1話 突然の急死、転生することに
洋食レストランの料理人として働いている天ヶ瀬零は平凡な暮らしをしていた。
「やっと終わったか~お疲れ様でした」
「お疲れ様で~す」
従業員に挨拶して家に帰宅した。
今日はお客さんが多くて忙しかったけれど、いろいろと職を転々とした自分にとってはかなり充実した日々である。
オーナー、料理長、従業員みんなが優しくて、とても良い職場に出会えたと思っている。
帰宅後、疲れているけれど食事を作らなければならない。本当ならばカップラーメンで済ませたいけれど、明日の仕事に力が入らないから自炊をする。
パスタを茹で、冷凍庫からベーコン、生クリーム、卵、にんにく、粉チーズを取り出してそつなく調理し、カルボナーラが完成した。
出来上がったカルボナーラを食べて、やはり自分の作った料理は美味しいと自画自賛してしまう。
シャワーを浴びて野菜ジュースを飲みながらスマホをいじり、1時間が経った明日も早しそろそろ寝ることにしよう。
ベッドに入り就寝――。
「フフ……起きて……」
──その声で目を覚ますと周りは真っ白で、目の前に薄い白いドレスを着た金髪の美女がいた。ここは夢の中だとそう思った。
それにしてはリアルすぎる……そんなのはいいが美女が笑顔で見ている。
「こんにちは」
「あ……こんにちは……あの~質問してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「ここは夢の中ですか?」
「いいえ、ここは私の家ですよ」
ちょっと待ってくれ!? 何がなんだかわからない!? 美女の家にいるってどうゆうことだよ! 詳しく説明してほしいくれ………。
動揺が隠せない……。
まさかと思うが、このフラグは……。
「あの………もしかして神様ですか?」
「そうですよ」
はい、フラグ回収されました……笑顔で返答されたのですが、どう反応していいか困まります……。
まさか、異世界に行って勇者になり、魔王を討伐しろと言うのか? それだと面倒くさい、やりたくないと駄々をこねるぞ。
「あの~この状況はなんですか? 詳しく説明をお願いします……」
「とりあえずお茶を飲みながら話しましょう。座って……」
「ありがとうございます……」
何もないところにテーブル、イス、お茶が出てきた。神様ってなんでもありだなーと実感した。それに入れてくれたお茶がとても美味しい……これは紅茶なのかな? それにしては少し違う……。
「では本題に入りましょう、実は零――あなたは死んでここにいます」
「ちょっと待ってください、俺死んだのですか? それは笑えない冗談ですよ。身体はまったく健康でしたしありえません」
「ぽっくりと亡くなりましたよ」
「えっ……ぽっくり?」
「はい」
「…………」
俺突然死ですか……30歳になったばかりで仕事も充実していたのに……これからだというのに……まあ、死んだのは受け入れる覚悟はあったし、身内や職場の人たちには悪いが切り替えよう。
「けど、あなたは20年後まで生きる予定でしたよ」
「えっ?」
「生きていれば3年後に結婚して、その5年後には料理長になって娘も2人いて、50歳になるまで幸せに暮らしていましたよ。そして、仕事が多忙で過労死になってこちらに来る予定でした」
「あの……生きていたら結婚相手は誰ですか?」
「確か福井って子と――」
「なんだって!?」
思わず感情がこみ上げてしまった。まさかウェイトレスの福井さんと結婚するとは……確か8歳くらい下で離れていたはず。彼女とは気が合っていたけど、歳が離れていたため、あまり意識はしていなかった。そして何より、神様が爆弾発言をしてしまったせいで、死を納得しかけていた自分にこんな発言をされると心残りになってしまう。
しかも結局50歳で死んでこちらに来るのは強制ですか……。
「そして私、ミスティーナがあなたをここに呼びました」
「それでミスティーナ様、呼んだのは――」
「ティーナと呼んでください、それと様はいりません」
「はい……ではティーナさんと呼びます。」
「フフ……よろしい……」
ちょっと待て、この神様はどれだけフレンドリーなんだよ! しかも満面の笑みで!
いろいろとツッコミたいけどそれどころじゃない。話しが進まない。
「あのー、俺を呼んだのはいったいなぜですか?」
「あなたに私たちの世界、グランシアに来てほしくて呼んだのよ」
「じゃあやっぱり魔王討伐ですか?」
「違います! あなたにそんなことはさせません! 勇者に仕立て上げて愚者のように人殺しを認めません! 私たちはそんなことはしません!」
「ご、ごめんなさい!」
「そもそもあなたは争いが好きではない人だってわかっていますよ」
地雷を踏んでしまった……神様はムスッとしてるし、しかも私たちって言っていなかったか?
「あの、私たちってほかにも神様がいるのですか?」
「あと二人いますよ、人間の女神ソシア、多種族の女神シャーロ、そして私が中立の女神ミスティーナよ。本当は三人で迎えようとしていましたけど、予定より早く来たので二人とも同席できなかったの……」
「はあ……」
サラッと言っているけど神様が三人いるなんて、神様だから柱で三柱と数えるのが基本。じゃなくて、そんな神様が複数いる世界で俺はどれだけ大ごとに巻き込まれた……?
