売られた喧嘩
今日もまた休憩時間に後輩の男の子に剣の稽古をつける。
最近は動きが少し変わってきた。ちゃんと自分で考えて動いてる。いい傾向だと思う。
仕事の指導をしている調理場の男性によると、指示されなくても積極的に手が足りない所にまわったりするようになったという。
もともと手先が器用で仕事も早くて丁寧なので、みんなにかわいがられているらしい。
うん、よかったなぁ。
そんなことを考えていたら、近衛騎士の若い男性の集団が通りかかった。
こんなとこを通るなんて珍しいな?と思っていたら、先頭に立って歩いていたたぶん一番偉いと思われる騎士がこちらを見て立ち止まった。
「・・・おい、もしかして魔王討伐パーティのサポートに加わったという雑用係の女というのは貴様か?」
「はぁ、そうですが」
いったいなんだろう?と思っていると、あからさまに見下す様な態度に変わった。
「どんな奴かと思って見に来てみれば、ただの小娘ではないか」
よくわからないけど、わざわざ見に来たのか。暇な人だなぁ。
「はぁ・・・あの、失礼ですがどちら様でしょうか?」
「我々は近衛騎士隊の第三小隊、そして私が小隊長だ」
ああ、そうか。以前チラッと聞いたことがある。
魔王討伐パーティに参加するメンバーとして、戦士様こと第一小隊の小隊長と目の前にいる第三小隊の小隊長が最後まで候補に残っていたと。
どういう経緯で最終決定に至ったかまでは知らないけれど、この人きっと悔しかったんだろうなぁ。
「それにしても、女のくせに子供に剣を教えるとはどういうことだ?」
なんかめんどくさそうな人だなぁ。
「え~と、多少は心得がありますもので、休憩時の気分転換というか娯楽というか」
「貴様、剣を娯楽とは何事だっ?!」
突然ものすごい剣幕で怒り出した。
騎士だからこその考え方なんだろうけどさ、私にすれば剣はしょせん武器、斬り合いの道具だ。
「はぁ、すみません」
とりあえず謝っておく。
そして今度は急に笑い出した。
「ははは!魔王討伐パーティのサポートとして加わったくらいで自分が強くなったと勘違いしているのか?貴様はとんだ阿呆だな」
正直とっとと離れたいのだが、このまま言われっぱなしってのも癪だしなぁ。
「・・・あの、お言葉を返すようですが、先程も申しましたとおり多少は心得がございますので」
「よし、ならば貴様のその腕前を見てやろうではないか。これから近衛騎士隊の訓練場まで来い!」
こっちの都合も聞かずに第三小隊は去っていった。
「・・・あの、先輩、大丈夫なんですか?」
不安そうな後輩の男の子に笑顔で答える。
「うん、心配いらないよ。悪いけど先に寮に戻って私は少し遅れるってみんなに伝えてもらえるかな?」
「はい」
うなずいた少年の頭をなでる。
「それじゃ、ちょっと遊んでくるわ」
今も昔も売られた喧嘩はケチらずきっちり買う主義なもんでね。