魔王討伐の旅
自作短編「勇者は獲物を逃さない」の連載版です。
1~3話は短編とほぼ同じです。
宰相閣下との面談から数日後、なんとか私の代わりの人員の目処がついたようなので王都を出発した。
故郷では馬が普通に移動手段だったので、王宮から借りた馬であっという間に勇者パーティが滞在している村に到着して合流した。
宰相閣下からの書状を勇者様に手渡すといぶかしげにこう言われた。
「お前、本当に使える奴なんだろうな?」
こんな状況なので、あたりがきついのは承知の上だったので気にしてはいなかったが、その後の野営の手際のよさや薬草や獣などの知識、さらにそこそこ魔法が使えることもあって、勇者パーティの私を見る目がだんだんと変わってきた。
ちなみに壮行パレードでフードをかぶってて顔が見えなかった魔術師は、背格好も顔立ちもごく普通な感じの青年だった。ま、これはこれで親近感がわいていいのかもね。
旅も順調に進んだそんなある日。
お昼近くになっても周辺の魔物退治に出かけた勇者パーティがなかなか戻ってこない。
もう昼食は出来上がってるんだけどなぁ。
仕方がないから様子を見に行くと、勇者パーティは魔鳥の群れに襲われていた。
さては巣の卵に手を出したか。しょうがないなぁ。
私はマジックバッグから愛用の武器を取り出して片っ端から魔鳥を射落とした。
空飛ぶ魔鳥がいなくなったところで、あちこちに隠れているであろう勇者パーティに呼びかけた。
「みなさ~ん!お昼ですよぉ~。とっとと戻って食べてくださいね~」
みんなが昼食をとっている間に射落とした魔鳥を拾って歩く。
「お前、どうやって魔鳥を射落としたんだ?」
早々に食べ終えた勇者様に聞かれたので自作の武器を見せる。
「パチンコっていうんですが、まぁ子供のおもちゃみたいなもんですね」
ホントは弾に少々魔力を込めてますけどね。
ついでに、できるだけ獲物の体に傷をつけないように目を狙うくせがついている。
今日もきれいに決まって大満足。
「で、その魔鳥はどうするんだ?」
「決まってるじゃないですか。今夜はご馳走ですよ。楽しみにしててくださいね」
私がウキウキしながら手際よく魔鳥を捌く光景を見てしまった勇者パーティ一同は、その日の夕食で誰も魔鳥料理を口にすることはなかった。
もったいないなぁ、もう。
袖の下勇者パーティとは聞いていたが、実際にはそれなりに戦えるようであった。
私も故郷ではそれなりに狩りをやっていたので、手が空けばお手伝いする。食材確保は大事だもんね。
旅が進むにつれてみんな魔獣料理にも慣れてきて、美味いということはわかってもらえたようなので私としては満足している。
そして最初は王族や貴族の身内ということで鼻持ちならないヤツらばかりだろうと思ってたけど、話してみると意外と気のいい連中だった。
そもそも最初の野営で引き返したのは、神殿の外の生活をまったく知らなかった聖女様が初めての屋外での夜に異常におびえたのが原因だったらしい。なんだ、みんな優しいじゃん。
そして私という同性が加わったこともあってか聖女様の精神状態も安定し、なんかやたらと懐かれた。こっちが年下のはずなんだけどなぁ。
故郷でのあれこれや職員寮の仕事の話など、なんてことはない話題でも聖女様は目を輝かせて聞いてくれる。
しまいには一緒に温泉に入る仲にまでなったが、聖女様は同じ女性でも見とれるほどのナイスバディだった。う、うらやましくなんかないんだからねっ。
その後も魔熊や魔虎などをちょいちょい狩ったりして食材確保と私の小遣い稼ぎをしながら旅は進み、最終目的地である魔王の城に到着した。
戦闘の末に半壊状態となった魔王の城で、魔王と勇者様の一騎打ち状態となった。
私は瓦礫の中から拾ったモップの柄を魔力で強化し、気配を消して魔王の背後にまわりこみ、助走をつけて思いっきり後頭部をぶったたいた。
あ、ヤバい。これ、たぶん致命傷になっちゃうかも。やっぱり手柄は勇者様に渡さないとだよね。
「勇者様、今ですっ!」
崩れるように倒れた魔王に勇者様がとどめを刺した。
勇者様が息を切らしながらもこぶしをこちらに向けてきたので、私も笑顔で握りこぶしを作ってコツンとぶつける。
「おめでとうございます勇者様!」
「・・・いや、君のおかげだ。ありがとう」
そう言う勇者様の笑顔はまるで王子様のようにとてもさわやかだった・・・って、そういや勇者様は確か第三王子殿下だったっけ。まぁ、どうでもいいか。
私はわざと響くように2回手を叩くと、放心状態だった他のメンバーもハッと我にかえった。
「皆さ~ん、王宮に帰って『ただいま』と言うまでが魔王討伐ですよ~。しっかりしてくださいね~」
みんなに笑顔が戻ってきた。
「それから魔王の城の食品貯蔵庫を漁ってきたので今夜はご馳走作っちゃいますけど、何かリクエストはありますか~?」
一番疲れているはずの勇者様が叫んでいた。
「俺、魔鳥のから揚げが食べたいっ!」
さてと、これでやっと王都に帰れるぞ。