相談
「ところで、お前達の仲はちょっとは進展しているのか?」
「まぁ、こうして酒を酌み交わすくらいには・・・でしょうかねぇ」
あいかわらず口を挟まず黙って飲んでいる宰相閣下。
「そうか・・・まぁ、こいつのことに限らず何か困ったことがあれば相談しろ。お前はいろいろやらかしそうで面白いからな」
今度は頭をポンポンされた。
そう言われましても、まず相談に行く方法が簡単じゃない気がするんですが。
その後はチビチビと美味い酒を飲みつつ国王陛下と宰相閣下の雑談を適当に聞き流し、時々茶々を入れる。
2人とも私がいるから本当にヤバい話はしていないんだろうけど、それでも王宮の裏事情をちょっとだけ垣間見た気がした。
一晩寝たら忘れることにしよう、うん。
帰りは恐れ多くも国王陛下の馬車に便乗させていただくことになった・・・といっても、お忍びなので外見はすごく地味なヤツだけど。
宰相閣下に挨拶をして、馬車に乗り込む直前に呼び止められる。
もしやと思っていたら、ふいに両手で頭を包み込まれて額に口づけが落とされる。
「おやすみ。よい夢を」
なんとか馬車に乗り込むと扉が閉まる。
「ははは!あんなので真っ赤になってるのか。可愛いヤツだな、お前は」
一部始終を見ていた国王陛下がものすごく楽しそうな顔をしていた。
「しょうがないじゃないですか!ああいうのって慣れてないんですよ・・・てか、宰相閣下って絶対酔ってますよね?!」
「さて、どうだろうなぁ?」
国王陛下はニヤニヤしていた。
「そもそも、あれが女と飲んでいるところを見たことがないから何とも言えんな。だが、あの様子からしてお前にはそれなりに気を許しているとは思うがな」
「ん~、でも、あれってどっちかっていうと家族愛とかに近くないですかね?」
本人がいないことだし、こうなったら知ってる人に相談してしまおう。国王陛下だけど。
「さて、そこまではわからんがな・・・ああ、そうだ。だったらたまには甘えてみたらどうだ?」
「・・・その甘え方ってのがよくわからないんですよねぇ」
もしわかってても自分の性格的にそれは無理そうな気もする。
「まぁ、こういうのは人それぞれだ。自分達なりに進めばいいさ」
「それにしても、お前は外見はかつての聖女によく似ているが、言動は父親そっくりだな」
ふいに話が変わる。
「・・・ああ、両親に会ったことがあるんでしたっけ」
「そうだ。勇者の方はなんだかつかみどころのない奴だったな。身分差とかもお構いなしに普通に話しかけてきたが、不思議と腹が立つことはなかった」
昔のことをふと思い出す。
「確かに父はいろいろと騒動を起こしてた気はしますが、故郷の町の人達にも冒険者仲間にも不思議と好かれてて、あれこれ頼られたりしてたのはなんとなく覚えてますね」
「それも勇者の特性の1つなのかもしれんな」
王宮の職員通用門から少し離れた場所に馬車が停まる。
「陛下、今夜はありがとうございました」
深々と頭を下げる。
「うむ。ああ、それから俺はおやすみのキスはしてやらんからな」
そう言いながら頭を乱暴になでる。
「宰相閣下で間に合ってるのでいりません!」
次回は2020/10/01(木)夜に投稿予定です。