宰相side:雑用係との面談
「別に今のままでいいですよ。目立つのも面倒ですし、それにほら、やっぱり王子様が勇者の方がみんなわくわくするじゃないですか」
国王陛下からの話を受けて、あの娘を私の執務室に呼び出していた。
「・・・本当にいいのか?」
「ええ、かまいませんよ」
あっけらかんとしたものだった。
いただき物の焼き菓子を出してやったら、さっきから手を休めることなく食べ続けている。
どうやらかなりの甘いもの好きのようだ。
「わかった。君が真の勇者であることは国王陛下と私、そして大神官長殿のみが知ることとしよう。
それから大神官長殿は君に謝罪したいと言っておられたので、折を見て話す機会を設けさせてほしい。かなり気にしておられるようなのでな」
「いいですよ・・・あ、そうだ。魔王討伐の旅で聖女様とはすっかりお友達になっちゃいまして、休みの日に時々大神殿へ会いに行ってお話ししてるんですよ。もし都合がつくのならその時とかでいかがでしょうか?」
「そうだな。あまりかしこまった場にしない方がいいだろうから、あとで日程を調整させてもらいたい」
「ああ、それからもう1つ。陛下が君の労いの機会を設けたいとのことなのだが」
「え~、それも別にいいですよ。だってもう報酬はいただいてるじゃないですか」
そう言いつつ菓子を食べ続けている娘。
「あくまで陛下のお気持ちということだな。ただ、君だけを呼び出すのも不自然なので、王家が主催する私的な慰労会ということにして、勇者パーティ全員を招いての略式な茶会で考えている。マナーなどもあまり気にしなくてもよい。ちなみに私も同席する予定だ」
娘が少し笑顔になる。
「あ、よかった。宰相閣下もいるんだったら安心ですね。でも、国王陛下にお会いするのにふさわしい服とか持ってないですよ?」
「君は貴族ではないのだから別にドレスまで着る必要はないだろう。よそ行きの服装で十分だと思うが」
「いや、それすらないもんだから困っちゃうんですよね。着るものとか装飾品にあまり興味がないもんで」
考えてみれば、この娘とは王宮でしか会わないのでメイド服姿しか見たことがなかった。
そしてふと思いつく。
「では、私からの報酬の一部として君に服を贈るというのはどうだろうか?」
一瞬驚いたようだったが、ニヤッと笑う娘。
「あ、もしかしてアレですか?『男性が女性に服を贈るのは脱がせるため』ってヤツ」
「ば、馬鹿なことを言うんじゃない!」
まったく、なんということを言うのだ、この娘は。
「あはは!ごめんなさい。でも一緒に買いに行くんだったらいいですよ。正直、どんなものならいいのか全然わからないんですよね」
「確かにそうだな。では君の次の休日に合わせて私も休みを取るとしようか」
娘は立ち上がってガッツポーズをとっていた。
「よっしゃ、初デートですね!楽しみにしてます!!」
はたしてこれはデートと言っていいものなのだろうか?と疑問に思ったが、話がややこしくなるのも面倒なので黙っておいた。
「さてと、それじゃ私は仕事に戻りますね」
立ち上がった娘はそのまま執務室を出て行こうとする。
「ああ、待て。残りの焼き菓子も持っていくといい」
「え、いいんですか?」
嬉しそうな顔になる娘。
「甘いものは別に嫌いではないんだが、量はさほどいらないので食べてもらえると助かる」
「ありがとうございます!では頂戴していきますね」
ニコニコしながら焼き菓子が入った袋を抱えた娘が執務室を出て行った。
さて、女官長殿と話して女性の服装や店の情報を確認しておくか。