愛剣
受け取った剣を再び布でくるみ、勇者パーティの天幕へと戻る。
「そ、それ、どうしたの?!」
なぜか聖女様が驚いている。
「えっと、冒険者ギルドの副代表様が父の形見の剣を持っていらしたとのことで、先ほど手渡されたんですが」
「その剣から感じる気がたたごとじゃないわ。それにその布自体も大神殿で宝具を包むために使われるものよ」
「へぇ、そうなんですか」
そんなにすごい布だったのか。
「副代表様はその剣について何か言ってらしたの?」
「なんか今まで誰にも抜けなかったとかいう冗談を言ってましたけど」
「その剣、少し貸していただけるかしら?」
聖女様に包んでいる布ごと手渡す。布をはずした剣を聖女様が確認した後に戦士様に向かって差し出す。
「これ、鞘から抜けるかどうか試していただけます?」
無言でうなずいた戦士様が剣を受け取るが、いくら試しても抜くことはできなかった。
「俺に貸してみろ」
勇者様が剣を戦士様から奪うも、やはり抜けない。
「お前、抜いてみろよ」
勇者様から私の元の戻ってきた剣をすらっと抜くと聖女様が言う。
「おそらく剣自身が使い手を選ぶのでしょうね・・・でも副代表様はなぜここまで持ってきたのかしら?貴女がいるとは限らないのに」
「ん~、副代表様は私がここへ必ず来ると思ったんでしょうね」
「何か理由があるのかしら?」
「そうですね、10年前の魔物の大量発生の時に父は命を落としました。副代表様はその時一番近くにいたと聞いています」
聖女様がしばし考えて私に問いかける。
「今回の遠征、貴女は敵討ちのつもりなのかしら?」
「まったくないとは言い切れませんが、私のささやかな感傷よりも大局を優先しますよ。さて、もう遅いですから休みましょうか」
まだ眠気はこないけれど、女性専用の天幕に移動して聖女様の隣で横になる。
「ふぁ?!」
横向きの背中に何かが当たる。聖女様の柔らかい胸であるようだ。
「そのままでいいから、少し話をしていいかしら?」
小声で話しかけられる。
「大丈夫ですよ」
今いる小さい天幕には私達2人きりなので、別に小声でなくてもよさそうな気もするが。
「さっきの貴女の剣のことよ。さっきはみんなの前だったから『使い手を選ぶ』と言ったけれど、本当はちょっと違うの」
どうやら聖女様は何か知っているようだ。
「あれは聖剣。使えるのは真の勇者だけよ」
「・・・だから誰にも抜けなかった?」
「そういうこと。私が大神殿で聞いた話では、聖剣は持ち主に合わせて形状が変化し、持ち主たる勇者が亡くなったり資質を失うと大神殿の宝物庫へ勝手に戻ってくるの」
聖女様の言葉にちょっと考える。
「そういえば父が持っていた頃より小ぶりになった気はしていました。でも父が亡くなっても消えませんでしたよね?」
「おそらくその時点で貴女が勇者だと聖剣に認められたのではないかしら。しばらく離れてもいずれ貴女の元に帰れると確信して副代表様のところに留まっていたのでしょうね」
だからここで再会したのか。
「なるほど。でも剣に好かれてたとはちょっと予想外でした」
「ふふふ、モテる女は大変ねぇ。何にしても大事になさい。さて、話はこれでおしまいよ。おやすみなさい」
「おやすみなさい、お姉様」