9話 決闘準備、自分は料理
アイシスとリンナさんは決闘の準備をしていた。
俺は何もできないから……食堂を借りてうどんを作っている。
この世界に来て唯一作れる日本食がうどんである。とはいえ、ほかにも作れないことはないけれどね……。
せっかく無限収納があるのだから、大量に作って入れておくことにする。
出汁も作り置きしてしまうのもアリだな。出汁はホワイトバードの骨付き肉を鶏ガラスープにし、さらに香草や野菜を入れて煮込んで完成させたものだ。
さすがにカツオ節、煮干し、昆布はないから、時間に余裕があれば代替品を探そうと思っている。
『これがうどんか~。面白い作り方だね!』
「エフィナは見てて楽しいか?」
『うん! パスタやラーメンも見てみたい!』
「作れないことはないが、パスタマシンがあれば楽なんだよなー」
『そうなんだー。探せばあるんじゃない?』
「この世界はパンが主食だから、麺文化が浸透していないし探すのは難しいかもしれないな」
『じゃあ、もし見つけたら作ってね!』
「もちろん!」
とはいったもの、多分パスタマシンはこの世界に存在しないと思う、食の歴史の本で調べてもパンばかりで、麺はもちろん米のことは書いてない。
まあ、パスタはラザニアとニョッキは作れるが、問題はラーメンだな。問題は麺にコシを出すかん水と重曹がこの街にないことだ。
本当に食材のことはいろいろと問題が多すぎてキリがない……。
そう思っているうちに、うどんの麺が完成、次はスープだ――。
スープも完成したが……。
「作り過ぎたな……」
『うん、見た感じ200人前以上はあるね!』
「まあ半分はギルドの人たちに振る舞うけど」
無限収納に麺とスープを半分しまった。
『優しいね! いつもそうなの?』
「最初は人気がなかったけど、食べたらハマる人が多くなって、それからはたまに作る感じだなー」
『へぇ~じゃあ、みんなうどんの虜だね!』
「そうだといいけどなー」
ギルドの人が来た……。
「レイ、今日は何作ってるの?」
「うどんですよ」
「あれね! 1つお願い!」
「いいですよ、早い者勝ちですので」
「やった! お代は?」
「いりませんよ、少し時間を取るので待ってください」
「ありがとう!」
――3時間後。
「ほとんどなくなったね!」
「ああ、そろそろ来るかな?」
スールさんはテーブルによろけて座った――随分、顔がやつれてきてる。
大丈夫なのか……。
「相当お疲れですね……」
「……もう……リンナと稽古するの……嫌です……」
半泣きしている……これは重症だな……。
「これ食べて元気だしてください」
「ありがとう……レイ……はあ……優しい味で……心にシミ……ワ・タ・ル……このまま天に召されそう……」
連日リンナさんの相手しているからキャラ崩壊している……。
「勝手に死なないでください……」
「冗談ですよ……私はレイが成人するまで死ぬつもりはありません。むしろ、レイが死ぬまで死にません」
「そうですか……」
エルフは寿命が短い人間を赤子から最期まで見届けるのは最大の愛と言われてる。傍からだと愛が重いですよ……。
「何勝手にレイ君を自分より寿命が短いと思っているのよ!」
「ひぃ! リンナ、いつの間に!」
まったく気付かなかった……【魔力感知】で反応するのだが……。
『【隠密】スキル持っているねー。アイシスも一筋縄ではいかないかも』
そうなのか!? 背後を取られたらもうおしまいだな……。
「レイ君、私にもちょうだい!」
「はい、少し待ってください」
食堂にリンナさんがいると周りは震えが止まらない……【威圧】は発動してはいないが、トラウマかもしれない……。
「どうぞ」
「ありがとう! レイ君の作る料理は全部美味しいからね!」
「はは……ありがとうございます」
「――美味しかった! さて、食べ終わったことだし、アニキ、稽古!」
「今日はもう勘弁してください! もう夜ですよ……また引っ張らないでください! レイ、助けて……」
ああ……スールさん、ご愁傷さまです……。
「よし、完売したな」
『まだ2杯分あるけど?』
「俺とアイシスの分な、アイシスを呼ばないとな」
5日くらいこもっているが、返事も何もない。コートを作っていたときより、さらにこもっているから心配だ……。魔力回復のためにも食事くらいは取ってほしいのだが……。
『ボクが呼ぶよ!』
「ああ、頼んだ」
エフィナはアイシスと個別で会話? 念話? ができる。
数分経って来た。なぜだろうか、決闘が近いのにイキイキとした感じに見えるのは……。
「申し訳ございません、準備に夢中で歯止めがききませんでした……」
準備で夢中になること? って何?
「夢中になるのか……いったい何を準備しているのだ?」
「当日のお楽しみにしていただければと思います……」
「はあ……まあいいけど、食事くらいは摂ってくれよ、魔剣だとしても人間の姿だし心配だから……」
「本当に申し訳ございません……ほとんど準備ができたのでこれからはしっかり食事を摂ります……」
「わかればいいよ。ほら、うどん作ったから食べな」
「ありがとうございます! 私はフォークはいりません」
アイシスの手には氷のような箸を持っている、魔法で作ったのか……それに箸使えるのか! しかも音もたてずにすするとは……上品だ。
「ごちそうさまでした……美味しかったです……では失礼します」
「お粗末さまでした。ゆっくり休んでくれよ」
お辞儀をして食堂を去った。もうすぐ決闘だが、本当に大丈夫なのか……。
さて、後片付けをして部屋に戻ろうか……。
その後……ザインさんが来た……。
「レイ、俺の分は?」
「もう無いですよ」
「なん……だと……」
可哀想だから無限収納から出して作った。