式典
宰相閣下からいろいろとうかがって、聖女の祈りの歌は建国祭前日の夜の式典で披露することを知った。考えてみたら歌の練習はしてたけど、詳細を全然聞いてなかったんだよね。
そんなわけで、建国祭前日は午後から休みをもらって大神殿に連れて行かれ、聖女様とお揃いの装束に身を包んだ。
私の装束は聖女様が過去に使用したものだが、胸の部分が大幅に余る問題は大神殿の装束担当の方々の努力によりなんとか調整してもらった。それでも詰め物はされたけどね。
出番直前にヴェールをかぶらされて控え室を出る。
建国祭はこの前夜の式典から始まり、その式典の一番最初に私が主旋律を担当する「鎮魂」の歌が最初なのだそうだ・・・ということは、実はものすごく責任重大なのでは?といまさら気づいたが、ここまで来たら逃げも隠れもできない。まぁ、なるようになるだろう。
シーンと静まり返る会場を静々と歩く聖女様の後をついていき、階段は長いスカートをそっとつまんで持ち上げながら壇上の人となる。
舞台中央に立つと聖女様が視線で合図をくれたので、小さくうなずいて暗くてよく見えない客席の方を向く。
そしてすっかり身についた旋律を歌いだした。
出だしは1人だけど、あとから主旋律に重なってくる聖女様の歌声が心地よい。
2曲目の「祝福」では入れ替わって主旋律の聖女様に私が音を重ねていく。
なんだか練習よりもずっと上手く歌えた気がした。
歌い終えても客席からは拍手や歓声などは一切起こらず、ただ静まり返っていた。
暗い中、うっすらと見える客席では、みんな指を組んで祈りを捧げていた。初めてだからよくわからないけど、この式典ではきっとそういうものなのだろう。
これから壇に上がる大神官長様とすれ違ったのでお辞儀をし、再び聖女様の後をついて歩いて控え室へと戻ってきた。
「おつかれさま!すごくよかったわよ」
聖女様が褒めてくれて、抱きしめてくれた。
練習を重ねて身体の疲労感はあまり感じなくなっていたけれど、それでも本番の緊張で少し身体が強張っていたらしく、聖女様の力で少し楽になってくる。
「なんとか無事に歌えてよかったです」
こんな大舞台で歌う機会などそうそうないだろうから、いい経験をさせてもらった・・・と思うことにしよう。
そんなことを考えていると聖女様の身体が私からそっと離れていき、にっこり笑って言った。
「それじゃ次は新年の式典でよろしくね」