練習
聖女の祈りの歌は2曲あって「鎮魂」と「祝福」だそうである。
どちらも歌詞はなく、旋律そのものに意味があるらしい。
そして「鎮魂」では私は主旋律を歌うことになった。よくわからないけど、声が適しているそうだ。
まずは「鎮魂」を覚えることになり、聖女様が歌うのを真似して歌いながら覚えていく。
神殿独自の楽譜はあるのだが、通常の音楽とは異なるそうで一般人にはまったく読めないそうだ。もっとも私は普通の楽譜だってちゃんと習ったことはないから、ろくに読めはしないのだが。
「あら、覚えるのが早いわね。ここからは私は別パートを歌うから、つられないようにね」
一通り覚えてなんとか歌えるようになると、聖女様は別パートを歌い始めた。
そこで初めて聖女様が二重唱にしたいと言った意味を知る。
うまく表現できないけれど、同じ旋律を歌っていた時と感覚が明らかに違うのだ。
「すぐに覚えたわねぇ。何よりとても綺麗な声で歌も上手だわ」
休憩に入ると座り込む私に聖女様が飲み物を手渡してくれた。
「そ・・・そうでしょうか?」
おかしいな。ただ歌ってただけなのに、すごく疲労感がある。
「どうやら無意識のようだけれど、歌にうまく気を乗せることが出来ているようね」
「そう・・・なんですか?」
聖女様が隣に座る。
「今、とても疲れているでしょう?」
「はい・・・そうですね」
「祈りの歌に乗せて気を解き放てているということよ。慣れてくればそんなに疲れないようになるわ」
なるほど、これがそうなのか。
ぼ~っと考えていると、聖女様にふわりと抱きしめられた。
「でも身体の疲れは取り除いてあげるわね」
聖女様から何か暖かいものが流れてくるのを感じる。身体の疲れがすーっと消えていく。
「ありがとうございます・・・お姉様」
そして聖女様はにっこり笑って言った。
「さ、これからもう1曲も練習しましょうね」
お姉様は優しいけれど厳しい。
そろそろ日も傾き始めた頃、ふと窓の外を見て驚いた。
「あ、あの、お姉様、あれって・・・?」
そう言いながら私は窓を指差す。
窓の外の木々にはたくさんの鳥がとまり、いろんな種類の小動物も窓辺に集まってきている。
でも鳴き声はまったく聞こえてこない。
「あら、今日はいつもより多いわね。やはり貴女が歌に加わったせいかしら?」
聖女様は笑顔で答えた。
「いつもこんな感じで集まるんですか?」
「ええ、そうよ。みんな暇つぶしで聴きに来ているのかもしれないわねぇ」
特に不思議に思ってはいないらしい聖女様。
まぁ、いいか。