あっ、でも日本には神様が多いから少ないほうかな。ではなく、しかもティーナさんは中立の女神って相当な大役じゃないですか!?
胃がキリキリしてきた……。
あっ、死んだから胃はキリキリしないかと軽くノリツッコミをする自分である。
「こんな取柄がない俺を選んだ理由はなぜですか?」
「2年前のあなたを見て選びました。」
あ~思い当たることがあり過ぎるな……。
2年前、前の会社を辞めて自分探しのために旅に出た。神社仏閣と御朱印集めが好きで、3カ月以上日本中を旅した。その1カ月後、今の洋食レストランに就職できて、かなり恵まれた環境だった。御利益があったと実感した。神様には本当に感謝をしている。
それだけなのだろうか?
「神社参拝だけですか?」
「それだけではありません。あなたは神社に行くたびに感謝を忘れず、礼儀も正しい。御利益目当てで神社に行っていないあなたは、真面目で素直で優しい……もう我慢できない!」
「ちょっと……待ってくださ……」
「そんなあなたが愛おしいの!」
ティーナさんに抱きつかれたのですが……しかも途中で関係ないことを言われ、とても恥ずかしかった……。
途中から敬語をやめて話していた。
これがティーナさんの素だと思った……美女に抱きつかれるのも……悪くないですね。
とりあえずティーナさんに好かれていることはわかったけれど、普通は日本の神様に最初に好かれるはずなのに……。
「と、とりあえず落ち着いてください」
「ごめんなさい、取り乱してしまって」
「しかしなぜ俺を見ていたのですか?」
「たまたま地球を観察していて、そこで日本の神様たちがあなたのことを噂していて気になっていたのよ。それで運命を感じっちゃった」
やっぱり日本の神様たちに噂されていましたか……。
「あなたは地球の側のあの世に魂が定着して二度と会えないから、それで日本の神様たちにお願いして、私の方に送ることをお願いしたわ」
「そうですか…」
俺の人権無視ですか……日本の神たち……でも、日本の神様ならこんなことはしないはずだ。ティーナさんに強引に押しきられたのかもしれない。
「それで私たちの世界で魂を定着させて、生涯を終えると私たち側のあの世に入るわけ、それならいつでも会えるから」
理屈はわかった、しかし俺にも人権がある。
「あの……拒否権は?」
「ありません」
「え……」
「ありません」
「もし拒否すると、どうなりますか?」
「あなたの魂が消滅して存在自体がなくなるのよ」
「…………」
俺、かなり詰んでいないか……もう割り切ってティーナさんの言うことに従うしかない。
「わかりました、ティーナさんたちの世界に行きます」
「ありがとう! 零大好き!」
「ちょっ……また……」
また抱き着かれた……しかも押し倒して……勢い良く倒れたが痛みはなかった。
この俺のどこがいいのかよくわからない……。
「……すみません、そろそろ降りてもらえないでしょうか……」
「ごめんなさい……つい……嬉しくて」
「ところでそちらの世界で何をすればよいのですか?」
「特にないわよ、楽しんでもらえれば嬉しいわ。できれば1つだけイベントを用意しているからそれをお願いしてほしいわ。それが終わったら自由にしていいから」
「あの~イベントとは?」
「内緒です」
「はあ……」
イベント用意してるとか不安すぎる。何かのフラグが……いや考えるのをやめよう。
「それと、魂を定着させるために、赤ん坊から始めてほしいの。あと、私が勝手に連れてきたから、加護とスキルをあげる」
やっぱり、強制的に連れてきて申し訳ないと思っているのか……。加護とスキルか、何もないよりはありがたい。
「わかりました、お願いします」
「では、手を取って……」
手を取ると、光に包まれた何かが俺の身体に入ってくる。温かく、心地が良い。
「これで終わり。あと、日本の神様たちの加護もつけておいたわ」
「えっ、それはどんな加護ですか?」
「金運、縁結び、健康、厄除けなど、その他いろいろ上昇よ」
日本の神様たち、あなた方が一番の被害者なのに、俺に加護をつけてくださるなんて、本当にありがとうございます……。
ちょっと、涙が出てきた……。
「フフ……日本の神様たちにも愛されている証拠よ。あと、地球にいた時のスキルも引き継いであるからね。現地で暇な時に確認してね」
えっ? 引き継ぐスキルがあるの? あるとしても料理系しかないと思うが……。
「わかりました」
「そろそろ時間ね」
「いろいろとありがとうございました」
「いいえ、私の身勝手なことに付き合わせてごめんなさい、それと15歳になったら教会に来てちょうだい。話があるから」
「わかりました」
「あと……しばらく会えないから……」
「――!?」
えっ!? なんでキスしてくるんですか! しかも長いですけど――。
「それじゃあまたね、零。あなたなら楽しんで世界を満喫できるから」
床の方から魔法陣のようなものが出てきている。キスを終えたティーナさんが笑顔で手を振りながら見送りしている。
俺も顔を真っ赤にして手を振る、すると小声で。
「あの子のこともよろしく……」
「えっ!? 今なんて?」
すると視界が消えて真っ白に――。