建国祭当日
今日は建国祭なので祝日。
そして私はいつもどおり職員寮で仕事をしている。
昨日の午後は休ませてもらったし、それまでにも何度か祈りの歌の練習で早めに抜けさせてもらったりしていた。休みを取る人が多い今日くらいはきっちり働いておかないとねぇ。
後輩の男の子と女の子の2人は本日お休み。彼らは王都育ちなので、きっと王都の建国祭の楽しみ方も知っているのだろう。
仕事の合間に木陰でいただいたお菓子を食べる。
建国祭では子供達に菓子が振舞われるのだが、職員寮では私も一番若い部類に入るため、いろんな人達からお菓子をいただいた。
甘いもの好きが知れ渡っているというのもあるんだろうけど、正直なところいまだに子供扱いされているという点はちょっとひっかかる。それでも、もらえるものはちゃっかりもらっているけどね。だってお菓子に罪はない。
「ごきげんよう。今日はお仕事なのね」
声のする方を見上げると女官長様が立っていた。
「こ、こんにちは」
あわてて立ち上がり、服についた葉っぱをはらう。
「貴女は甘いものがお好きなようだから、もしよかったらこちらをどうぞ。知人のお店で作っていただいたキャンディなの」
手提げ袋から取り出した小さな包みを手渡される。どうやら祝日でも働く人達に配ってまわっているらしい。
「あ、あの、ありがとうございます!」
作っていただいたってことは特注ってこと?これはちょっともったいなくて食べられないかも。
おたおたする私を見て女官長様は微笑んでいた。
「ふふふ、こうしてみると昨夜の式典での貴女はまるで別人のようでしたわね」
「は?」
あ、昨夜は女官長様もいらしてたのか。
「祈りの歌の時、客席の皆様が祈っていたことには気づかれました?」
「ああ、はい。暗かったですが、ちょっとだけ見えました」
「例年の式典ではただ聖女様の歌を聴くだけでしたの。ですが、今年は歌の間ずっと光の粒が降ってくるのを魔力を持たない私でも見ることが出来ましたわ。魔力を持つ方ならもっと違う見え方だったのかもしれませんけれど」
「え?」
何それ。全然気づかなかったんですけど。
「後で宰相様にでも聞いてみたらいかがかしら?」
なるほど、宰相閣下は魔法使えるもんね・・・って、あ、そうだ。
「あ、あの、女官長さま」
「何かしら?」
「単刀直入にお伺いしますが、宰相閣下のことをどう思われてますか?」
女官長様は一瞬驚いたようだったけれど、すぐ微笑みに戻られた。
「ふふふ、実は貴女のことは国王陛下から聞いているの。宰相様に求婚なさったんですってね?」
「あ、ご存知でしたか」
確かに女官長様ならそのルートはありだよな。
「宰相様はいい方だとは思うけれど、私にとっては恋愛や結婚の対象ではないわねぇ。その昔、陛下から雑談程度の打診はあったけれど、その場でお断りしたわ。それにね、昔は私もいろいろとあったものだから、独りで仕事と趣味に生きていくと決めたのよ」
「そうなんですか・・・」
何があったのかすごく気になるけど、ここでそれを聞くのは野暮ってもんだよね。
そんなことを思っていると、女官長様に突然両肩をガシッとつかまれた。
「でね、私って趣味で小説を書いてて、実はペンネームで本も出してたりするのだけれど、貴女と聖女様のことを題材にしてもいいかしら?最近は女性同士の恋・・・じゃなくて深い友情の話が流行していてね、昨日の貴女と聖女様の祈りの歌でアイデアがわきまくってるのよ~!ああ、もちろん実名なんて出さないし、設定もちゃんと変えるから心配しないでね」
「・・・はぁ」
何を言ってるのかちょっと理解しきれなくて気の抜けた返事になる。
「あ、そうそう、国王陛下と同じく私も貴女のことを応援していますからね。だから宰相閣下と何か進展があったら教えてね!・・・ネタにするから」
最後の方はよく聞き取れないまま女官長様は去っていった。
女官長様は素敵な大人の女性だと思ってたんだけど、なんだかちょっと予想外な方だった。