夕食への招待
大神殿から帰ってきて、寮に戻る前に宰相閣下に報告に行くことにした。
執務室のドアをノックすると、すぐに入室を促された。
「ご苦労だった。大神官長殿との話はどうだった?」
「勇者選定の話は膝までついて謝られてしまいました。こちらは何とも思っていないので別に問題はなかったのですが、その後の話が予想外というかなんというか・・・」
「めずらしく歯切れが悪いな?何かあったか?」
宰相閣下が身を乗り出してくる。
「え~とですね、まず大神官長殿に頭を触られて勇者かどうか確認されたんですよ」
「・・・もしや勇者ではなかったとか?」
「いえ、ちゃんと勇者だったそうなんですが、同時に聖女の気もあるんだそうで」
「・・・は?」
そりゃ驚くよねぇ。私も驚いたし。
「うちの父が勇者なのは私も知ってたんですけど、母はどうやら聖女だったらしいんですよ。びっくりですよね~」
宰相閣下があっけに取られたような表情になる。
「すまないが正直なところ理解がまだ追いつかないんだが、とりあえず君の許可なく口外しないことを誓おう」
「そうですね、そうしてもらえると助かります」
「ところで今日はこれから予定はあるか?」
宰相閣下が書類とペンを机の引き出しに片付けながら尋ねてきた。
「いいえ、寮に戻って晩飯食って寝るだけですが」
「では今から寮に戻って夕食はいらないことを伝えたら職員通用門近くで待つように」
「へ?」
それってどういうこと?
「急ですまないが、我が家の夕食に招待したいと思うのだが、どうだろうか?」
おおっと、まさかのお誘いですよ!
「え、それ本気ですか?」
「私が冗談など言ったことがあるか?」
「ないですね。わかりました、それじゃひとっ走り行ってきます。また後ほど!」
「こらっ、廊下は走るな!」
馬車で宰相閣下のお屋敷に到着すると、すぐにメイド長さん達に拉致されて着替えさせられ、ダイニングルームに通される。
「お、お待たせしました」
ヒールが高めの靴まで履かされてしまい、おっかなびっくり進んでなんとか席に着く。
「その服もなかなか似合っているな」
すでに席についていた宰相閣下が言うのだが、まずは確認しなきゃならないことがある。
「これって確かこないだ服を買いに行った時に試着して選ばなかったもの、ですよね?」
「ああ、そうだ。もう一着も先日一緒に買っておいた。それも合わせて私からの報酬の一部ということで君に受け取ってほしい」
え、知らなかった。いつのまに?
「え、でも、そんなの悪いですよ。自分で払いますって」
「気にするな。もう支払い済だ」
「・・・わかりました。それならばありがたく頂戴いたします」
宰相閣下に頭を下げた。
「それから先日の店で普段使いできるような服もいくつか見繕ってもらったので、そちらも持って帰るといい」
「え、なんで?」
いやいや、本気でわけがわからないんですけど。
「最近は聖女殿に会いに行ったりして出歩く機会も増えたようだし、身なりもそれなりにしないとマズいだろうと考えただけだ」
「あ、ありがとうございます」
そっか・・・そこまで考えてくれてたんだ。
「それから国王陛下が先日の茶会で君をえらく気に入ったようでな。今後また何があるかわからないので、今日は食事のマナーを学んでもらおうと思って夕食に誘った。メイド長がつきっきりで教えてくれるそうだから、しっかり学ぶように」
「げっ?!」
気がついたら背後にメイド長さんが立っていた。
この人、もしかして気配を消せる?絶対、只者じゃないよね?!
「あら、お嬢様。淑女はそんな言葉遣いをしてはいけませんよ。さぁ、これから一緒に食事のマナーを学びましょうね」
夕食はどれも美味しかったはずだけど、味の記憶はほとんど残ることはなかった。