祭りの後
建国祭も終わってすっかり普通の日常に戻った頃。
宰相閣下から久しぶりにお酒のお誘いがあり、迎えの馬車に乗ってお屋敷へ。
「よう!久しぶりだな」
先客がひょいと片手を上げる。
「あ、ご無沙汰してます。国王陛下もいらしてたんですね」
「ちょっとめずらしい酒が手に入ったんで、お前にも飲ませてやろうと思ってな」
すっかり飲み仲間扱いされている気がする。
「それにしても今年の建国祭の祈りの歌はすごかったな。俺は二重唱とは聞いてなかったので、いつもと違うので驚いたし、後でお前だと知ってさらに驚いた」
乾杯の後、一気にグラスを空にした陛下が言う。
「私も二重唱は初めて聞いたが、あれは確かに素晴らしかった」
宰相閣下まで感想を口にするので、ふと思い出した。
「そういえば女官長様から祈りの歌の時に『光の粒が降ってきた』とか言われたんですけど」
「私には無数の光の帯に見えたな。風にたなびくように揺れていた」
と宰相閣下が言えば、国王陛下も続ける。
「俺は雪のように光が舞い降りて見えたがな」
どうやら本当に人によって見え方が違うようである。
「こういうのってよくあることなんですか?」
宰相閣下が首を振る。
「いや、私が知る限りではないな」
「俺も初めてだ。だからみんな『奇跡だ』とか言って祈ってたんだろう」
当の本人は本番も歌うことに集中していて何も見ていなかった。なんか損した気がする。
「で、お前はあれから少しは落ち着いたのか?」
国王陛下に問われる。
「はい。勇者様・・・じゃなかった第三王子殿下が時々剣の相手をしてくださるのですが、剣を交えても以前の抑えきれないような衝動に駆られることもなく、平常心を保てるようになりましたね」
「それはなによりだ。うちの息子も剣に関しては負け知らずが自慢ようだが、お前には歯が立たなくて最近は少々必死になっているようだな」
最近の手合わせを思い出す。
「ああ、確かに腕を上げてきてはいますよね」
「互いにいい刺激になっているようで何よりだ」
国王陛下はニヤリと笑った。
国王陛下が持参しためずらしい東方の無色透明な酒がグラスに注がれる。
「ところでお前、それだけの腕前があるのなら職を変える気はないのか?もし希望があるなら俺かコイツでそれなりに口利きもできると思うが」
国王陛下が宰相閣下を指差しながら言うので、ちょっと考えてみる。
「ん~、少人数ならともかく集団行動ってどうも苦手なんですよね・・・あ、そうだ!」
「何だ?」
国王陛下が少しだけ首をかしげる。
「私の希望といたしましては宰相閣下の妻か手駒なんですが、とりあえず妻の座は自力で獲りにいくんで、なるんだったら手駒の方でしょうか」
一瞬の沈黙の後、国王陛下が大笑いし出した。
「ははは!お前は本当に面白いヤツだな。で、どうする?」
陛下が宰相閣下に視線を向ける。
「・・・妻の座に関しては、いったん置いておくとして」
置いとくんかい。
「大神官長殿や聖女殿との繋がりを持ち、陛下や第三王子殿下にも一目置かれるような娘ですから、いざという時に力を借りるのもありかと。職員寮の雑用係という立場も、自由に動く分にはむしろ得策かもしれません。今は後輩も出来て仕事の負担も少しは減っているのだろう?」
宰相閣下がこちらに視線を向けるのでうなずく。
「はい、とてもいい後輩達が入ってきましたので」
国王陛下はニヤリと笑う。
「よし、細かいことはお前達に任せよう。それから妻の座の件だが、婚姻の書類くらい俺がすぐに通してやるからいつでも持ってくるといい」
「はいっ!ありがとうございます!」
宰相閣下はなぜかため息をついていた。