2人でお酒を
夕食を終えて、来た時の服装に戻ってから応接室に移動する。
「ご苦労だった。今日の夕食はどうだったかな?」
ソファーの背にもたれてぐったりしている私に宰相閣下が話しかける。
「・・・あ~、たぶん美味しかったんだろうと思いますが、全然食べた気がしませんでしたね~」
何であんなに気を使いながら食べなきゃならないんだろうか?
「まぁ、そうだろうな。そう思って軽食と菓子を持ち帰り用に包んであるから、寮に帰ったら夜食にするといい」
「何から何までお心遣い感謝いたします~」
感謝の言葉が棒読みなのは勘弁していただきたい。
「時に君は酒は嗜むかね?」
・・・ん?なんだろ。話が突然切り替わったな。
「まぁそれなりに、でしょうか。故郷じゃしばらく冒険者稼業をやってたんで、仕事終わりに飲むのが当たり前の環境で育ちましたしねぇ」
「いつから・・・とは聞かない方がよさそうだな」
軽く笑みを浮かべる宰相閣下にニヤッと笑い返す私。
「ま、そういうことで。それで、お酒がどうかしたんですか?」
宰相閣下の表情がいつもより少し緩んだ気がした。
「そろそろ送っていこうかと考えていたのだが、もし君が飲めるようならその前に一杯どうかと思ってな」
・・・なんですと?!
「そういうことでしたら喜んでご相伴に預かりたいと思います・・・あ、もしかして酔わせてどうにかしちゃうつもりですかぁ~?」
ニヤニヤしながら言うと宰相閣下に睨まれた。
「まったく・・・そんなことばかり言うのなら、このまま帰らせるが?」
「ごめんなさいっ!前言撤回します。いい子にしますから飲ませてくださいませ~!」
「「乾杯」」
執事さんに手渡された琥珀色の液体がゆれるグラスを宰相閣下のグラスに軽くぶつける。
光がはじけるような音がした。
「あ、美味しい・・・これはいいお酒ですね」
久しぶりに飲んだけど、こんな上等なのはお目にかかったことないな。
「ほう、これの美味さがわかるとはなかなかだな。うちの侯爵家の領地で作っているものでな、生産量も少ないのであまり他には出回らないが、国王陛下が気に入っておられて定期的に献上している」
「うわぁ、国王陛下も飲んでるお酒ですか~。私ってば贅沢しちゃってるなぁ」
うん、これはいい酒だ。
ふと気づくと宰相閣下の表情がさっきよりさらに緩んでいるように見える。
「宰相閣下、なんだか嬉しそうですね」
「ああ、たまに家で一人で飲むくらいだったが、こうして酒を酌み交わせる相手がいるというのもいいものだと思ってな。それにこういう場は互いを知るにもいい機会だろう?」
軽くグラスを掲げる宰相閣下。
「そうですね、私でよければいつでもお相手しますよ。こういうお誘いだったらいつでも大歓迎です」
「ああ、よろしく頼む」