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予行練習

このところ仕事を終えると有無を言わさず大神殿に連れて行かれ、祈りの歌の練習をする日々が続いていたのだが、今日は大神殿で行事があるとのことでお休み。

そして、まるでそのことを知っていたかのように宰相閣下からのお酒のお誘いをいただいた。


迎えの馬車に乗ってお屋敷に到着すると、めずらしく宰相閣下にお願いをされた。

「もしできたらでよいのだが、この家で祈りの歌を少し披露してもらえないだろうか?」

建国祭の式典で聖女の祈りの歌を直接聴くことができるのは、王族と貴族に限られるのだという。

お屋敷で働く皆さんに聴かせたい、ということなのかな?

私はちょっと考えて答える。

「え~と、それじゃ私が主旋律を担当する曲だけでもよいでしょうか?」

「ああ、それでかまわない」


お屋敷のエントランスに皆さんがぞろぞろ集まる。

私は階段を数段上がってちょっとだけ高い位置に立つ。

執事さんやメイド長さん達はすでに顔なじみだけど、こうしてみると知らない顔も結構多いんだなぁ。

というか、考えてみれば今までは大神殿での練習だけで、人前で歌うのはこれが初めてだ。

うっかりその事実に気づいてしまい、今になって緊張してきた。

けれど、本番ではもっとたくさんの人の前で歌わなければならないわけだから、予行練習と思うことにするか。

「では、始めますね」


私は「鎮魂」の歌を歌い始める。

歌っている時の私は何も見ていないし、考えてもいない。ただひたすらに歌うだけ。

歌い終えて、いつのまにか閉じていた目を開けて驚いた。

皆さんに拝まれてるんですけど・・・どういうこと?!

ペコリとお辞儀をして階段を降りると、メイド長さんが涙を流しながら抱きついてきた。

「本当に素晴らしかったわ。ありがとう」



「今日はありがとう。本当にいいものを聴かせてもらった」

今日は宰相閣下自らグラスに琥珀色の液体を注いでくれた。

「正直、人前で歌うのは初めてだったので緊張しましたけどね」

一仕事こなした後の酒はやっぱり美味いなぁ。


美味いお酒を飲みながら建国祭について話す。

故郷では祝日で子供達はあちこちでお菓子がもらえる日というくらいの認識だった。

そして王宮の職員寮の雑用係となってからは忙しくて、王都の建国祭というものをちゃんと見たことがない。王都ではかなり大きな行事で、民間レベルでもさまざまなイベントが行われるらしい。


そんな話をしていて不意に思い出す。

「そういえば女官長様って素敵ですよねぇ」

「どうした?急に」

宰相閣下が不思議そうな顔をする。

「ほら、こないだ私が執務室にお邪魔してた時に女官長様がいらしたじゃないですか。傍で見ていて宰相閣下と年齢的にも釣り合いが取れてるし、美男美女だし、どちらも仕事がバリバリできるし・・・もしかしてお似合いなのでは?とかちょっと思いまして」

「ごほっ」

宰相閣下がお酒を吹き出しそうになっていた。

「だって国王陛下がくっつけに動きそうじゃありません?」

しばし考える宰相閣下。

「確かに陛下ならやりかねないが、過去にそういう話は出たことがないな。おそらく向こうにその気がないからだろうと考えている」

「実際のところ、宰相閣下は女官長様のことをどう思ってます?」

「仕事に関しては大変信頼できる女性だとは思うが・・・それだけだな。それよりなぜ急にそんなことを聞く?」

「いや、ほら、もしかしてライバルなのかな?とか思いまして、率直に聞いちゃおうと思いました。ぐだぐだ悩むのは苦手なんですよね」

「仕事においては大切な同僚ではあるが、異性として意識することはないな」

とりあえずは一安心でいいのかな。そして聞いてみる。

「じゃあ私は?」

「君に関しては・・・正直なところ、いまだによくわからない。だが、こうして酒を酌み交わす相手としては好ましく思ってはいる」

そっか。ま、酒は美味いし、今のところはそれでもいいか。

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