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3分読み切り短編集

後悔。

作者: 庵アルス

『最も心に残る後悔は、行動しなかったこと』

 ネットで聞いた言葉だが、よく云ったものだ。

 俺には幼馴染がいた。同い年の女の子。家が近所で、小中高も同じ。親同士の仲もよく、家族ぐるみで付き合っていた。

 幼馴染は面倒見がよく、姉みたいな存在だった。学校では優等生タイプ。対して、俺は反抗期をこじらせてやさぐれていた。それでも彼女は見捨てることなく、俺や家族と付き合ってくれていた。

 恋愛感情がなかったといえば嘘になる。

 ゆくゆくは告白して一緒になれたら⋯⋯そう思っていた。

 だが、大学生になり、淡い願いは打ち砕かれる。

 幼馴染とは別々の大学へ進学した。事件とも言うべき遺恨は、そこで発生する。

 幼馴染に彼氏ができた。

 しかもかなりの熱愛のようで、同棲して結婚すると言い出したのだ。

 けれど、幼馴染の親が黙っちゃいなかった。

 学生のうちに同棲だなんて不埒だと猛反対したのだ。

 だが、反対されたことで、情愛の炎がますます燃えたのだろう、彼女たちは頑として意志を曲げなかった。

 そんな膠着状態が続いたある日、帰りがけに幼馴染と遭遇した。

 そして例の件で相談を受ける。

 どうして、好きな人から恋愛相談を受けているのか。自分の気持ちを押し殺して、なるべく真剣に見えるように話を聞いていた。

「同棲は反対されてるけど、どうしよう」

 幼馴染は唇を尖らせて呟いた。

 本心は決まっているけれど、誰かに背中を押して欲しい、そんな風に見えた。

 だったら止めておけよ、と言いたかった。

 反対されて結婚したって親御さん喜ばないんだから止めておけよ、と。

 俺にしないか、と。

 言えなかった。

「お前が幸せなら、それでいいんじゃないか」

 口は勝手に動いた。

 望んでもないことを。

 言葉はかっこいいけれど、内心では叫んでいる。

 取り消せ、引き止めろ、と。

 だけど、自家撞着する俺を鎮めたのは、幼馴染の笑顔だった。

「ありがとう、勇気出た!」

 ⋯⋯その三日後、幼馴染は駆け落ち同然に家を出た。

 俺は悲しいやら悔しいやらで、しばらく抜け殻のように過ごしていた。

 一ヶ月ほど経ったある日、幼馴染からメッセージが届いた。

 それは妙な文章だった。


『楽しく暮らしています

 少し大変だったり、

 けんかもするけど

 手をつないで仲直りするんだ

 ニコニコ笑顔も忘れずにね。

 元気でね

 来年以降も

 連絡先は変えないので

 なるべく連絡ちょうだいね

 いつまでも待ってます』


 俺の顔に浮かんだのは苦笑いだった。既読だけつけて、画面を閉じる。

 楽しいならよかったな。でも、彼氏でもない男の連絡なんて待つもんじゃないぞ。そんなふうに悔しがりながら。




 この数日後、幼馴染は彼氏の手によって命を落とすこととなる。

 幼馴染の死後にわかったのは、彼氏は所謂モラハラ気質で、半ば監禁状態にあったらしい。逮捕された彼氏は、瑣細な口論の末、勢い余って絞め殺したと自供しているようだ。

 何故、SOSに気付かなかったのかと自分を責め、何故あの時止めなかったのかと、俺は一生の後悔を抱えることになった。

2020/10/21

縦読み。

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