助言
仕事を一通り終え、すでに外が暗くなる頃になってから後輩の女の子と2人で迎えの馬車に乗って大神殿へ。
彼女はすごく緊張しているみたい。そりゃそうだよね。普通は入れないはずのところをどんどん進んでいくんだもの。しかも会う相手は聖女様ときたもんだ。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。聖女様はとっても優しい方だから」
「は、はい」
祈りの歌の指導は厳しいけどね。
案内された部屋にはすでに聖女様が待っていた。
「お仕事でお疲れでしょうに、わざわざ来ていただいてごめんなさいね」
「いえ、こちらこそ相談に乗っていただいて感謝しております」
私がお辞儀すると後輩の女の子も挨拶をする。
「あ、あの、初めまして。よろしくお願いいたします!」
「うふふ、かわいらしい後輩さんね。こちらこそよろしく。さぁ、お掛けになって」
私と後輩の女の子はソファーに並んで座る。
向かいのソファーに座った聖女様の肩には、いつの間にかきれいな白い鳥がとまっていた。
それなりの大きさがあるように見えるけど、重くはないのかな?
「だいたいのお話はうかがっているわ。幽霊さんを貴女は見えるだけ、後輩さんは声が聞こえるだけ、なのよね?」
「そうなんです」
隣で後輩の女の子もうなずく。
「ところで、今ここで何か気になることはあるかしら?まずは後輩さんから」
「ええと、聖女様の肩の上が白くぼんやりと光ってます。それからとてもきれいな鳥の鳴き声が聞こえています」
え、鳥の鳴き声?
「貴女はどうかしら?」
聖女様は私の方を見る。
「聖女様の肩の上に真っ白な鳥がとまってます。でも鳴き声なんて聞こえないですよ」
ニッコリ笑う聖女様。
「それでは、お2人で手をつないでみていただけるかしら?」
後輩の女の子と顔を見合わせ、おずおずと手をつないてみる。
「「あっ!」」
手をつないだとたんに鳥の鳴き声がはっきりと聞こえてた。後輩の女の子も声を上げた。
「聖女様の肩に白い鳥が見えます!」
「私も鳥の鳴き声が聞こえるようになりました」
これって、もしかして手をつなぐと感覚を共有できるってことなのかな?
やがて白い鳥は聖女様の肩から離れ、壁に向かって飛んでいったと思ったら、すっと消えた。
「さっきの鳥は実体ではなくて、簡単に言えば私専属の精霊みたいなものね。貴女達のことを確認するために出てきてもらったの」
聖女様が微笑む。なるほど、あれは真贋の判定だったのか。
「さっそく本題なのだけれど、図書館付近に住み着いている幽霊さんは『家族の元に帰りたい』とおっしゃったのよね?」
「はい」
後輩の女の子がしっかりと答える。もうすっかり落ち着いたようだ。
「そうなると『浄化』することになるのだけれど、ここは幽霊さんと多少なりとも通じ合っている貴女達でやっていただくのが一番いいと思うの」
「それって私達でできるんですか?」
難易度高すぎな気がするんだが。
「一番手っ取り早いのは祈りの歌ね。貴女はすでに歌の経験はしているし、声が聞こえるという後輩さんもおそらくいけると思うの。さっそく教えるわね」
そんなわけで、いきなり祈りの歌の練習が始まった。
建国祭の時とはまた違う祈りの歌だったので、私も一から覚えなければならなったが、後輩の女の子と一緒に覚えていく。彼女は高く澄んだきれいな声だった。
なんとか一通りおぼえたけれど、まだちゃんと歌に気が乗っていないので浄化まではできないらしい。
ふと疑問に思って聖女様にこそっと聞いている。
「あの、もしかしてお姉様なら一発で解決できちゃったりします・・・?」
「通常ならできるのだけれど、今回に関しては場所の問題なのよねぇ。私には王宮内の気配がどうにも合わなくて、本調子とはいかなくなってしまうの。それこそ幽霊さんが出てくるくらいだから、長い歴史の澱みがたまっているのが原因ね」
それって、まだ他にもいろいろといるってことだよね?と思ったが、後輩を心配させたくないのでとりあえず黙っておく。
「さすがに今日だけで仕上げるのは無理だけど、たぶんそう時間はかからないと思うわ。さ、がんばりましょうね」
祈りの歌の指導はやっぱり厳しかった。