最終話:それから
宰相閣下と思いが通じ合って数週間後。
ようやく心身ともにいつもの状態に戻った私は、王宮の平民向け職員寮の雑用係から女官長様付けに異動になった。
「私は『宰相様付けにしてしまえばいいのに』って言ったんだけど、当の宰相様から『公私混同と思われたくない』って断られちゃったのよねぇ」
女官長様はそう言いながら笑っていた。
ただ、女官長様付けとなったのには一応ちゃんとした理由がある。勇者様こと第三王子殿下と隣国の王女様との縁談がまとまり、来年嫁いでこられることになったのだが、私をその王女様の護衛役の1人にしたいらしい。剣術や乗馬がお好きという大変活動的な王女様だそうなので、私ならちょうどいいと思われたのだろう。そのため王宮のさまざまな約束事を叩き込まれているところだ。
一緒に幽霊騒動の解決にあたった後輩の女の子は、王宮の職員寮の仕事を辞めて聖女見習いとして大神殿へ移った。大神官長様が彼女の力を聖女として認めたそうだ。
私がうまく習得できなかった治癒魔法もすでに使いこなせているそうで、近いうちに正式なお披露目も行うとのことなので今後が楽しみだ。
そして次の祈りの歌は3人で歌うことになり、時々練習のため呼び出しをくらっている。相変わらず練習は厳しいけれど、3人というのもまたにぎやかで楽しいものだと知った。
女官長様付けになったのとほぼ同時期に、私は職員寮を出て宰相閣下のお屋敷に転がり込んだ。
来いって言われれば、そりゃ行っちゃうよね。
「でも、私に奥様業とかたぶん無理ですよ?」
「それはかまわない。そばにいてくれるだけで十分だ」
普段のやりとりは以前とあまり変わってないと思うけど、時折甘さの不意打ちにやられている。あれは絶対わかっててやってると思う。でも、時には甘やかされるのも悪くはないかな。
宰相閣下も私も一緒にいられるならそれでいいと思っていたので、結婚式とかは考えてなかったんだけど、周囲がそれを許してはくれなかった。
もっとも首謀者が国王陛下で、それに女官長様と大神官長様、さらに勇者パーティの面々までもが賛同者という状況では断るのも難しいわけで。
ウェディングドレスは、宰相閣下のお屋敷で仲良くなった同い年のメイドさんが気合を入れて作ってくれた。彼女は他の人の目がないと「奥様」とか呼ぶもんで、正直なところ対応に困った。
遠征時に短くなってしまった私の髪が伸びて、なんとか軽く結えるようになった頃。
結婚式は大神殿の中でも一番格式の高い礼拝所で行われた。実は王族クラスが使用する場所と聞いて冷や汗がどっと出た。
大神官長様が式を執り行い、聖女様と聖女見習いとなった後輩の女の子が祝福の祈りの歌を歌い上げる。
婚姻誓約書の保証人のサインが国王陛下と王妃様というとんでもないことになっていて、これまた冷や汗が出た。
無事に式を終えて礼拝所の扉が開くと、階段の先の広場には思いのほかたくさんの人達が集まってくれていて驚いた。
職員寮で働く人々や冒険者仲間、故郷の孤児院の子供達になぜか近衛騎士団の姿まで見える。
みんなに手を振っていたら、宰相閣下が小声で私に言った。
「すまないな。こういう時は花嫁を抱き上げられればよかったんだが」
「あ、そういうことなら任せといてください!」
ドンと胸を叩いてニッコリ笑う私。
「ち、ちょっと待て!」
宰相閣下をひょいとお姫様抱っこする。
歓声と笑いがわき上がる中、軽くキスして宰相閣下に告げる。
「捕まえたからにはもう逃がしませんからね、旦那様」
【完】
初連載で至らない点も多々ありましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。




