみだ。
待ち合わせ場所の村の東の隅っこに騎士の寮に向かう。
歩いているなか――村の人が挨拶をしてくれたり、ハチミツの妖精は笑顔で手を振ってくる。
本当に長閑でとてもいい場所だ。
ハニーベアーを討伐した甲斐がある。
寮が見えてきた――うん、立派ですな……大きな3階建ての家だ。
確か20人派遣されてるとかオーウェンさんは言っていたな。
「お待ちしておりました。レイ殿! 今日はよろしくお願いします!」
まだ少し距離があるが、俺に気づいて大声で言ってきたのは、昨日稽古の申し出をした茶髪の爽やかな青年のネクスさんだ。
「こちらこそよろしくお願いします」
「はい! ではこちらで稽古しましょう!」
寮の裏に案内されると周りとは違い、足場が整備された稽古場だ。
ほかの騎士たちも俺を待っていたかのように、うずうずしている。
そんなに期待はしないでください……。
ネクスさんは稽古用の木の剣と盾を持ち――準備ができている。
俺も【武器創造】で木の剣を出し――右手に持ち準備ができた。
「それではよろしくお願いたします!」
ネクスさんの目の色が変わった。
魔力も多く出している。
お互いに探りながら隙を見つけている。
キリがない――俺が先手を取る。
相手に距離を詰めて横腹を狙う――。
それに反応したのか盾を使って剣を受け止められて防ぐ。
予想通りだ。
防いだ剣を盾で弾き――剣を持って手で俺に剣を振ってくる。
すかさず後ろに下がり――躱す。
ネクスさんの戦法は重戦士と同じやり方だ。
相手が攻めて来ない限り少々やりにくい相手だな。
そうなると盾で防ぎながら相手の体力と魔力を削って弱ったとこを狙う感じか。
面白い、相手の戦法に乗っかるとしよう。
相手の真っ正面で剣を振って――盾で防がれる。
相手が剣を振って来る前に距離を取り――後ろに周り剣を振るう。
ネクスさんは慌てて振り向き――盾で受け止める。
なるほど、素早い相手の対処に慣れていないみたいだ。
繰り返し同じように――前、後ろ、右、左、と周りながら攻める。
――15分後。
ネクスさんの息が荒くなり、防ぐのに精一杯のようだ。
そろそろ頃合いかな。
このまま距離を取らずに攻める――ネクスさんは盾で剣を弾き――剣を振って仕掛けてきた。
疲労が溜まったのか振りが遅い――躱して剣を持っている手を狙い叩く。
「しまった!?」
ネクスさんの剣は手から抜けてしまい焦っている。
その隙が命取りだ。
少し下がり――魔力を少し使い突っ込む――。
「――――翔斬!」
「グアァァ――!?」
盾で防ごうとするが、受け止められず後ろに吹っ飛んで倒れた。
「勝負ありですね」
「完敗です……」
勝負が決まり――見ていた騎士たちからパチパチと拍手をもらった。
「すごい戦い方だ……勉強になります!」
「さすがフェザースネークを退けた氷迅の魔導士殿だ!」
「強い……さすがです……」
倒れたネクスさんを手を貸して――起こす。
「ありがとうございました! 少し休憩したらまたお願いします!」
まだやるのかよ!?
時間もあるし付き合うか……。
「わかりました……」
「ありがとうございます!」
まあ、いいか。
俺も少し休もうとすると――。
「次は俺と稽古してください!」
「次は私も!」
「僕もお願いします!」
…………はい?
ここにいる全員と、するのか……。
ほかの騎士とも稽古するようになった。
槍、双剣、両手剣、ハンマーなど使う人と相手しました。
――2時間後。
「昼食の時間ですね――レイ殿も一緒に食事しませんか?」
「ありがたいのですが、アイシスが食事の用意をしているので、いったん戻ります……」
「わかりました! その後もよろしくお願いします!」
そう言って騎士は寮に入って昼食を摂りに行く。
結局休まずに稽古をしてしまった……。
午後もするのかよ……。
『アハハ! モテモテだね!』
エフィナ……茶化すんじゃあ、ありません……。
すると――アイシスが来てくれた。
どうやら昼食を持ってきたらしい。
ありがたい。
パンと熊肉のシチューを食べて――稽古を再開。
騎士たちはアイシスが来たことがわかると。
「アイシス殿も稽古お願いします!」
「私ですか? わかりました、よろしくお願いします」
アイシスも巻き込まれました……。
アイシスと交代しながら稽古をし、夕方になった。
「「「今日はありがとうございました! またよろしくお願いします!」」」
またとか勘弁してくれ!?
護衛の仕事もあるのにどんなけ体育会系なんだ!
休みの日はゆっくり休めよ……。
オーウェンさんが仕事が終わったのか帰って来た。
「先輩、お疲れ様です!」
ネクスさんは気持ちよくオーウェンさんに挨拶をする。
まだそんな体力あるのか……。
「ああ、ところで稽古の方はどうだった?」
「強すぎて手も足も出ませんでした! さすがレイ殿とアイシス殿です!」
「そうか……私も稽古したくなってきた……申し訳ないがレイ殿とアイシス殿……明日手合わせしてくれないだろうか? 私は明日仕事が休みなのでどうかお願いします」
…………えっ、オーウェンさんもですか……。
しょうがない……明日も稽古するか……。
俺とアイシスは了承した。
「ありがとうございます! 明日から鍛えられるぞ!」
いや、1日だけ稽古しても鍛えられない気がするが……。
明日もゆっくりできそうにないな……。




