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宰相side:家に招く

王都の郊外にある我が家に戻ると、娘がしみじみと言った。

「宰相閣下って国の偉い人だから、ものすごい豪邸に住んでるのかと思ってましたけど、なんだか意外とこじんまりとしてるんですねぇ」

思わず苦笑する。

「君は実に正直だな。だが私にはこれくらいで十分だ。無駄に広くても仕方あるまい」

「ま、それもそうですね」

娘はあっさりと納得した。


家に入ると執事とメイド長が並んで出迎えた。

「旦那様、おかえりなさいませ。そしてお嬢様、ようこそいらっしゃいました」

執事がそう言うと2人揃って頭を下げる。

「あ、あの、お嬢様なんて柄じゃ全然ないんですけど、おじゃまします」

おたおたするしながらぴょこんと2人にお辞儀をする娘。

応接室に通し、メイド長が紅茶と焼き菓子を出して部屋の隅に下がる。

「君は甘いものが好きだろう?気に入ってもらえるとよいのだが」

おずおずと焼き菓子に手を出した娘は、一口食べて表情が変った。

「うわっ、これ、すっごくおいしいです!」

「菓子作りはそこにいるメイド長の趣味でな。君のために頼んでおいた」

「そうなんですか?・・・あ、あの、メイド長さん、ありがとうございます!」

感謝の言葉をかけられた部屋の隅にいるメイド長がにっこりと静かに笑っていた。


目の前の娘が焼き菓子を半分ほど食べ終えた頃、本題を切り出した。

「さて、君に我が家へ来てもらったのは休憩以外も目的があってだな」

「家に誘い込んだってことは・・・もしかして一線を越えちゃいます?」

ソファーから身を乗り出す娘にため息をつく。

「だからなぜ君はそういうことばかり言うのか・・・王宮の茶会のことだ」

「え、何でしょう?服ならさっき買っていただきましたよね」

「では聞くが、君は化粧をしたことはあるか?」

「・・・えっと・・・ない・・・です」

小さくなって小声で答える娘。普段の勢いはいったいどこへ行ってしまったのか。

「そうだろうと思ってな、うちのメイド長に頼むことにした。当日もここで身支度をして王宮へ出向くことにしようと考えているが、せっかくだから今日は化粧や立ち振る舞いを少し習っていくといい。実家の侯爵家で長年勤めていたから頼れるはずだ。メイド長、後は頼んだぞ」

すっと笑顔で近寄るメイド長。

「かしこまりました。ではお嬢様、さっそく別室へ参りましょうか」

「え、あ、あの・・・」

有無を言わさずメイド長に連行されていく娘に声をかけた。

「持ち帰り用の焼き菓子も用意してあるからがんばるように」


読みかけだった本を手にしてページをめくる。

時折あの娘の悲鳴に近い声が聞こえるが、淑女の裏側は覗くべきではないだろう。

勇者より強いメイド長、頼もしい限りである。

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