休暇:2日目・夜
夕方、馬車で王都の中心部へ出かける。午後の雨はもう上がったようだ。
連れて行かれたのは大通りからちょっと入ったところにあるお店。ちょっと歴史のありそうなビストロ。
「私もここへ来るのは久しぶりだが、あまり気取った店ではない方がいいと思ってな」
「あ、それは助かります」
宰相閣下がドアを開けるとベルがカランカランと鳴った。お客さん達のにぎやかな声が流れ出てくる。
「おや旦那、お久しぶりですね。それにこんな可愛らしいお嬢さんをお連れとはめずらしい」
「オーナーも元気そうで何よりだ」
にこやかに出迎えてくれたのはオーナーさん。
予約してあったようで、喧騒から少し離れた奥まった席に案内される。
「あ、美味しい」
軽めのワインとともにテリーヌや鶏肉の煮込みなどさまざまな料理を楽しむ。マナーを気にせず気軽に食べられるのは本当にありがたい。マナーを気にしちゃうと、なんだか味がよくわからなくなっちゃうんだよね。
「ここは国王陛下も時折お忍びで利用されていてな、私もたびたび付き合わされている」
食事の途中で宰相閣下が小声で話しかけられた。
「あの、それっていざという時のために覚えとけってことでしょうかね?」
私も小声で返す。
「察しがよいのは君のよいところだな」
宰相閣下の手が伸びてきて、頭をぐりぐりとなでられる。
「今のオーナーはかつて王宮に勤めていた者でな、いざという時の対策もそれなりに考えられてはいる。ただ、陛下のことだから君をここへ連れてくることも十分にありうると思ってな」
「ああ、なるほど」
もはや知らぬ仲じゃないんで別にいいんですけどね。それにしても、国王陛下と酒を飲んでるとか王都に出てくる前じゃ考えられなかった状況ではあるよなぁ。
「前から疑問に思っていたのだがな」
「ん、なんでしょう?」
小首を傾げて聞いてみる。
「君はその気になれば王宮の職員寮の雑用係よりも冒険者などの方が稼げるのではないのか?」
宰相閣下が聞いてきたので、少しだけ考えてから答えた。
「ん~、確かにそうなんでしょうけど、今はまだ王都を離れる時期じゃないって感じるんですよね。王都に出てくる時もそうでしたが、なんていうか・・・勘みたいなものでしょうか」
しばらくの間があったが、宰相閣下からは
「そうか」
と一言だけ返ってきた。
最後のデザートがあまりに美味しくてニヤニヤしていたら、宰相閣下は
「そんなに気に入ったのならこちらも食べるといい」
と言って自分の分を私に譲ってくれた。ああ、幸せだなぁ。