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経過報告

休憩時間を利用して若い女性の幽霊に遭遇したことを女官長様に報告しに行く。宰相閣下は不在だったので後回し。後輩の女の子は調理場の手伝いに駆り出されたので、今日は休憩も別々だ。


女官長様の執務室のドアをノックして入室する。

「それにしても貴女って絵が上手ねぇ」

私が見た若い女性の幽霊の姿を絵に描いておいたので、説明する際に見せたのだ。言葉で説明するのはちょっと難しそうだと思ったから。

「そうでしょうか?」

「ええ、おかげでとてもわかりやすいわ。こういうドレスはかなり古い型ね。それもこの国ではほとんど普及しなかったから、外国から来られた方だったのかもしれないわね」

今でこそわりと平和な世の中だが、かつては国同士の争いも多く、人質同然の婚姻なども少なくなかったと歴史の本には書かれていた。あの女性もそんな1人だったのだろうか。

「こちらに関しては私の方でも少し調べておくわね。それからもう1つお願いがあるのだけれど」

「何でしょう?」

女官長様はニッコリ笑っていた。


「あのね、私が趣味で小説を書いてることは以前話したと思うんだけど、先ほど伺った貴女と後輩の女の子のことをネタに使ってもいいかしら?ほら、1人は幽霊が見えるだけ、もう1人は幽霊の声が聞こえるだけって設定がちょっとおもしろいじゃない?それにコンビで活躍ってところがまたいいのよねぇ。ああ、もちろん名前とかはちゃんと変えるから心配しないでね」

「・・・はぁ」

女官長様はいい方だとは思うのだが、この手の話になるととたんについていけなくなる。

でも、今の話でふと思いついたことがあり、ずうずうしいのは承知の上で聞いてみる。

「あの~、こちらからも1つお願いしてもいいでしょうか?」

「あら、何かしら?」

小首をかしげる女官長様。これはこれでお美しい。

「後輩の女の子は読書好きなんですよ。今回の報酬代わりに彼女が読めそうな本を何かお譲りただけないかなぁ~と思いまして」

「それくらいはお安い御用なのだけれど、彼女はどんなものがお好みなのかしら?」

「小説全般ですかね。読んでいるものはその時々で変わりますが、以前は歴史ものが多かったけれど、最近はちょっと怖い話とか恋愛ものが多いんじゃないかと思います」

女官長様は少し考えてから立ち上がり、机の引き出しから1冊の本を取り出してきた。

「これなんかどうかしら?」

確か彼女が同じ作者の本を読んでいたのを見た記憶がある。恋愛ものだったはずだ。

この作者の本はとても人気があるため街の図書館では順番待ちで、読めるようになるまでとても時間がかかったと言っていたから、なんとなく覚えている。

「それ、まだ発売前だから読んだことはないはずよ」

「ということは」

「そう、私が書いたの」

ニッコリ笑う女官長様。

「マジですか」

「もし好みでなければ返してもらってかまわないけど転売はしないでね。それから作者の正体は内緒よ?」

そう言いながらウィンクした。

「わかりました。ありがとうございます!」


職員寮に戻って後輩の女の子に女官長様からのプレゼントだと言って渡したら、飛び上がらんばかりに喜んでいた。秘密のルートで入手した発売日前のものなので誰にも見せないことと、転売厳禁だけは念を押しておいた。

もちろん作者の正体も教えてはいないが、もしも知ったらどうなることやら。

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