再会
勇者パーティと騎士団の選抜隊が王都を出立して10日間ほどで遠征の最前線である北方の森に到着した。
今回は魔獣大量発生の予兆を探知した冒険者ギルドが主導することが決まっている。
勇者パーティは到着して冒険者ギルド側の責任者へ挨拶しに行った。
「本来ならばこちらから挨拶に伺うべきところなのですが、わざわざお越しいただき大変申し訳ありませんでした」
冒険者ギルド側の責任者は深々と頭を下げた。確かこの国の冒険者ギルド本部の副代表と聞いている。勇者様は第三王子殿下でもあるのだから、身分を考えれば謝るのももっともな話なのだろう。
「いや、こちらは今回の遠征の一員として参加する立場なのだから気遣いは不要だ」
ひげをたっぷりと蓄えた大柄な男である副代表は、勇者パーティの面々と挨拶しながら握手を交わしていく。
そして最後に私の目の前に来た時、ずっと真面目な顔をしていた副代表が突然二カッと笑って私の頭を乱暴に撫でまわした。
「おう、久しぶりだな、嬢ちゃん!」
父と親しかった冒険者の1人であるひげのおじさん。その大きな手が懐かしい。
「おじさんがこんな偉い人になってたなんて知りませんでしたよ?」
私も笑顔で答える。
「それだけ年をくったということだな。これから賢者殿と今後についての打ち合わせをするんだが、その後で少し話せないか?久しぶりに会えたことだしな」
「ええ、いいですよ」
しばらく経って賢者様が勇者パーティの天幕へ戻ってきて、入れ替わりで私が冒険者ギルドの副代表を再び訪問する。
「それにしても驚いたぞ。冒険者ギルドの参加志望者にお前の名前がなかったから、いったいどうしたのかと思ってたんだが、まさか勇者パーティに加わっていたとはなぁ」
やっぱり来ると思われてたのか。
「まぁ、いろいろとありまして」
あれこれ省きまくってざっくりと説明する。
「そうか、お前もいろいろあったんだなぁ。まぁ何にしても、こいつをここまで持ってきた甲斐があったというものだな。今のうちに渡しておこう」
複雑な文様の布に包まれた長いものを手渡された。
「ただな、そいつは誰にも抜けなかったから手入れができていない。だからお守りくらいにしかならないと思うが、お前の親父の形見だから近くにあった方がいいだろうと思ってな」
布を取り去ると、見覚えのある懐かしい剣が現れた。
でも、なんだか父が持っていた時より若干小ぶりに感じる。あの頃はまだ子供だったから大きく見えたのかな?
持ってみると若干細身の剣で、鞘の装飾も実にあっさりとしており、正直あまり立派そうには見えない。けれど、この剣を握った時の父は本当に強そうでひそかに憧れたものだ。
それにしても、誰にも抜けなかったってどういうことかな?
ためしに鞘から抜こうとしたら、あっさりと抜けた。見た限り状態も問題なさそう。
「お、お前、その剣をどうやって抜いた?!」
副代表が驚きの表情でこちらを見ていた。
「え、普通に抜きましたけど」
「その剣、ちょっと見せてもらっていいか?」
「ええ、どうぞ」
剣を手渡したが、副代表は苦悶の表情を浮かべてすぐに戻してきた。
「どうやらそいつは持ち主を選ぶようだな。俺は持つのもダメそうなんだが、お前は何ともないのか?」
「ええ、こうして改めて見ると軽くて使いやすそうないい剣ですよね」
こんなにしっくりくる剣は初めてだ。
「そいつが軽いだと・・・?まぁいい、大事に使えよ」
頭をぐりぐりとなでる。
「それから・・・お前はまだ若いんだから死に急ぐなよ。俺は親子2代の死に様なんざ見たくはないからな」
「言われなくても、そう簡単には死ぬ気はないですよ」
にっこりと笑顔で答えた。