真剣勝負
第三王子殿下に連れられて近衛騎士隊の訓練場から王家のプライベートエリアに移動する。
周囲の喧騒もここにはまったく届かない。とても静かだ。
第三王子殿下は動きやすい服装に着替えてきた。
「それにしても、今のお前はなぜそうもギラギラしている?」
「それが困ったことに自分でもよくわからないんですよね。どうしようもなく血が騒ぐというかなんというか・・・一度火がつくと簡単には消えない、みたいな感じでしょうか」
しばらく何か考えていたようだったが、不意に話し始める。
「はるか昔に我が国に現れた勇者は、その身に宿す力を御し切れずに人里離れて暮らすようになったという伝承があるが、今のお前はそれに近い状況なのかもしれないな」
「そう・・・ですね」
いや、まさにそのとおりだろう。
自分で自分を制御しきれないのなら何か策を考えなきゃならない。
でも、今は目の前の勝負に集中する。
魔王討伐の旅で一緒にいたから知っている。
この人は神託の勇者ではなかったけれど、間違いなく強いということを。
「では始めようか」
「はい」
互いに剣を構え、静かに向き合う。
私の中で闘えることの歓喜と勝負に対する冷静さが交差する。
しばらくは互いの出方を見極めるためにらみ合いとなったが、こちらから仕掛けることにした。
双方、一歩たりとも引かない激しい打ち合いが続く。
だが。
剣の熟練度は向こうが上かもしれないが、速さならばこちらが勝る。
一瞬の隙を見出し、渾身の速さで剣をなぎ払い、第三王子殿下の模擬剣は地面に突き刺さった。
「魔王討伐時の旅でお前は剣を握らなかった。だから剣ならば勝機はあるかと思ったんだがな」
地面に突き刺さった模擬剣を見ながら第三王子殿下がつぶやく。
「本当はお前1人でも魔王を倒せたんじゃないのか?」
「さぁ・・・どうでしょうね」
ああ、ダメだ。
まだ戦いの飢えがおさまらない。
いったいどうすればこの渇きがおさまる・・・?
「おい」
つかつかと私の目の前に歩み寄ってきた宰相閣下。
あれ、いつのまにこちらに来てたんだろうか?
がしっと両肩をつかまれる。
「まずは大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出せ・・・そうだ、もう一度」
言われたとおりに何度か深呼吸する。
「どうだ?少しは頭が冷えたか?」
無言でうなずく私。
そして不意に宰相閣下の顔が近付いてきて唇を奪われる。
・・・なんで?
頭が真っ白になったところに、いつもとは違う宰相閣下の声が聞こえた。
『眠れ』
え、これって魔法・・・?
そこで私の意識は途切れた。