宰相side:国王陛下(1)
「陛下、こちらが此度の魔王討伐に関する最終報告書でございます」
意外に質素な造りの国王陛下の執務室で資料を手渡す。
「うむ、ご苦労だった。無事に終わってなによりだな」
受け取った資料をパラパラとめくっていたが、あるページで手が止まって表情が一変した。
「この勇者選定のくだりは真実か?」
「はい、間違いございません」
選定役の神官に袖の下を渡していたのは、王家に取り入ろうとする者達の独断によるものだった。
そして選定も大神官長殿が地方をまわるため長期不在だった時に行われていた。
「ったく、あの馬鹿どもが!」
「陛下、素が出ておりますよ」
長い付き合いの身としては本当は素の方がしっくりくるのだが。
「して、この件そなたはどう対処するつもりだ?」
「大神官長殿には報告済で、不正に関わった神官達はすでに処分されております。大神官長殿は真の勇者本人に謝罪の機会を求めておりますので、折を見て場を整えたいと思います。勇者本人とは改めて話し合う予定ではありますが、あの者は名誉は求めてはおりませんでしたので、表向きは第三王子殿下が勇者のままでよいと考えております」
「だがしかし・・・」
陛下が渋るのも理解できるのだが。
「平民の娘が真の勇者と知られれば面倒ごとに巻き込まれる恐れもありますので、それを避けるためにも今のままでよいかと」
「・・・よかろう。まずは真の勇者本人とよく話し合うように。本人が望むのなら非を認めて真実を公にすることもやぶさかではない」
「かしこまりました」
「して、その真の勇者たる娘は今どうしておる?」
「報酬を手渡しまして、現在は本来の職務である王宮職員寮の雑用係に戻っております」
陛下が少し驚いた表情になる。
「当面は遊んで暮らせるほどの十分な報酬を得たであろうに、いまだ雑用で働き続けるとはなかなか謙虚な娘のようじゃのう」
「少々変わってはおりますが、素直で明るい娘でございました」
あの娘を「素直で明るい」というのに引っかかりを覚えるのはなぜだろうか。
「正式なメンバーではなかったため、華やかな舞台に立つこともなかったのはちと不憫じゃな。うちの息子もずいぶんと世話になったようであるし、その娘に何かしらの礼をしたいのだが、どうだろうか?」
表向きには魔王討伐を成し遂げた勇者は第三王子殿下である。
「本人に申し伝えますが、いかんせん平民の娘ですので陛下から直接となりますと萎縮してしまうのではないかと」
いや、ありえないな。あの娘ならおそらく国王陛下だろうと平気で渡り合えるだろう。
「では、あまり大ごとにならないよう考えてくれるか?」
「・・・かしこまりました」
また仕事が増えた。