98話 飼うことになりました
「本気で言っているのか……?」
そう言うとブルーワイバーンは尻尾を振って頷く。
『そうじゃ、長年こんなに優しくされたのは初めてじゃ……この恩は返さないといけない……だから其方――主に忠誠を誓う』
タダ飯食わせただけでか!?
「いや……大したことはしてないだろう……」
『何を言うか、主よ! 妾は死にかけたとこを助けて美味な食事を提供したのだぞ! 大したどころではないであろう!』
完全に好かれました……。
ついて来るってことは街に住むってことだよな……。
絶対に街中がパニックになる……。
「わ~い、私は大歓迎です!」
「私も!」
ミツキさんと精霊は喜んでいますね……。
「魔物が同行する……夢を見ているのか……」
「予想外ですわ……どうしましょう……」
ウィロウさんとグラシアさんは困惑している。
俺も困惑してますよ……。
「ご主人様にお任せします」
「アタイはどちらでもいいぜ」
アイシスとフランカは至って普通だ……。
さて、どうするか……。
『ボクは歓迎するよ、長年寂しい思いをしていたからまた独り身になるのはつらいよ』
それを聞いたブルーワイバーンは目をウルウルしている……。
エフィナは経験しているからその気持ちがわかる。
…………しょうがない連れていくか。
ミランドさんに説得して――もしダメだったら街の外で門番的なことさせれば魔物もよってこないし、メリットもある。
「わかったよ……ついてきてもいいが、コキ使うかもしれないぞ?」
『主に使えるなんてありがたき幸せじゃぞ! 妾を存分に扱ってくれ!』
なぜか尻尾を振って喜んでいる……。
「と言うことでウィロウさんとグラシアさんブルーワイバーンを連れていきますけどよろしいでしょうか? ミランドさんにはちゃんと話しますので」
「まあ、レイなら安心か」
「レイでしたらなんとかなりますわね」
俺だったらいいのかよ!?
意外にあっさりで助かるけど……。
「それじゃあ、よろしくな。そういえば名前は聞いていなかったな」
『こちらこそ生涯忠誠を誓うぞ! 妾は名はない……主が付けてくれぬか?』
長年生きていても名無しなのか……どうするか……稀種だから宝石と一緒でサファイアでもいいのだがしっくりこない……。
サファイアは天空の宝石と言われてるから……スカイ――いや、フランス語でシエル……にするか。
「シエルでいいか?」
『シエル…………妾に相応しい名だ!? 感謝する主よ!』
尻尾を大きく振って喜んでいる。
本当に嬉しいようだ。
「気に入って何よりだ……じゃあもうここには住まないのか?」
『そうじゃのぉ、妾はもう主と一緒に暮らすからのぉ』
「じゃあ、岩塩を多く持っていくか」
「わ~い、いっぱい持ち帰れる~」
俺とミツキさんは夕方になるまで洞窟にある岩塩を半分以上採った。
当分は塩には困らない。
――――◇―◇―◇――――
――翌日。
エフィナに起こされ――みんな外で朝食を摂っていた。
仲間になったシエルは……もう馴染んでいる……。
『アイシスが作る食事は美味なじゃのぉ!』
「恐縮でございます」
上機嫌で尻尾を振っている……朝から揚げ物ですか……。
「しかし……シエルがいるとなると……作る量が多くなるな……」
食材とかはいろいろと確保しているから問題ないが、ただ作る量を考えると大きい鍋が必要だ。
「それですが、フランカに特注用の調理器具を作るようにお願いをしましたので、問題ありません」
「アタイに任せな!」
全然問題ありませんでした……。
「いっぱい食べますね! シエルさんがいるので今後レイさんたちに村の食材を無償で提供します!」
「えっ!? いいのですか!?」
「はい! けどお願いがあります! 村に行く時はシエルさんを派遣してもいいですか?」
「派遣? まさかシエルに乗って行くのですか?」
「はい! シエルに乗ればすぐに着くと思うので!」
すごいこと考えてますね……俺からしたら好条件だ。
いや、ミツキさんもメリットがあるか。
「シエル、人を乗せるって可能性なのか?」
『大丈夫じゃが……数は限られるのぉ……』
そこだよな……。
ミツキさんは問題ないとしてウィロウさんとグラシアさんだ。
「ミツキさんが乗って行くのだったら私も乗るよ!」
「わたくしはどこでもお供します」
2人も乗る気満々だ……。
「この3人を後で乗せたいのけどいいか?」
『それなら大丈夫じゃよ、主の友人ならどこまでも飛んで行くのじゃ!』
シエルは胸を張ってバタバタと翼を羽ばたかせる。
気合が違いますね……。
「そのときは頼むよ……それじゃあミツキさん、シエルを派遣させます。ですが、彼女はまだ身体がやせ細っているので、体調が万全になった後になりますが、それでいいですか?」
「わかりました! 本当にありがとうございます! やった~これで村に楽に行けるぞ~」
喜びのあまりミツキさんはシエルの周りを回っている……。
シエルがいるとこんなにもメリットがあるとは意外だ……。
朝食を食べ終え――出発する。
「それでは行きましょう!」
『ところで主よ何処に行くのじゃ?』
シエルは首を傾げて言ってくる。
言わないと不便だよな……。
下山する方向を言うと――。
『ああ、あそこは妾はいつも行っている場所じゃ』
「…………えっ、行っているのか!?」
『行ってるも何も、あそこの花畑で散歩して昼寝しておるぞ。たまに熊が出てきて邪魔な時もあるがのぉ』
花畑に熊って……ハニーベアーか!?
いや、まだ確信してないことがある。
「そこの近くに村――いや、人とハニーハンターはいるのか?」
『人はおるぞ、妾が昼寝しているときに遠くだが、なぜか妾を拝んでいた感じがして変な奴らじゃった……ハニーハンターはわからぬが……いろいろと飛んで花の蜜を採っている奴らはいたのぉ』
あっ、はい……確定しました……。
シエルを拝んでいたとか神聖な存在になっているのでは……。
それを聞いてみんな大喜びです。
「わ~い! 本当にあった~早く行きたいです!」
「良かったですね……ミツキさん……私も嬉しいよ……」
「良かったですわ……ミツキ様……わたくしにも嬉しいですわ……」
「ああ……ようやくハチミツが手に入る……」
「よっしゃー! アタイのハチミツ酒待っていろよ!」
「早くハチミツを果物につけて食べたい!」
これなら安心して行ける。
そして意外なのが……。
「シエルって花が好きなのか?」
『そうじゃぞ、主よ。妾は乙女だから花は好きじゃぞ』
自分で乙女って言わなかったか!?
『いい趣味をしているね! シエルは綺麗だからお花が似合うね!』
エフィナの発言で顔が赤くなっている……照れていますね。
「ハハハ……そうか……案内頼めるか?」
『ま、任せておくれ!』
シエルは翼を羽ばたいて飛び――俺たちは後を追い、下山をする。