宰相side:国王陛下(2)
魔王討伐の件の後は他の案件についてもいくつか報告し、それらは問題なく片付いた。
「さて、ここからは仕事を離れて私的な話だ。お前、ちゃんと休みは取れているのか?」
国王陛下と私は学院で同級生だったので、職務を離れれば昔のようなくだけた口調に変わる。
「ええ、休める時は休んでおりますが」
「だが、長い休みなど取ったことはないだろう?まぁ、いろいろ任せてしまっている俺も申し訳ないと思ってはいるんだがな」
実際のところ、やらなければならないことが多くて休む暇がないほど忙しいし、休んだところで本を読むくらいしか過ごし方を知らないので、長い休みが欲しいと思ったこともない。
「ところでお前、結婚する気はないのか?人生のパートナーがいるというのはいいものだぞ」
ニヤニヤしながら語る陛下。ああ、またその話か・・・と少しうんざりする。
陛下は学院時代の同級生を熱烈なアプローチで口説き落とし、今でも妻である王妃殿下を溺愛している。
私は侯爵家の三男で家を継ぐ必要もなく、昔から恋愛や結婚に興味が薄かった。特に気になる女性がいたこともない。
運よく出世したこともあり、女性を紹介されたことも数え切れないほどあったが、結局まとまることはなかった。
いつしか気を使うくらいならば1人でいる方がいいと思うようになった。
思うに、おそらく自分は恋愛や結婚に不向きな男なのだろう。
だが、ふと思い出す。
あの娘が相手だと、女性と話すという意識は皆無だったように思う。
今まで身近にいなかったかなりめずらしいタイプだからだろうか。
「・・・ああ、そういえば先日求婚されましたね」
たった今思い出したかように陛下に話を切り出した。
陛下に話せば格好の退屈しのぎのネタにされそうなことはわかっていた。
だが、陛下がこの手の話を持ち出す時は、ほぼ間違いなく誰か紹介する気でいるので、ここで明確に意思表示しておく必要がある。
「・・・した、じゃなくて、された?」
陛下が驚きの表情に変わる。
「ええ、されました」
うなづいて答えると、陛下が身を乗り出してきた。
「で、どうしたんだ?お前、それ受けたのか?!」
「知り合って日もまだ浅いですので、まずはお互いを知るところから始めることにいたしました」
「それで相手は誰なんだ?俺の知ってる女か?・・・まさか男なんじゃあるまいな?」
あまりに女性に興味を示さないせいか、一部でそういう噂が流れていることは耳にしている。
噂などいちいち気にしてはいないし、おそらく否定したところで効果もなさそうなので放置しているが。
「相手は女性ですよ。先方に迷惑をかけたくありませんので、今はまだお答えいたしかねますが」
別に隠すつもりもないのだが、相手が国王陛下だけに本人の同意を得てからにした方がいいだろう。
「そうか・・・お前に直接アタックとか、なかなか勇気のある女ではあるのだろうな。どんな女か気になるところだが、即決即断のお前が断らなかったということは少しは気があるということかな?」
少しやさしげな表情で問いかけてくる陛下。
褒美の約束とはいえ、結婚ともなると人生の一大事であるだけに、おそらく断ることは容易に出来ただろう。
だが、なぜかあの娘との縁が切れるのは少し惜しい気がしたのだ。
「・・・そうなのかもしれませんね」