渇望
小走りで近衛騎士隊の訓練場まで行ってみると、すでに先ほどの第三小隊の皆さんが待っていた。
「たいしたものだ、ちゃんと逃げ出さずに来たようだな」
「はぁ」
仁王立ちして不敵に笑う小隊長にとりあえず返事をする。
「まずはうちで一番若いヤツとやってみろ。好きなようにかかっていいぞ」
そう言いながら模擬剣を手渡される。軽く振ってみるが、やけに軽く感じる。
「始めっ!」
合図と同時にいったん低い姿勢をとってから勢いをつけて蹴り技を繰り出し、まずは相手が手にしていた剣をぶっ飛ばす。
そしてすぐに投げ技をかまして地面に叩きつけた。
「・・・き、貴様、卑怯だぞ!なぜ剣を使わん?!」
「え、だって好きなようにかかってこいって言ったじゃないですか。別に剣のみでの勝負とか言ってませんでしたよね?」
それにしても何でみんな顔が赤いんだろう?
・・・あ、そっか、今はメイド服だから思いっきりスカートだったわ。
蹴り技の時に脚が見えちゃったか。ちょっとサービスしちゃったな。
「そもそも敵に卑怯だとか言って通用するわけないじゃないですか。卑怯だろうが何だろうが、やらなきゃやられるだけでしょ」
わかってはいたが、私と騎士では根本的に違うんだな。ならば。
「ああ、でも、そちらが剣しか使えないとおっしゃるのであれば、そちらにあわせて差し上げますけど?」
小隊長を小首をかしげて笑顔で挑発する。
「馬鹿にするな!体術だろうがなんだろうが我々は受けて立つ!」
2人目は軽い威圧だけですでにビビッていたので、開始直後に剣を真横に振り切って相手の剣をすっ飛ばし、首元に突きつけておしまい。
次もあっさり片付いてしまったので、こちらから要望を告げる。
「あの~、とっとと片付けて持ち場に戻りたいですし、正直もの足りないので残りはまとめてきてもらえませんかねぇ?」
「「貴様~!!」」
小隊長以外の騎士達がまとめてかかってくるが、むしろ乱戦の方が大好物なので楽しませてもらいましょうか。
しばらく後、訓練場に転がる騎士達。
もう少し手加減した方がよかったかな?でも、それじゃこっちがもの足りないしなぁ。
いずれにしても、残るは小隊長様のみ。
「小隊長様はもう少し手ごたえを期待してもよろしいでしょうかね?」
すでに真っ赤になって怒っているが、さらに笑顔で挑発してみる。
「・・・貴様!」
合図もなしに打ち合いは始まる。ここは小隊長様に敬意を表して剣のみで勝負。
今までの比べれば多少の手ごたえはある。だけど。
「遅い!」
力任せに剣をなぎ払うと隊長殿の剣は宙を舞った。
首元に剣を突きつけるとくやしそうな表情で言葉を搾り出した。
「・・・参った」
以前から時々うっすらと感じてはいたんだけれど、今はっきりとわかった。
今の私は戦うことに飢えている。それもどうしようもないほどに。
こんな相手じゃもの足りない。
このままでは暴走してしまいそう・・・。
「お前、ここで何をしている?」
突然、勇者様こと第三王子殿下の声がした。
「こちらの第三小隊の方々が私の腕前を見るとおっしゃられたので少々お付き合いを。勇者様こそ、なぜこちらへ?」
「俺は名前だけとはいえ近衛騎士隊の総隊長でもあるからな。騒ぎになっていれば顔くらい出す」
気がつけばギャラリーもずいぶんと増えていた。
第三王子殿下がじっと私を見つめる。
「今のお前は飢えた獣のような眼をしているな」
「・・・正直なところ、戦い足りないんですよ」
本音を吐露すると第三王子殿下は私をまっすぐ見据えた。
「よかろう。私も前から君と一戦交えてみたいと思っていた」