馴れ初め
あれから数日後、宰相閣下のご実家である侯爵家から新酒が届いたとのことでお屋敷に招待された。
各種マナーのお勉強はないとの追伸があり、仕事を終えてからちょっとだけウキウキしながら迎えの馬車に乗って宰相閣下のお屋敷へ。
だが、執事さんに案内されて通された部屋には宰相閣下以外の人物も待っていた。
「よう!久しぶりだな」
満面の笑みで片手を上げる。
「・・・え~と、なんで国王陛下がいらっしゃるのでしょうか?」
「いわゆるお忍びってヤツだな。俺だってたまには友達の家で飲みたいんだよ」
宰相閣下の方に視線を向けると、あきらめたような表情だった。
「気にするな。よくあることだ」
さっそく3人で乾杯する。
「へぇ、新酒だとまた味わいが違うんですね」
「ほぉ、本当にいけるクチなんだな。お前は熟成したヤツとどっちが好きだ?」
「これはこれで美味しいと思いますが、好みでいうなら熟成した方ですかね」
国王陛下としばし酒談義。宰相閣下は飲みながら黙って聞いていた。
「ところでな、今日来たのはお前に話があったからだ」
3度目のおかわりの時に国王陛下が話を切り出した。
「何でしょう?」
「お前の父親が勇者だったという話を聞いてな。お前、父親が勇者ではあったけれど普通の冒険者だったと思ってるだろう?」
「・・・まぁ、そうですね」
最期以外はね。
それはさておき、この話しぶりだと何か私の知らないことがあるみたいだな。
「昔、ほんの数回だがお前の父親とは面識がある。先王の時代だな。勇者達はとある大きな厄災を退けて王家を守った。ただ、魔王討伐のように表沙汰にはできないものだったので、娘のお前にも話してはいないだろうと思ってな」
そう聞いて少し考える。表に出せないたぐい、か。
「・・・もしかして呪いとか、ですか?」
ニヤリと笑う国王陛下。
「察しがいいな。だが詳細については明かせない。王族の恥部でもあるからな」
「では聞かないでおきます」
過去のこととはいえ、面倒ごとはゴメンだ。
世の中、知らないままの方がいいことは山ほどある。
「まぁ、その時に組んだのが賢者と聖女でな、すべてを終えた後に勇者が褒美として願い出たのが聖女との結婚だったというわけだ」
初めて聞いたぞ、うちの親の馴れ初め。
「初耳です」
「そうだろうな。大神殿の決まりごとで聖女の結婚にはさまざまな条件や手順があるのだが、それをすっ飛ばすために駆け落ちという形を取った、と大神殿側からは聞いている」
「よく認めましたね、そんなこと」
私は首をかしげる。
「そうする理由があった」
国王陛下がグラスを口にする。
「聖女は呪いの一部を受けた。当時の賢者も大神殿側も全力を尽くしたが、結局解くことは出来なかった。だからせめて好きな男と一緒に、ということだな。本来なら子を成すことも望めないだろうと言われていた。だがお前はここにいる」
空いたグラスをテーブルに置き、じっと私を見る国王陛下。
「いわばお前は奇跡のような存在だ。その命、決して無駄にはするなよ」
「わかりました」
うなずいて答えると、乱暴に頭をなでられた。